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夏の空へ……  作者:
第1章 1年目夏
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第10話 新球とその評価

Side K.Matsudaira


合宿の日程は4分の3が過ぎ、8日目に差し掛かった。


昨日のミーティングで明後日2試合、合宿最終日は1試合の計3試合の練習試合組んだことが発表された。


明後日は楠瀬と立花さん1試合ずつ。


最終日は前の日に出なかった選手が出るとの方針だ。


だけど気になることも無いわけではない。


最近楠瀬は新城とよくブルペンに籠っているが……何を企んでいるんだ?


「松平さんちょっといいっすか?」


丼に盛られた米を朝メシのおかずであるサバの焼き魚の切り身と卵を混ぜた納豆で掻き込んでいるところにその件の男がやってきた。


「おう。隣空いてるぞ。」


失礼しやすと言いながら、オレの隣の席に座ったと思ったら冷蔵庫から卵2つと牛乳を持って来た。


「んで何のようだ?」


「今日学校終わったらちょっとだけでいいんで受けて貰ってよろしいですか?」


「新城と共同していたやつの御披露目か?」


「まあそんなとこです。」


「分かった。少しだけ時間を取ってやろう。」


「あざっす。」


「んじゃお先。」


オレはお盆の上に置かれている食器を洗い場まで持っていき、箸とコップを洗ったあと学年で指定されているところに置いたあと制服に着替えて学校に向かった。



Side out



学校が終わり、練習に入ってからオレは松平さんと一緒にブルペンに入った……が、


「立花さん?どしたんすか?」


そこにはヘルメットを被り、バットを持った立花さんがいた。


「いや、松平が楠瀬がもしかしたら新球投げるかもしれないって言ってたから気になって来てみた。」


口軽ぃなぁあの人。


「立花さん、もし腑抜けたボールが来たら打ってもいいらしいですよ?」


「あんた何言っちゃってんの!?」


ブルペン内で軽くキャッチボールしながら立花さんに打ってもいいと言う松平さんの発言にすかさずツッコミを入れる。


「分かった。」


「分からないで!!」


うわー。後輩潰しこえぇよぉ。助けてゆきほー。





「んじゃそろそろ行きます。」


ちょっとした茶番劇もそこそこに、プレートのところにいきついたオレの声と共にマスクを被り、しゃがみこむ松平さんに無言の威圧を纏った立花さんが左のバッターボックスに入った。


立花さんはバッティングも巧い。


強打者という訳ではないけどコースが甘く入ったりすると逃すことなく仕留めるタイプだ。


(この2人に見られるとすっげぇ緊張するんだよなぁ……。)


そう思いながらモーションに入る。


松平さんのミットは立花さんのベルトより少し下に構えられている。


モーションの途中でオレは頭の中でリリースポイントからミットまでの空間に1本の糸を投影する。


投影された糸に丁寧にボールを乗せるような感じでボールを投じた。


Side out



Side R.Matsudaira



ドパァァン!!


楠瀬が投じたボールは立花さんの懐を抉るかのように向かっていったと思ったらバッターの手元で小さく沈むようにしてオレのミットに収まった。


「ツーシームか……?」


「……じゃないっすか?」


立花さんはゆっくりとフォームを解き、楠瀬の新球の正体を予測する。


ツーシーム。


ここ最近日本のプロ野球でも多くのピッチャーが投げる動く(ムービング)系の球種。


ストレート……正確に言えばフォーシームはボールの縫い目に対して平行にして握り、ボールが1回転するのに縫い目が4つあるので生まれる空気抵抗が小さく、ボールにノビが生まれる。


それに対してツーシームはボールの縫い目に対して垂直に握り、ボールが1回転して縫い目が2つしか無いのでフォーシームに比べてボールの縫い目で空気を掻けない。


そのため空気抵抗を受けるため途中までストレートの軌道を描き、バッターの手元でピッチャーの利き手方向に小さく沈む球種だ。


「立花さんから見てどう見えました?」


「完成度はまだあまり高くは無いが、楠瀬のフォームの特長もあって気付いたときにはもう手元まで来てきた感覚だ。」


「となるとあとはキャッチャーの仕事ってことですね。」


「そうだな。」


「ま、幸い練習試合があることですしそこで試してみますよ。たぶんアイツもそう思ってるはずですし。」


「期待してるぞ。」


「はいはい。分かってますよ。」


Side out


自分でも思ったよりもいい感触だったので思わず松平さんに聞いて見た。


「どうでした?」


「んー。いいんじゃねぇの?」


どうやら及第点のようだ。


よかったー。これで駄目だとか言われたら新城に厳しく指摘され続けてきた意味が無くなる。


構えたところに寸分の狂いなく……とまでは行かないけど大雑把な制球コントロールは制御できるまでは行った。


「明後日の試合ツーシームのサイン出してもらって、どこまで通用するか試してみたいっす。」


「分かった。分かったからそんな鼻息荒くすんな。そんときなったらサインか合図出すからキッチリ投げ込めよ?」


「はい!」



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