表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夏の空へ……  作者:
第1章 1年目夏
15/78

第14話 緊張は取れたか?

試合開始の整列後、後攻のうちは先に守備に着いた。


マウンドに上がったオレは規定数の投球練習をしているのだが……。



「ピッチャー、腕振れてねぇなぁ!」


「あのピッチャー1年らしいぜ?」


「強豪だからってナメた真似してくれてんじゃねぇか!あぁん!?」



ヤバい。


本気と書いてマジでヤバい。


この試合立花さんが右首を寝違えてしまい、急遽オレが先発登板することになったが腕が振れない。


やべぇよ……やべぇよ……。


今までの野球人生を振り返ってきて、ここまで緊張したことはなかった。


落ち着け!と願うオレの意思とは反比例で、心拍数がどんどん上昇していく。


随分と態度の悪い相手チームの応援席からのヤジもしっかり耳に入ってきているが、これだけはハッキリ言っておこう。


別にナメてはない。


オレが(変なとこで冷静だけどそれ以外は)テンパってるオレを他所に、松平さんがボールを捕り、座ったままセカンドへノーバウンド送球するという超が付くほどの強肩を披露し、内野のボール回しした後ファーストの先輩からボールを受け取る。


ロジンバッグに手をやり、いつの間にか試合開始のサイレンが球場全体に鳴り響いたと同時に相手チームのブラバンによるヒッティングマーチを耳に、サイン交換に応じた。



Side out



Side K.Matsudaira


左バッターボックスに入った先頭打者を観察した後、要求するボールを考える。


さて……どうしたもんか。


まずは緊張でガッチガチに固まっている楠瀬をどうにかして解さなきゃ話にならん。


腕が振れてないだけで、ボールの威力は悪くない。


しかもこのチームはどのバッターもタイミングが合わなければどんなカウントでも高確率で見逃してくる。


とりあえず初球はストレートをど真ん中に要求。


が、ベース手前でワンバウンド。


「ヘイヘイ!ピッチャービビってんのかぁ!?」


「お子ちゃまはミルクでも飲んでおねんねしてな!」


……うるせぇなぁ。少しはヤジ飛ばすの抑えろよ。


審判に注意されても知らんぞ?



次のボールも同じボール。


ポンポンとミットを2回叩いた後、ど真ん中に構えた。


が、楠瀬が投じたボールはすっぽ抜け……、











相手バッターの背中にぶつけてしまった。


たまらずオレは苦笑い。


「何うちのキャプテンにボールぶつけとんじゃゴルァ!!」


「ふざけとったらボッコボコの火だるまにしてやんぞオンドリャア!」


うるせぇを通り越して最早すげぇなぁ……。相手チームの中に何人かヤーさんがいるんじゃねぇの?ってくらいのヤジだ。


相手チームのヤジを他所にぶつけてしまった楠瀬は帽子を取り、謝罪の態度を取る。


「うちの1年がすんません。」


「緊張でガッチガチになるのはしゃーない。それよりうちのやつらが暴言を吐いてしまってすまないな。」


オレも一応謝っておこうとマスクを被ったままバッターに謝罪すると、逆に応援のヤジに関して謝られてしまった。


よかった。全員が柄が悪いと言うわけではないようだ。




……さて、相手チームのキャプテンさんには悪いけどマウンド上のピッチャーさん、緊張は取れたか?



Side out



先頭バッターの背中にぶつけてしまい、相手チームからの凄まじいヤジが飛んで来ているのに対してオレは逆に落ち着いていた。


というか開き直っていた。


ぶつけてしまったもんはしゃーない。


人間なんだから緊張するなって言われても誰だって緊張しなかった人なんていない。


帽子を取り、滴る汗をアンダーシャツで拭った後セットポジションの体勢に入る。



正直クイックモーションの速さには自信はあるとも無いとも言えねぇけど、走られてピンチを広げたくはねぇな……。


1塁ランナーを目で牽制し、投球モーションに入ると……。




「「スチール!!!」」




一気に主導権を握りたいのか、すかさず盗塁を仕掛けてきた。


しかも要求されたボールは低めのスライダーだ。


無理に修正しようとするとかえって暴投ワイルドピッチになりかねない。



ボールもリリースするの直前なので、何とかしてくれという思いで普段より腕を振り地面に叩きつけるように投げる。



バッターはスイングをして盗塁する1塁ランナーをアシストしようとする。当然判定はストライク。


平均レベルのキャッチャーならランナーを刺すのはかなり難しいか、無理かの2択だ。


だが、うちの正捕手は中腰の半身でショートバウンドされたスライダーを捕球。キャッチして引き上げたミットを右耳付近まで持っていきながら素早くボールを握り変え……、






ーーーーヒュバッッッ!!!





電光石火よろしく放たれた送球はベースカバーに入った遊撃手ショートのグラブに正確に修まり……、


「アウトォ!」


ランナーを刺した。



「楠瀬!!全力で腕振ってボール投げてこい!」


プロやメジャーリーグでもそうお目にかかれないビッグプレーをしたにも関わらず、さらっとしている松平さんの声に頷き自分ができる最大限の仕事をすべく息を深く吐き込んだ。



Side out



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