第16話 後は……頼んだ
機動破壊を掲げる大館清峰高校を破ったオレたちは決勝戦まで勝ち上がることができた。
大館清峰もヤワでは無かったが、決勝戦の相手はもっと手強い。
決勝戦の相手は秋田大学付属高校……、通称秋大付属。光南高校が甲子園が出るようになる前まで、絶対王政を強いていた。
打撃力・投手力・守備力・機動力全て兼ね備えているチームで、特に投手力と守備力は秋田県どころか全国的にも上位のレベルに値するくらいだ。
秋大付属のメンバーたちは今年こそ甲子園へ行くんだ。という気持ちが全面に出ていて、鼻息が荒い……。
だが、オレたちもここで譲るわけにはいかないもんでな。
今日の先発は立花さんだ。
今日も抑えてくれる……。
はずだった。
立花さんに異変が襲ったのは試合後半の6回だった……。
Side out
Side R.Tachibana
「ッッ!!」
決勝戦だから力をセーブすることなく全力でストレートを投げ込む。
が……、
ーーーキィィィィン!!!
松平のミットに吸い込まれることなく捉えた打球は内野の頭を越えて外野に運ばれていく。
決勝戦だからオレたちを研究してくるだろうとは思ったが、まさかここまで研究してくるのは初めてだ。
キャッチャーのサイン破りや監督のサイン破り、配球パターンの傾向を読み打てるボールを確実にスイングしてきている。
自分が狙っていないボールは見送るかカットして球数を稼ぐ。
地味だけどピッチャーからしてみればたまったもんじゃない。ここまでの打席で全てが全てそうだったらよかったものの打席ごと……、厄介なやつに至ってはカウントごとに狙い球を変えてきたりしているおかげで、オレは何を投げたらいいのかサッパリ分からなくなってしまっている。
一体どうしたらいいんだ……?
オレはセンター最奥まで運ばれた打球を呆然と見送りながら、坩堝に嵌まっていた。
Side out
「楠瀬。」
「はいっ!」
「監督がタイムを掛けたらマウンドへ行けってさ。この空気を変えてくれよ?」
オレは立花さんの異変に気付いた辺りから急いで肩を作っていたが、監督がとうとう立花さんを諦めて継投で凌ぐ戦法を取ったのだろう。ベンチから出てきた伝令役の先輩がやってきた。
バックスクリーンのスコアボードを見てみると、3対0とこちらの3点ビハインドとなっていた。
オレは返事の代わりにラスト1球を少し強めにボールを投げた後、マウンドへと駆け出した。
Side out
Side R.Tachibana
この回2本目のタイムリーを打たれ、点差が3点に開き次のバッターを迎えたところでこちらのベンチが動いた。
監督がタイムを要求したと同時にいつの間にか肩を作っていた楠瀬がブルペンからこちらに走ってきた。
『光南高校 ピッチャー交代のお知らせを致します。ピッチャー立花くんに代わりまして楠瀬くん。』
そうか……、交代か……。
この様じゃ交代を告げられてもしょうがないわな。
オレじゃ食い止めることができなかったが、きっとこいつならこの嫌な流れを食い止めてくれる……、いや、食い止めて貰わないと困る。
「楠瀬……。」
「はい……。」
オレはグラブの中にあるボールを楠瀬のグラブへ託す。
「後は……頼んだ。」
帽子を深くかぶり直し、ベンチへと駆け込む。
ベンチでは慰めの言葉が飛び交っているが、そんな言葉はいらねぇんだよ。
「……すみませんでした。」
監督にようやくでた言葉だけ言い残したが、途中で聞こえてきた流れ出る涙を拭いながらダグアウトへと下がった。
「まだ試合は終わってねぇ。その涙が止まったら戻ってこい。あいつらならきっとやってくれるはずだ。」
そんな声がオレの耳に重たく突き刺さった。
Side out