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カルネイラ




 王都の空気は好きだ。みんな表面上は明るく振舞っていても、その影では当たり前のように暗いものを抱えている。

 王城の空気は大好きだ。欲望がドロドロとしていて、策謀がベタベタとしていて、混沌がグチャグチャとしている。

 貴族の館だって、それに引けを取らない。規模は違くても、濃度ではある意味王城以上だ。堪らないね。


 今日も、とても良い空気だ。

 待ちに待った定例集会の日だ。


「来たか、イゼルフォンの」

「あっ、今日は代理じゃないんだねぇ、おじいちゃん」


 ほら、早速来たよ。

 百戦練磨って言うのかな、貴族って歳を食ってる方が、より深く濃いドロドロとしたものを抱えているよね。

 このおじいちゃんは5大公爵家の現当主の中でも最年長だから、それはそれは良いものを溜め込んでいるよ。


「前回と違って、予定がそれ程詰まってもいなくての。少し頑張る事で今日に空きを作れた」

「それは良かったよ」


 代理の人も嫌いじゃないけど、やっぱりこのおじいちゃんの方が良い。


「まっ、こんなところで立ち話も何だし、中に入ろうか」

「そうしようか」


 集会室に入ると、そこには既にアゼトナさんの姿が。

 今回も代理参加みたいだけど、シャヘルさんよりも弄り甲斐があるから、個人的には嬉しいな。


「ウフクススのとオーヴィレヌのはまだか?」

「到着したのは私が最初だ」


 微妙に答えになってないよね、その言葉。


「……また貴様か」

「やっだなぁ、当たり前じゃん。僕はこれでも、イゼルフォン家の当主だよ? むしろ当主でもない貴方の方こそ、またかって言われる立場だよねぇ?」

「貴様は信用ができん。前当主と違い、イゼルフォン家の――5大公爵家の当主という立場に誇りを持っていない」

「だから気に食わないって? 酷いなぁ」


 誇りなんてもの、犬にでも食らわせとけば良いのに。


「そうは言っていない。だが、貴様は軽すぎる。5大公爵家の当主であるという事の自覚を、少しは持てと言う事だ」

「それだって自分の意見の押し付けでしょ。要するに気に食わないから、そう言ってる。

 大体、貴方に軽いとか言われたくないなぁ。もうこないだので4人目でしょ、迎え入れたの。3人目には無事に息子さんも生まれたみたいだし」


 老いて尚盛んだよねぇ。僕なんてまだ身持ちも固めてないのに、軽いとか言われるのは心外だよ。


「ていうかさぁ、僕の事が気に食わないのは別に構わないけど、その気に食わない僕が当主になってこの会議に参加しているのって、貴方のせいだよねぇ?」

「……何が言いたい」

「だぁかぁらぁ、貴方が無茶な事をするから、僕にお株が回ってきたんじゃん、って話。身から出た錆、じごーじとくだねぇ」

「黙れ!」

「まぁまぁ、落ち着きなされ、アルフォリアの。イゼルフォンのも、そう煽る事もなかろうて」

「ごっめんねぇ、ついつい止まらなくて」


 本当、弄り甲斐があるよ。こんな的外れな挑発にまでムキになるんだから。


「ところでさぁ、今日の議題って、定期報告以外はあれでしょ? アルフォリア家とウフクススと家で、立て続けに暗殺されたってやつ」

「そうなる」

「一体誰がやったんだろうねぇ?」

「貴様は心当たりないのか?」

「あれれ? もしかして僕を疑ってる?」


 だとしたら酷いなぁ。僕はどっちにも無関係なのに。

 日頃の行いのせいなんだろうけど、疑惑の視線が心地良いねぇ。


「普通、疑うとしたらオーヴィレヌ家じゃないの?」

「奴らはああ見えてやる事を弁えている。5大公爵家に、引いてはティステアに不利となるような事はしない」

「だからって、僕を疑うのはないでしょ」

「その割には、最近はウフクスス家の若年層と色々と動いているそうだが?」

「ああ、あれね。あれは関係ないよ」


 全然関係ない。むしろ誰がやったか探るために、このタイミングで投じたのに。

 まったく、これで意趣返しのつもりだって言うなら、ちょぉっと生温いよね。別に僕も彼らと接触している事は隠してもいないし。相変わらず軍事ばかりに突出していて、駆け引きが下手だなぁ。


