第27話 本気でそう思ってんの?
時の流れはなんとやらで早いものでもう6月だ。
春季大会を順調に勝利し、さぁこれから甲子園予選に向けて練習だぁぁあ!!
って行きたかったんだけど、なんでも今年から学校祭優先期間だか何だかよく分かんねぇ制度が出来てしまったので、一定時間までの間オレはクラスに拘束されていた。
他の部活はインターハイ予選が終わって滝沢のバレー部や、椎名のバスケ部を始めとした球技系の部活動がインターハイに出場を決めるなどで一段落なんだろうけど、こっちはまだまだバリバリなので正直この制度はありがた迷惑だ。
ちなみにオレのクラスでは劇をやるらしい。
らしいと言うのは、オレが外の景色を見てボケーっとしている間に決まってしまったからである。
オイコラ誰だ今自業自得だろっつったやつ。
今ならデコピン20連発で許してやるから正直に名乗り出ろ。
「なぁ拓海?もし今暇ならさ、ちょっとあたしの話聞いてもらっていい?」
「んあ?何だ?」
オレは照明係に割り当てられたが、ぶっちゃけあと本番まで練習することもないので何してようかと考えていたところに椎名がやって来た。
「あー。いいぞー。暇を持て余しすぎてどうしようかと思ってたところだ。」
「ありがと。でもここじゃ話し辛いからちょっと人気のないところに行かない?」
「んで?話ってなに?お前がオレに告白でもすんの?」
オレはこのまま練習に行けるようにセカンドバッグを持って旧校舎の休憩スペースに来ていた。
旧校舎って言っても特別教室とかがあるから今は人気がないだけで、普段は授業で使ったりしているぞ?
「んなわけないでしょ!?」
冗談だって分かってんのにそこまで拒否しなくたっていいだろうが。もしオレが椎名の事が好きだったらこの時点で号泣もんだぞ?
まぁこいつは恋人ってより悪友に近い気がしなくもないこらありえないけどな。
「冗談だよ。用件はなんなんだ?」
「雪穂の事なんだけど…。」
「雪穂?」
椎名の声のトーンが明らかに低くなり、これは穏やかな内容じゃないってのが伝わる。
「実はまだ噂なんだけど、雪穂とサッカー部の深津が付き合ってるかもしれないっていう噂が出回ってるんだよね…。」
(このままだとユキちゃんが楠瀬くんの手が届かないどこか遠いところへ行っちゃうよ?)
オレは瞬間的に1年の冬に滝沢に言われた事を思い出していた。
いやまさかそんなわけない…よな?
「んで、深津って恋愛関係でいい噂なんて聞かないじゃん?でも雪穂がもし深津に弱味を握られてるんじゃないかって…。」
「まだ噂だろ?付き合ってる訳じゃ無いんだから外野のオレらが目くじら立てたってしょうがないだろ?」
「あんた本気でそう思ってんの?」
本気じゃなかったらどう回答すりゃいいんだよ……?
「楠瀬…、おい!楠瀬!!!」
「はいっ!?」
オレは松平さんに大声で呼ばれて、ようやく練習の真っ最中だと言うことを思い出した。
「お前ホントに大丈夫かよ?何か今日やけにボーッとしてることが多くないか?」
全くもってそのとおりだ。椎名に呼ばれて旧校舎での話し合いの後からオレは全く集中できていなかった。
本気でそう思ってるのか?と聞かれたからありのままの回答をしたら、一瞬怒りの表情を見せたと思ったら『だったら話し合う余地はない』という感じで強引に話を断ち切られ、お開きとなった。
「すんません…。」
「謝るくらいなら最初から気を緩めるな。練習中に私情を持ち込んでくるな。分かったか?」
「押忍。」
「分かったんならさっさと投げ込め。精度が上がってきたとはいえこれじゃ甲子園レベルじゃまだ決め球になり得ないぞ?」
「んじゃ行きます。」
心の中に引っ掛かっている蟠りを振り払うかのように…、八つ当たりのように松平さんのミットにボールを叩きつけるように投げ込み続けた。
Side out