第9話 合宿期間中の日常
伝統の合宿は学校の施設を使うので、平日の午前中は学校に行き授業を受ける。
メンバー外の奴等はそうでもないが、メンバー入りしている選手は……というかオレは……。
「おーい、誰か楠瀬を起こしてやってくれ。」
「先生、寝てないっすよ?ただ上を見てただけですよ?」
必死に眠気に耐えていた。
ここのところの練習メニューはまず朝は6時起床でA班とB班に別れてティーバッティングとスイング。
ティーバッティングは50球入っているケースを3セット。スイングする人たちはそれぞれ考えながら100スイング。それを交代しながら約90分みっちり。
学校が終わったらすぐさま着替えてそれそれバッティング練習やフィールディング練習、バッテリー陣はキャッチボールの後にブルペンに入る。
その後にバッティングの日ならケースバッティングやピッチャー陣がバッティングピッチャーを務めるフリーバッティング。
フィールディングの日ならランナーの有無やアウトカウントを確認しつつのケースノック。
それが一時休憩を挟む。
休憩の間にマネージャーさんが握ってくれたおにぎりや差し入れのバナナなどの補食を食べてエネルギーを補給する。
休憩が終わったらランメニュー。A班とB班に別れてポール間インターバル走orベースラン。
最後はジョグでグラウンド5周。
練習時間は4時から9時半くらいまでのおよそ5時間。
それから夜メシを食べたり風呂に入ったりして消灯は11時。
キツいとは聞いていたけどここまでキツいとは思わなかった……。
あぁ~。先生の言ってる事がラ○ホーやスリ○ルの呪文みたいで眠たくなるんじゃぁ…………。
Side out
Side Y.Kobayashi
後ろに座っていて机に突っ伏して夢の中に旅立っている 幼馴染み(たくみ)を見る。
もう……。よだれ垂らしてるじゃん。
確かに夜遅くまで先輩たちに食らいついているのはよく分かるし、甲子園予選のメンバーになれるようにわたしも応援している。
だけどさ……、
「ゆきほー……。水くれー……。」
あ ん た は ど ん な 夢 見 て ん だ ! ! !
ツッコミどころが多すぎてどこからツッコんでいいか分かんないし!!
なんでわたしがあんたの夢に出てんの!?
ていうか何で水!?お茶じゃないの!?
しかも普段出さないような甘えた声!!!
聞いてるこっちも恥ずかしくなってくるわ!!
とりあえずわたしはペンケースの中に入っているシャーペン(シャー芯0,3)を取りだしノックして、ある程度芯が出たのを確認すると、短くしている髪の皮膚に向かって軽く刺した。
Side out
「おいゆきぽゴルァ!!人が寝てるところに何しやがってるんでごぜぇやすか!?」
オレは寝惚けながら頭を上げるとそこには雪帆がシャー芯を出したシャーペンがあり、オレの頭にさっくりと刺さった。
幸い血は出てないが、目覚めの一撃には十分すぎる威力で刺さった。
「あんたが寝るのが悪い。って言うか何であんたの夢にわたしが出てきたわけ?寝言が盛れてたんだけど?」
「え?マジ?」
「マジも大マジ。わたしすっごく恥ずかしかったんだから……。」
「お……おう。わりぃ。」
「その……わたしも悪かったわよ。いきなりシャーペン頭に刺してさ……。」
本来なら100対0でオレが悪いわけなんだが、雪帆は顔を少しだけ赤くしてオレに謝ってきた。
何だかボソボソと言ってるみたいだけど生憎オレの耳にはその言葉は届かない。
「お、オレ昼メシ食ってくるわー。」
「はいはい、いってらっしゃい。」
このやり取りを見ていた女の幼馴染という存在がいない男たちには刺激が強すぎて、純愛や幼馴染み同士のカップリングが大好物な女の子たちにも刺激が強すぎて口から砂糖を吐き出したり、唐突にブラックの缶コーヒーを買いに行く人が続出したのは別のお話。