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夏の空へ……  作者:
第2章 2年目
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第32話 激動の学園祭Ⅳ

「んっ………。ここは…?」


オレは目を覚まして、回りを見てみる。


薬品の匂いが鼻の奥を突き刺す。


ここは……病室?


「拓海………?拓海!!!」


「拓海くん!!!」


「おわっ!?」


目覚めたと同時に、滝沢と雪穂が飛び込んできた。


いくら女子高生とは言え、自分に向かってダイブしてくる2人の体重を受け止めきることができず、背中からベッドに倒れるハメとなった。









その後オレは滝沢と雪穂の話を聞いた。


どうやらオレは丸2日眠り続けていたらしい。


その間オレは、1日目の夜に刺身に当たって入院したと言うことになっていること。


主犯の深津は拉致監禁・殺人・公務執行妨害・銃刀法違反・不法侵入の現行犯で逮捕。取り巻きたちも深津よりは罪は軽いものの逮捕されたということ。


この事を知っているのは、事件に携わった人と監督さんだけだということ。


学園祭は何事もなく終わったことを聞かされた。


そして腹を見てみると、ナイフで刺された場所がハッキリと分かる。


………こりゃ一生付き合っていかないといけないな。


オレが苦笑いで腹部の傷を見終わり、服装を直していると雪穂が涙ぐんでいるのに気がついた。


「雪穂?」


雪穂に声をかけると、雪穂はオレの胸元に頭を置いた。


「バカ…!もう目を覚まさないかと思ったじゃない…!!」


「雪穂…。」


「いつもいつもわたしを余所に一人で勝手に突っ走って…。」


オレは雪穂の言葉に申し訳無くなり、雪穂の手入れされた茶色のミディアムショートの髪を手梳のようにして優しく撫でる。


それを見越した雰囲気を察した滝沢は、病室から立ち去っていた。


つまり、オレ個人の力でどうにかしろと言うことか。


「ごめん…。」


「許さない…。」


だよな。


一個人のつまらない感情で傷付けてしまったのだから。


「謝ったところで許してくれるとは到底思ってないさ…。全面的にオレが悪いんだから。」


「………。」


雪穂はオレの胸に顔を埋めたままで、一向に顔を上げてくれない。


「オレさ………、雪穂が無事でいてくれてホントによかったと思ってる。」


「………え?」


「オレ個人的な問題で、相当頭を悩ませといて、この事件だ。もしあいつ等の手に染まってたらと考えると胸が抉られそうだ…。でも無事でいてくれた。ホントに無事でよかった…。」



上手く言葉に出来ず、そのままの感情を雪穂にぶつけた。



「な…。何よいきなり…。わたしもあんたが無事でいてくれて………ぐすっ。うっ…うぁぁぁん!!!」


雪穂はオレの言葉を聞いて安心したのか、火が着いたように泣き出した。


オレも少しだけ視界がボヤけているけど、雪穂をしっかりと抱き締める。


………半年以上忘れていたこの温もりを取り戻すかのように、オレのために涙を流してくれている幼馴染みを包み込むように優しく優しく抱き締めた。












一頻り泣いた雪穂は、滝沢と一緒に病室から立ち去った。


が、数十分後に滝沢単身でオレの病室に戻ってきた。


実は話したいことがあると滝沢に連絡を入れたからである。



「やっほ、拓海くん。また来たよ。」


「いらっしゃい。イス用意したから座れよ。あと少ないけどお見舞いのお礼。」


「ありがと。それで話って?」


イスの上に置いておいたペットボトルの紅茶と甘さ控えめのクッキーを受け取った滝沢は、オレの顔を除き混むように見つめる。


病室から差し込む夕陽で照らされた滝沢は、雪のような白い肌を赤く染め上げより一層美しく仕立て上げていた。


「オレ個人の問題で、こんなことに巻き込んでしまってすまなかった。」


「ううん。わたしは拓海くんが助けに来てくれただけで充分だよ。」


滝沢は笑顔で返してくれた。


だけど、その笑顔はきっとウソだ。


明らかに何かを圧し殺している笑顔だ。。


あんなひどい目に遭っているのに、何もないわけがない。


そう思うといてもたってもいられなくなり………、


「………辛い思い、させてごめん。」


細く華奢な滝沢をきゅっと優しく抱き締めた。



Side out




Side Y.Takizawa



「………辛い思い、させてごめん。」


わたしは拓海くんが謝りながら、抱き締めてきた。



なんで謝るの?