「ああそうだ、最近学園に、面白い編入生が来たらしいですね」

「むっ、そうだな。無能者ではあるが、闇属性魔法に対する知識と着眼点は見事としか言いようがない。それにまだ2回しか講義を受け持っていないが、魔法に対する知識と造形は既に生徒の域を超えている」


 あれま、ベタ褒めだね。噂に聞いてる以上に入れ込んでるみたい。


「たかが無能者だろう」

「そうそう、たかが無能者だよ。ゾルバから推薦される程度のね。一体どんな意図があるんだろうねぇ?」

「それを調べるのが貴様の仕事だ」

「まあそうなんだけどねぇ。ところでその無能者、名前をエルジンって言うらしいんだけど、どう思う?」

「初代国王陛下の重鎮だった将軍の名だな。無能者には過ぎた名前だ」

「そうだねぇ、王都の中を探せば数十人は見つかるような、有り触れた名前だよねぇ。それこそ、とこかの貴族の嫡子に付けられるぐらいに」


 あっ、顔色変わったねぇ。愉快愉快。

 意趣返しっていうのは、こうやるんだよ。


「そういえば、わざわざ当時のウフクスス家の若年層を動かして処断した者のリストにも、似たような名前があったよねぇ?」


 あはっ、すっごい怒ってる。

 今は腕の無い側に立ってるから良いけど、もし反対側に立ってたら、今頃は首を絞められてるだろうね。


「まさかさぁ、居なかった事にして終わりだと思った? 甘い甘い、誰が情報を管理していると思ってるの? やるなら知っていた者を皆殺しにするぐらい徹底しなきゃ」

「おい貴様、口を慎む事だ」

「あはははは、何をそんなに怒ってるの。使えないのを切り捨てるのは当たり前の事だよ。貴方はその当たり前の事をしただけで、何も恥じる必要は――」

「良い加減にしろ!」


 ああっと、爆発したねぇ。あと半歩前に居たら消し炭になっていたよ。

 ありがとね、おじいちゃん。


「この場で他者を攻撃するのは規則に反する。自制しないか」


 そうそう。ウフクスス家の当主がこの場に居たら、問答無用で御用になっちゃうよ。


「貴様は害だ。いずれ駆除する」

「うっわぁ、こんな公の場で殺害予告とか、大胆だねぇ。それとも【ヌェダ】でも使うの? 応じないよ?」

「…………」


 無反応。つまらないなぁ。


「あのさぁ、まさか戦えば自分が間違いなく勝つって、どう転んでも自分に負けはあり得ないとか思ってない? だとしたら大甘だよ、どうとでもできる。例えばさぁ、身近な人が精神をきたしちゃったりとかさぁ」

「貴様っ!」


 おお、怒った怒った。


「はいはい、貴方はさっきから怒ってばっかだよ、落ち着きなよ。ほんの冗談じゃないか」


 まあ僕が煽ってんだけど。いや、少しやり過ぎたかな。後悔はないけど。


「冗談にしては、些かタチが悪くないかの?」

「かもねぇ」


 だからこそ、題材に選んだんだけど。


「安心してよ、本当に冗談だから。ティステアに不利益に成るような事は、誓ってしない」


 だって僕は、この国が大好きなんだから。

 だから3年前の隠蔽だって、徹底的かつ迅速にやってあげたでしょ?


「因みに噂の無能者も、無関係だと思うよ。髪も眼も色が違うし」

「…………」


 なんか今日は、いつになくピリピリしているねぇ。やっぱりこの間の地震も含めて、立て続けに身内が死んだからかな。

 死んだのはミソッカスも良いところだし、使えない奴は容赦なく切り捨てるから気にしてないと思ってたけど、意外と癪に障ってるのかな。


 誰の仕業か分からないけど、実行犯には感謝しなきゃね。お陰でとても楽しいよ。










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