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夏の空へ……  作者:
第1章 1年目夏
19/78

第18話 このボールしかないだろ!!

Side K.Matsudaira


立花さんからマウンドを引き継いだ楠瀬は、気迫がそのままボールに伝わっているのか定かでは無いが8回までをヒットはおろからランナーを1人も出さない完璧なピッチングを披露。


その途中で自己最速な142キロを計測したが、当の本人は今は最速とか球速とか気にしている暇があったら次のボール投げます!という感じなので全く気づいていない。




ただ打線も相手エースの西野のスローカーブとストレートの緩急の差にタイミングを狂わされ、時たま投げてくるパワーカーブで的が絞れきれなかった。


だが、粘りに粘った9回表に9番に入った楠瀬が四球フォアボールを選び、打順がトップに戻り2年の飯塚がヒットでランナー1・2塁となり2番の南田さんがセーフティー気味のバントでランナーを進めた。


そして3番でチームの柱、キャプテンの結城さんに回ってきた。



Side out



Side Yuuki


どうも。光南高校野球部主将の結城だ。


主にバッテリー陣にスポットが当たりすぎて、今まで出番がなかったわけだ。


何て言っている場合じゃない。


負けたら終わりのトーナメント戦。


しかも最終回1アウト2・3塁。


今までこんな重圧プレッシャーが掛かる打席はほとんど記憶にないくらいだ。


『3番 ファースト 結城くん』


コールを片耳に左バッターボックスに入り、足場を均して西野に対峙する。


さぁ……来い!!!


西野が投じたボールに対し、フルスイングで迎える。




Side out


ーーーガシャン!!


「ファール!!」


西野がキャプテンに投じた初球は、打球音が聞こえたと思ったら三塁側応援席スタンドのフェンスの金網に直撃した。


仕切り直しかに思われたが、西野の顔にほんの少し動揺の色が見えた。


続く2球目は球筋的にパワーカーブを投げたのか、手元で鋭い弧を描きスイングを誘うつもりだったのだろう。


だが、キャプテンが直前に放った打球が脳裏から離れなかったのかベルト高に投じられ……








ーーーバキィィィン!!!







バットが割れたのかと思うくらいの甲高い打球音が球場内に響き渡り、その打球音を発した本人は片手でフォロースルーを取ったまま固まっていた。そして軽くバットを投げ空中で1回転させ、回転されたバットが静かにグラウンドに置かれたと同時に球場内は片方は割れんばかりの大歓声、もう片方は目の前で起きた悲劇が信じられず唖然呆然としていて、中には涙を流している生徒も見受けられた。



そこで緊張の糸が切れた西野は続く4番の平野さんと5番の友沢さんにも連打を許し、6番に座る松平さんが甘いストレートをライトポール際に打球を叩き込みこの回だけで一挙6得点を上げた。


が、あとの2つのアウトを簡単に取られて9回表の攻撃が終わった。






「あと泣いても笑ってもアウト3つだ。集中力は欠けてないだろうな?」



「先輩方のお陰で集中力を高めることができたと思います。」


「よし、行くぞ!!」


「はい!!!」



先輩たちの援護を貰ったオレは、3点差のリードを守るべく最終回のマウンドへと向かった。





9回裏。


相手も凄まじい粘りを見せ、2番バッターを四球フォアボールで出してしまったが残りアウトカウント1つ。


ここで最後のバッターは……、


『4番 サード 川嶋くん』


川嶋だ。



「っしゃらぁぁぁあ!!!」


ここで終わる訳にはいかないといった雄叫びだろう。


だがな……、オレたちだってここまで来て譲るわけにもいかないんだよ。


松平さんが出すサインを見て、頷く。


ストレート。


「ッッ!!」


最近獲得した0から100の感覚。


徐々に上げていくのではなくリリースの瞬間だけ、フルパワーでボールに力を伝える。


圧倒的な球威による制圧ができない分、何でバッターを押し込めるかを考え付いた結果だ。


川嶋は捉えきれず、バックネットにファールチップを打った。


タイミングを合わせてきた……。


2球目のツーシームもバットの根っこだが、ファールグラウンドに飛んだ。


次のスライダーも見極められ、1ボール2ストライクとなった。


まずい……。


ストレートとツーシームを合わせられ、スライダーも見極められている。


って……、頭で考えてもしょうがないよな。


オレは松平さんのサインをまともに確認せず、モーションに入った。



このボールしかないだろ!!



143キロ インコース低めのストレート。


今までピッチャーをやってきて、1番のボールだった。


川嶋はインコース低めという選択肢が無かったのかまともに手が出せず……、




「ットライーク!バッターアウト!!ゲームセット!!!」


オレはこの瞬間無意識に両手を空に掲げていた。



Side out



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