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対面④




 カルネイラ=ラル・イゼルフォン、その名前に覚えは無かった。

 おそらく当主が死に、代替わりした結果なのだろう。


「ここで少し話を脱線させて、国際状勢について話しましょうか。

 これは私が分析した限りの話ですが、貴方が何もしなくとも、このままではティステアは100年以内に滅びます。

 ティステアもゾルバも、双方共に広大で豊かな国土に巨大な文化力と経済力を誇り、それに加えて100万の軍隊からなる強大な軍事力を抱えています。現在大陸には23の国がありますが、ティステアやゾルバと真っ向から戦争をして勝てる見込みがあるのは魔導大国のゼンディルぐらいでしょう」


 それについてはおれも同意できる。

 この大陸で大国と呼べる国は8つあるが、その中でもミネアの言った3国は頭1つ分、2つ分は飛び抜けている。

 領土が離れている為まずあり得ないが、もし残る5ヶ国が3ヶ国のいずれかと戦争をした場合、3ヶ国側が勝つ事は揺るがないだろう。


「ですが、同じ100万の兵力であっても、ティステアとゾルバとではその内約は大きく事なります。

 ティステアがその100万が神殿や5大公爵家を除く各貴族の兵力を合わせた数なのに対して、ゾルバはその100万全てが中央に集約している。見掛けは同じですが、その差はとても大きい。

 ティステアは今までその差を守護家の能力者という質で補って来ましたが、その質の力を3年前に大きく減らしています。今でこそある程度立ち直ってますが、当時隠蔽に失敗してゾルバに勘付かれていれば、その国土も大きく減らしていたでしょうね」


 ゾルバがエルンストの事を知ったのは、連中の言葉を信じるならばちょうど1年前。

 その頃には混乱から脱し、軍事力の多くを失いながらもゾルバと戦争した際に真っ向から戦っても長期間対等に渡り合う事ができるくらいにまで立ち直っている。

 大陸の最東端に位置するティステアと違い、反対側にも国を抱えるゾルバにとって長期間の大きな戦争というのはリスキーである。それ故にエルンストの事について気付きながらも、既に時遅く戦争を仕掛ける事ができなかったのだ。


「しかしいくら立ち直ったと言えども、失われた軍事力が元通りになる訳ではありません。いずれはその差がネックとなり、徐々に国力を落としてゾルバに併呑されるでしょう。

 そしてそのティステアの寿命をこの先大きく削るであろう方が、他でもないカルネイラさんです。

 最終的目標とは違いますが、このカルネイラさんを排除できるかどうかが私たちの――つまりは私の父とゼインさんの目的達成に大きく関わってきます。その手伝いを、貴方にはして欲しいんです」

「その最終的目標とやらを達成する協力しろとは言わないんだな」

「父たちの言う最終的目標とは、手段こそ大きく異なりますが、タカ派の総意と同じ秩序の再構築です。

 そしてそこから更に発展させて、緩やかに崩壊に向かって行っているティステアを存続させる事です。しかしティステアに敵対する事を目的に戻って来ている貴方とでは、その最終的目標は相入れないでしょう」

「別におれは、ティステアを滅ぼす事が目的な訳じゃない」


 単純にエルンストの殺害に関わった5大公爵家の者全てを殺す事が目的であって、結果的にそれがティステアの破滅に繋がろうが、それはおれの行動の副次的結果であって目的自体ではないのだ。

