第15話 機動破壊を破壊せよ
光南高校は初戦を5回コールドで勝利した後、怒濤の勢いでベスト4まで勝ち上がった。
寝違えた首を治した立花さんとオレと2年の前田さんの3人でローテーション方式で先発し、先発しなかった残りの2人で継投してここまで勝ち上がってきた。
え?冒頭の勝利の読み方が違う?
だって35ー0の5回コールドで勝ったんだもの。
途中から涙目になりながらプレーしてたから、心が割れたガラスみたいにバッキバキに折れたんじゃない?
よく分かんないけど。
んで次は準決勝。
明日は健康管理日ということで試合はない。
明後日の試合に向けてバッテリー陣対策ミーティング中だ。
ちなみに次の相手は大館清峰高校。
チームとしての特色はというと……。
「相変わらずハンパねぇな……。」
今年のこれまでの試合のビデオを見た松平さんが呟く。
35。
大館清峰がここまで5試合で記録した盗塁数だ。
ベンチ入り20人全てがどれだけ遅くても100メートル12秒台という超が付くほどの機動力野球。
さしずめ『機動破壊』といったところか?
長打が打てなくても、転がせば俊足をかっ飛ばし内野安打をもぎ取る。
塁に出れば次の塁も盗むという貪欲な姿勢。
守備でも俊足を生かしたみなが皆広い守備範囲を持っている。
徹底的に相手チームを揺さぶり、絶望を叩き込む。
それが大館清峰高校というチームだ。
「んでどうするんです?」
オレが対策案を松平さんと立花さん、前田さんに聞いてみた。
「よく見たらこいつら偽盗も上手いし、気配を消すっつーかいつ走ってくるかわかんねぇし……。」
「かといって外し過ぎてカウントを悪くするとかえって自分達の首を絞めることになるからな。多少走られてもいいから一人一人打ち取っていくしかねぇな……。」
「…………。」
前田さんと松平さんは対策案を出したが、立花さんは何も言わずずっとビデオに食いついていた。
「?……立花さん?」
「ん?どした?」
「いや、対策案を……。」
「松平の対策案でいんじゃないか?」
それだけ言い残してまたビデオを見ることに集中し始めた。
立花さんはなんでそんなに必死に見てるんだろう……?
Side out
Side R.Tachibana
実はというとオレは機動力野球は好きではない。
だが、好きではない機動力野球を封じ込めることは大好きだ。
なんでかって?
まずオレは左投であること。
次にポーカーなどの腹の探り合い……、言い方を良くすると心の読み合いで負けた記憶がないこと。
最後に……、
ーーピッ!!!
オレはボークギリギリのラインから1塁へ牽制球を投げる。
1塁ランナーは一瞬セカンド方向へ身体が傾き、牽制ということで頭から滑り込む。
「アウト!」
が、戻ることができず1塁ランナーはアウトとなり、相手ベンチにすごすごと戻っていった。
実はオレは、牽制やクイックなどのフィールディングが得意中の得意なのである。
こいつらは実は仕掛けてくるとき本人たちには気づかないであろう癖が存在している。
細々とあるが明確に違うのが、リードの幅が違うということだ。
1歩でも1センチでも早く次の塁を狙うが余り、無意識のうちにリードの幅を広げてしまっているのだ。
対策ミーティングの時点では確信が持てなくて発言ができなかったが、この試合先発登板して3回程盗塁させられた事によって初めて見破ることができた。
あとは癖を見破っちまえばこっちのもんだ。
相手がオレのモーションに対して呼吸で合わせているなら敢えて呼吸をズラしたり、ギャンブルスタートを仕掛けてきたとしても落ち着いて処理をする。
……まぁ万が一走られたら松平のレーザー送球もあるし。
そのお陰かバッターも苛立っているし、守備の時もその動揺を隠しきれていない。
ここまで来れば自慢の機動破壊野球を破壊したといってもいいだろう。
オレは力一杯腕を振るう。
ここ最近で精度を上げたカーブで、死神の鎌の如く大館清峰高校打線の息の根を止めた。
Side out
光南高校 6ー0 大館清峰高校