第11話 試練のマウンド
合宿9日目。
とどのつまり練習試合だ。
1試合目の先発はオレ。2試合目の先発は立花さんだ。
1試合目の相手は昨夏の甲子園優勝校である群馬県の前橋幾栄高校。
2試合目は少し休憩を挟み、一昨年春のセンバツ優勝校の埼玉県浦話学院高校。
オレらとは直接関係ないけどオレらが終わったら前橋幾栄と浦話学院が激突するという激アツなカードも実現する。
甲子園優勝校と試合出来るなんてそうそう出来ることじゃない。
もしオレのピッチングが通用するとするならば……。
……いやそんなに甘くねぇか。
取りあえず今持ってる力を全て出しきるだけだ…。
試合は5回まで終わった。
5回を終えた時点で球数は100近くも要してしまった。
普段と違いボールが走らないし、微妙なコントロールが定まらない。
身体が重い……。
何とか2失点に抑えているけど、バットの芯で捉えられている。
それをバックの皆さんに助けて貰っているという状況だ。
そしてバッテリーを組んでいる松平さんは頑なにツーシームのサインを出さない。
試合中でも何度も首を振っているのに頑なにストレートとスライダーのサインしか出してくれない。
……いったいどうすればいいんだ?
Side out
Side K.Matsudaira
試合は7回の表まで進み、とうとう楠瀬は前橋幾栄打線に捕まった。
先頭バッターを四球で出した後、2連打の後に相手の3番と4番に3点本塁打と単独本塁打を浴びてこの回だけで4失点。
そして未だノーアウト……。楠瀬はロジンバッグを手の上でパタパタと弄んでいる。
でも1年ながらよくやるよ。
これまで1球たりとも置きに来たボールが無い。
「すんません……。タイムお願いします。」
楠瀬がタイムを要求してきた。
マウンド上の楠瀬は普段のようなどこかおちゃらけたようなどこか楽しんでいるような表情が完全に消えており、帽子を深く被りこちらからは読み取れない。
やべぇ……!!アクシデントか……!?それとも限界か!?
オレは急いでマスクを取り、マウンドに駆け寄った。
「どうした?」
「松平さん……。どうしたらこれ以上打たれないで……ランナーを出さないで済みますか?」
オレは正直、今まで楠瀬の事をを誤解していたかもしれない。
小生意気でいつもヘラヘラしているようなガキだと思っていた。
だが今はどうだ……?
いつもの表情は既に消え去り、完全に野性の獣のような……それほど冷たく鋭い目をしていた。
「早く!……つーか何時なったらツーシームのサイン出すんすか。」
それでも遠慮なくズカズカ言うのは変わらないけどな……。
「ふふっ……。ハハッ……。ハッハッハ!!!」
オレは思わず笑いが出てくる。
なぜ笑うんだ……というような楠瀬やバックのみんなを置いてけぼりして大声で笑う。
何だよ……。やっぱコイツも根っからのピッチャーなんだな。
ピンチを切り抜けた時は感情を爆発させ、その時は平然としている。
……んの癖に打たれると悔しがり、腐ることなくバッターに向かっていく。
これだからキャッチャーってのはおもしれぇんだよ!!
「いやー……。悪い悪い、やっぱお前面白いわ。連打からのスリーラン、極めつけのソロホームランも打たれたら並のピッチャーなら腐るなりへこたれたりと、まず耐えられんだろうなぁ。だけどお前はすげぇよ。なんせまだ打ちこまれた相手を捩じ伏せようとしてんだ。大したもんだ。」
「そっすか……。」
「話がそれたな。取りあえずツーシーム解禁して、そっからペース建て直して行くぞ!いいな?」
「うっす。」
「お前が持っている全ての力を見せてみろ!」
「押忍!!」
返事を聞いたので、ミットの背でドンと相手の胸を叩いた後オレはホームへと戻る。
「あはは……。時間取らしてどうもすんません。」
オレはバッターと審判にタイムが長かった事に一応謝罪をした後、しゃがみこむ。
ここからが踏ん張り所だ!
さっきも言ったがお前の力を余すことなくみんなに見せつけろ!!!
オレは要求するボールのサインを出した。
Side out