 勿論必要とあれば、関わった者を始末する為に無関係の者を手に掛ける事も、ティステアそのものを滅ぼす事だって厭わない。

 しかし、あくまで目的自体には入ってはいない。

 さすがに最初からそれを目的に行動して、勝てるとは思っていない。


「それにその理屈でいけば、おれがそのカルネイラとやらを排除する事に協力する理由も無くなる」

「いいえ、少なくとも理由はありますよ。何故ならばカルネイラさんは、3年前の作戦に参加し、尚且つその事後処理の隠蔽を一手に引き受けてやり遂げた張本人ですから」

「…………」


 剣を握る手の力が強まり、柄から軋んだ音がする。

 カルネイラとやらが事後の隠蔽処理に尽力した事ぐらいは容易に想像がついた。他でもない情報を司るイゼルフォン家の当主なのだから。

 その事自体に文句を言うつもりはない。それがそいつの仕事だからだ。

 だが3年前の作戦に参加していたのならば話は別だ。


「……待て」


 そこで矛盾に気が付く。


「お前はそのカルネイラが、ティステアの寿命を削るであろう張本人だと言っていたが、もし本当にそうなら何故そのカルネイラがティステアの隠蔽処理に尽力する?」


 もしこいつの言う通りならば、むしろ積極的に情報を流すか、そうで無くとも隠蔽処理の手を抜くなりして然るべきだろう。


「……それが、カルネイラさんという人物の厄介なところなんです。あの人は、極めて歪んだ愛国心の持ち主なんです」


 両の瞳に暗く淀んだものを宿らせて語る。


「あの人はティステアを深く愛しています。しかしそれはティステアという国では無く、ティステアという国が生み出す混沌としたものに対してという意味なんです。

 人間の醜悪さや、それから生まれる負の現象こそがあの人の好むものであり、いずれはそれを楽しむ為にティステアという国そのものすら材料としかねないんです。

 極端な話、あの人はティステアという国が存在していたという事実さえ残っていれば良く、国土が削られようが気にしない――いえ、それどころか嬉々としてそれを受け入れるでしょう。

 3年前にティステアに大きく貢献した理由は、単にあそこでティステアに滅ばれれば長く楽しめない、ただそれだけの理由なんです」

「混沌願望者、か……」


 おれには到底理解できないが、破滅願望に酷似したそういった願望を持ち合わせた者がいる事は知っている。

 主に魔族に存在する事が多いが、稀に人間にもそういった者は現れる。

 そしてその者が優秀な能力を併せ持っていた場合、いよいよ手が負えない。


 だが、同時にもう1つの疑問も生まれる。

 まさかティステアが緩やかに崩壊に向かっているという事に気付いているのが、こいつとその父親、そしてゼインという名前のウフクスス家の者だけでは無いだろう。

 ティステアの貴族は、5大公爵家はそんなに無能ではない。むしろ有能なくらいだ。

 だからこそティステアは1度は大陸を統一し、その後も大陸でもトップクラスの大国として名を馳せているのだ。

 エルンストに立ち向かったという事を抜きにすれば、完璧と言っても差し支えない。


 その5大公爵家の連中が、そんな危険な奴を普通野放しにしておくか?


「先に言いますと、父たちはティステアを存続させる為ならば国土を削る事も止む無しと考えています。国力こそ1時的に落ちますが、それによって腐った部分を切除できれば、長い目で見ればティステアの益となるからです。要するに、貴方の行動は黙認できるんです。

 ですがそれは他のウフクスス家と、何よりアルフォリア家とは相入れません。この2家は、国土を削る事を前提に国を立て直す事よりも、国土を削らずに国を立て直す事を前提に方法を模索するでしょう。それこそ威信と誇りを賭けて。

 そしてその為には、カルネイラさんの能力が必要不可欠なんですよ。あの人は現イゼルフォン家の中で最も優秀ですから、換えがきかないんです。なまじ当人も今のところはそのつもりですから、尚更たちが悪い」

「本当に厄介だな」


 切り捨てなければ破滅は免れず、かと言って切り捨てたとしても破滅は免れない。

 まさしく手の出しようが無い。


「何より、父のやり方で国が立て直せるかどうかは、私が分析した限りでも半々です。

 詰まるところ、エルンストさんに手を出したのが運の尽きだという事です。あの作戦で優秀な方々の多くが命を落としましたからね」


 ですが、とミネアは続ける。


「今のやり方では、ティステアが存続できるかどうかはカルネイラさんの胸先三寸という事になってしまいます。それをどうにかする為にも、貴方の協力が是非とも必要になります。

 もし手を組んで頂けるのでしたら、微小ながらカルネイラさんを排除する為ならば協力を惜しまないそうです。どうですか?」


 つまりは、害を齎す存在を排除してくれ、その為なら力を貸す。

 長々とした説明がなされたが、要約するとこんな感じだろう。

 それに対する返答は、既に決まっていた。


「断る」


 当然、受ける訳が無いに決まってる。











今年最後の投稿になります。

来年もよろしくお願いします。

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