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対面③




「……ああ、随分と禍々しいデザインの剣ですね。これは魔剣ですか。それが無能者である貴方の実力を支える手札の1つという訳ですね。

 下手に持っても発狂するのがオチですが、適合さえすれば持ち主に大きな力を与える代物。それは持ち主が無能者であっても変わらないようですね」


 眼前の少女――ミネアが口にしたのは、既に抹消され捨て去ったかつてのおれの本名だ。

 それが口に出た瞬間におれは剣を抜き、ミネアの首に添えた。

 その添えられた大剣を、ミネアは顔色1つ変えずに当たり前のように眺めていた。


「ひとまず落ち着いて欲しいと、そうお願いします。私は能力者ではありますが、あいにく能力は戦闘向きではありません。おまけに保有魔力も然程多くありませんから、貴方がその気になれば1秒掛からずに瞬殺されてしまいます。それどころか、あの3人の中で最も戦闘力の低いシロさんにすら勝てません」


 あくまで淡々と、首筋に剣が添えられている事など問題ではないように語る。


「ですが貴方も初対面の、それもウフクスス家の者である私に気を許す事は難しいでしょう。ましてや私は貴方のかつての名を口にしている。警戒するのも無理はないでしょう。ですので剣はこのままで構いません。

 しかしできれば傷は付けないようにお願いします。首に刃物による傷が付けられれば、本家の方に誤魔化すのが大変になってしまいますから。

 勿論、もし貴方が私が害ある存在であると認識した場合はその限りではありません。その時は遠慮なくこの首を刎ねて頂いて結構です。それで対話ができるのならば安い条件です」

「……何が目的だ?」

「早速本題に入りますか。そういうのは嫌いではありません。無駄がありませんので。

 こちらの用件はただ1つです。私と手を組みませんか?」

「…………」


 おれが誰なのかを知っていて、そんな申し出をする。

 普通ならば正気を疑う。だがこいつは大真面目だと、眼が言っていた。


「先に言いますと、貴方が懸念しているであろう事は杞憂であると申し上げます。

 貴方がかつて存在ごと抹消されたアルフォリア家の廃嫡子である事に気付いているのは、おそらく現状では私だけです。そして何故気付いたのかと言えば、それが私の固有能力であるからです。

 能力名を【並列演算】と言いまして、まあ端的に言ってしまえば、途轍もなく頭が良くなる能力であると認識して頂ければ結構です。

 この能力を使って、貴方の名前とウフクスス家にある今までに起きた騒動についての記録と過去の記録を元に私なりに推測を立ててみました。そして先ほどこの店を訪れてシロさんに鎌を掛けてみたのですが、どうやら正解なようで安心しました。

 ああ、決してシロさんを責めないでください。シロさんが馬鹿だったのではなく、単に私の頭が良かったというだけの事です。それなのにシロさんを責めるのは酷すぎるというものですから」


 つらつらと早口に、しかしあくまで淡々と言葉を連ねるその様は、強気そうなその顔も相まってやはり馬鹿にされている印象を受ける。

 だがこいつにおれを馬鹿にしようなどという意図は皆無だろう。それぐらいは分かる。

 つまるところ、単に顔で損している。ただそれだけの話だ。

 だからイラついてはいけない。冷静さは欠くべきではない。


「手を組みたい、ね。その話を呑むとでも思っているのか?」

「ええ、思っています。まず申し上げますが、私は3年前の作戦には無関係です。勿論、私の父もです。

 3年前の――貴方の恩師であるエルンストさんを殺す為に動員された16の師団。その師団の中に父が師団長を務める第6師団は入っていません。その辺りはシロさんに確認して頂ければ結構です」


 エルンストを殺す――その言葉に3年前の光景が眼に浮かび、微かに腕が震える。


『貴方の師であるエルンスト・シュキガル。それを殺した存在について知りたくはありませんか?』


 ゾルバからの使者を名乗るその男は、おれにそう語りかけて来た。

 今は大丈夫だ。おれは平静を保てている。

 あの言葉を聞いて激情に呑まれ、見境なく暴れて使者を名乗る男を半殺しにしてしまった当時ほど未熟ではない。


「どうやら、大体の事は知っているらしいな。なら尚更、おれがそんな要求を呑む訳が無いと分かっている筈だが?」

「いいえ、貴方は私の申し出を断らない筈です」


 自信満々という訳ではないが、ある種の確信を持った口調で断言する。


「私の読みが正しければ、貴方は合理的判断を下せる頭と理性の持ち主です。

 まあ貴方のやろうとしている復讐が合理的かどうかと問われれば答えは否ですが、それさえ眼を瞑れば貴方は合理的な判断の下で私の申し出を受けるでしょう。少なくとも私はそう分析しています」