わたしはキミが目を覚ましてくれただけで充分なのに…。


キミが助けに来てくれただけで充分なのに…。


なのになんで………、












なんで涙があふれてくるの………?



「怖かった…。」


「うん…。」


「とっても怖かった…。」


今でも夢に出てくる発情しきった男たちの顔。


わたしを欲望の捌け口としか見てなかったような視線。


もうダメだと思った時に、キミが来てくれた。


まるでわたしを守ってくれる王子様のように見えた。


けど、キミがナイフで刺されて血が一杯出たのを見て心臓が止まったかと思った。


助けに来てくれたお礼も言えないまま、もう2度と会えなくなるんじゃないか…と。


そんな事を考え出したら止まらなくなり、家に帰ってからずっと泣き続けた。


そんなのイヤだ!と謂わんばかりに泣き続けた。


昨日の学園祭も、わたしは生まれて始めて仮病を使って学校をサボって泣き続けた。


ようやく涙が止まったかと思ったのに、キミはそうやってわたしを泣かせるんだね…。



わたしが泣いているのを見かねた拓海くんは、再びふわっと抱き締めながらわたしの背中をあやすように叩いてくれた。



暖かさを感じたわたしは、また涙が溢れてくるのを感じた。



キミはズルいよ…。



こんなことされて、惚れない女の子なんて居やしないと思うよ?



キミの暖かさに包まれながら、わたしは悲しみじゃない別の涙を流し続けた。


Side out






きっと泣き疲れたのと、ここ2日間まともに寝ていなくて寝不足だったのだろう。


規則正しい寝息を立てて眠っている滝沢の頭を優しく撫でていた。


「拓海。」


「よう。調子はどうだ?」


そこに入ってきてのは大場監督と小林さんだ。


実はこの時間を邪魔されたことに、ちょこっとだけムッとしたのは別の話と言うことにしといてくれ。


「監督。すみませんでした。」


オレは、監督に謝罪し深々と頭を下げる。


「若いからっていって無鉄砲に突っ込むのはどうかと思うぞ?」


全くもってその通りでございます。返す言葉もございません。


「まったく………。…早く帰ってこい。水野と女バスの椎名が心配してたぞ。」


それだけを言い残し、監督はテーブルにお見舞いのケーキを置いて出ていってしまった。



「小林さん…。」


「お前を救いきれず、すまなかった。」


おぉう…。第一声がそれか。


「別にいいッスよ。お陰で雪穂と仲直りできましたし。」


「………そうか。」


小林さんの顔に安堵の表情が見えた。


やっぱり娘のことが心配だったんだろう。


顔付きは厳ついけど、やっぱり人の親なんだな…。


「んじゃ、オレは行くな?」


「もうですか?」


「取り調べや後始末が残ってるからな…。それに、あと数日ありゃ退院だろ?」


まぁそうですけど…。


「お大事にな。」


「ありがとうございました。」


小林さんはこちらを振り返らず、左手をヒラヒラと挙げるだけ挙げて病室から出ていった。







監督と小林さんがいなくなり、病室はようやく沈黙が訪れた。


オレはこの学園祭期間中、様々な人たちに迷惑をかけてしまった。


オレの太ももを枕に寝ている友達と幼馴染みには、トラウマになりかねない恐怖を植え付けてしまった。


だけど2人はそれを乗り越え、オレに再び人と接する温もりを教えてくれた。



もうこの2人の泣いている顔は見たくない………。



そう決意した途端、オレの両の目から涙が溢れてきた。


拭っても拭っても、止めどなく溢れてくる。


オレは拭うのを止め、病室で一人静かに泣いた。



Side out



今作品初の3000字オーバーでした。


いやー…、長かった。


学園祭編だけで10000字以上執筆しましたからねぇ…。




次回から2年目の夏の戦いに挑みます。




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