「その分析結果が間違ってるとは思わないのか?」

「思いませんが、もし仮に間違っていたとしても、その時はその時です。私の持つ能力なんてちっぽけなものですが、それでも私は私の能力に自信を持っています。その能力を信じて出した答えに従ったのですから、分析した結果が間違っていて殺されたとしても、後悔はありません」

「…………」


 少なくともおれが見る限りでは、こいつは本気でそう言っているように見えた。

 つまりそれだけ、こいつが口にした事が本当なのならば、固有能力である【並列演算】というものに対して絶対の自信と信頼を置いているという事だ。


「まず、こちらの事情について順序立てしてお話ししましょうか。

 現在ウフクスス家は、大きく分けて2つの派閥に割れています。所謂タカ派とハト派ですね。

 タカ派に属しているのは、3年前に作戦に参加する事を拒否した第3、6、11、13の4つの師団で、ハト派はそれ以外の師団です。まあハト派の中にも中立派が紛れているかもしれませんが、どうせ呑み込まれるので置いときましょう。

 タカ派の者たちは、3年前の作戦には反対の立場を表明していました。ウフクスス家の役割はあくまで国内の秩序を守る事にあり、何の法も犯した訳でもないエルンストさんに手を出すのは間違っているし、それに手出しをするのは危険過ぎると。

 対するハト派は、エルンストさんを排除する事こそ秩序を守る事に繋がるとして主張は真っ向から対立しました。

 そこに当時の当主がハト派に加担した事によってハト派の主張こそがウフクスス家の総意という事になり、またウフクスス家の総意に背いたタカ派の者たちは処断するべきとの声も出ました」

「話を聞く限り、タカ派とハト派が逆のようだが?」

「確かにそうですね。しかし、それについてはこの後で納得して頂けるかと」


 だから口を挟まずに黙って聞け、そう暗に言われておれは口を閉じる。


「その時は作戦の実行時刻が差し迫ってした為に処分は保留され、結局ハト派の者たちのみが作戦に参加しました。そして結果はご存知の通りです。

 当時の当主に加えて師団長のうち13人が死亡し、師団員も数百人が死亡ないし再起不能の重傷を負い、末端の構成員の死者数など計り知れません。最終的にはウフクスス家だけでも死者数は4桁にも上ります。

 その結果からタカ派の主張こそが正解であったと間接的に証明されまして、処断云々の話は露となって消えました。ですが新しく当主となった者はその作戦に参加していたハト派の者で、それを不満に感じたのがタカ派の者たちです。

 曰く、誤った判断をして多数の死者を出し、あまつさえ秩序を乱した者が当主となるのは間違っていると、そういう事です。そしてそれに続いて、今のタカ派の者こそが当主となるべきだという声も噴出してくる訳ですね。

 また、これを機にウフクスス家の守るべき秩序について1から見直す事も主張の1つでもあります」


 なるほど、それでその4つの師団がタカ派を――改革派を謳っている訳か。

 それにしても、


「それでも結局行き着くのは、派閥争いか。まったく救いようがないな」

「返す言葉もありませんね。ただ、それがタカ派の総意という訳でもありません」

「同じタカ派の中でも、更に派閥争いがあるという事か?」


 そうならば、更に救いようが無い。


「そう言われても仕方が無いかもしれませんね。ですが、こっちは真剣です。

 私の父と、そして第11師団長であるゼインさん。たったこの2名だけですが、やや目的が違います。

 誤解しないで欲しいのですが、秩序を守るという目的自体はどこも変わりません。まあ私個人としてはそんなものはどうでも良いですが、それについて語りますと話が脱線しますので今は置いておきましょう。

 タカ派の大部分の方たちにとっては、秩序を守る為にも改革が必要だというのが根幹であり目的でもあります。ですがそれに対して、先に述べた2名にとっては更にその先があります。それが、とある人物の排除です」


 そう前置きをして、その名前を述べた。


「その人物の名前は、カルネイラ=ラル・イゼルフォン。イゼルフォン家現当主でもあり、そして先程ベスタさんに対して襲撃を仕掛けた人物です」











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