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選別の儀②




「これより、選別の儀を始める!」


 当主であり、アキリアの父親でもあるシャヘルの厳かな声が響く。


「名前を呼ばれた者は前に出て、水晶に触れるように!」


 最初に呼ばれるのは分家の者たちで、1人ずつ前に出ては水晶に触れ、水晶が様々な色の輝きを放ち、側に居る者が固有能力の有無と属性の適性を読み上げる。

 属性の種類は火・地・風・水・雷の全部で5つで、本人の適性に応じた色の光がが水晶から放たれる。

 光の強さは本人の保有する魔力量に比例し、また属性の適性を持たぬ者は黒い光が放たれる。その場合はその者はどの属性にも属さない無属性魔法しか使えず、それ以外の場合は無属性に加えて適性の属性が使える事になる。


「シア=ラル・アルフォリア!」


 分家の選別が終わり、一喜一憂の熱が冷めきらない中、当主が自分の娘――アキリアの妹の名前を呼び、おれと同い年の女の子が前に進み出る。


「水晶に手を」


 水晶の傍らに控える者の言葉に従い、両手で包み込むように水晶に触れる。

 すると今までとは比較にならない程の、緑色の眩いが放たれ、数秒後には色が赤色、青色、褐色へと変化する。


「て、適性は4属性持ちクアドラプル! 雷を除く全てです!」


 傍らに立つ者が、驚きを覚えながらも口にする。


「固有能力……【時間支配】!」


 その言葉に、周囲の者も驚きを露わにする。


「あれ程の輝きとは、歴代の宗家の者と比べても、倍かそれ以上は魔力を持っているのでは?」

「それに固有能力も素晴らしい。シャヘル様の【空間支配】を、しっかりと受け継いでいる」

「それも4属性持ちクアドラプルとは、シャヘル様ですら3属性持ちトリプルだというのに」

「さすがはシャヘル様の娘だ。これは姉君の方も楽しみになってきましたな」


 周囲の分家の当主たちも口々にシアを褒め称える。見れば離れたところで見守っているアキリアとシアの母親も、そしてシャヘルも、誇らしげな顔をしていた。


「次、アキリア=ラル・アルフォリア!」


 名前を呼ばれて、アキリアがビクリと肩を震わせる。

 体の震えを堪えるように手を握り締めるも、震えは止まるどころかますます大きくなり、一向に前に進み出る様子が無かった。


「……アキリア、妹の結果に緊張するのは分かるが、やらない訳にはいかない。前に進みなさい」


 当主の優しげな声が、さらにアキリアの震えを大きくする。

 その震える肩に、おれはそっと手を置いた。


「大丈夫だよ、アキ姉。昨日のは何かの間違いなんだから」


 そう声を掛ける。

 本当は間違いでも何でも無かったが、それでももうこの時にはアキリアは無能者ではなくなっていた。だからこそ、おれは自信を持って言えた。

 その言葉に背中を押されて、アキリアはゆっくりとした足取りで進み、震える手で水晶に触れた。

 途端に、周囲に爆発的な光が撒き散らされた。


 直視どころか目を閉じていても目蓋越しに目を焼くその光に、堪らず全員が背後を向く。それでも尚色の判別が可能なその光に、その場の全員が何とも言えない興奮に胸を焼かれていた。

 やがて光が収まり、各自が前を向くと、そこには腰を抜かしてへたり込んでいるアキリアの姿と、目を向いて水晶を凝視する男の姿。


「て、適性は……全属性持ちクインティプル!」


 ざわりと、周囲の者が一斉にざわめく。

 属性の適性は、貴族ですら単属性持ちシングルが殆ど。普通は適性なしが殆どで、2属性持ちダブルともなれば5大公爵家以外では見かける事も滅多にない。

 しかしその5大公爵家ですら、全属性持ちクインティプルなど輩出した事はない。過去を遡っても、その適性を持った者は初代国王ただ1人だけだ。

 おまけに、あの爆発的な光量。妹のシアですら宗家の倍以上だというのに、それすらアキリアの前では霞む。驚かぬ方が無理という話だった。

 そして彼らの驚きは、それだけでは終わらなかった。


「こ、固有能力……」


 そこで声が途切れる。見るとその者は口を動かしているが、声にならないといった様子だった。


「何だと言うのだ」


 当主の声に促され、深呼吸をして、つっかえながらも水晶に表示された文字を読み上げる。


「が、願望……【願望成就】です……」


 空気が凍る。

 当主も、その妻も、分家の当主たちも、そして選別の儀に参加した子供たちも、等しく時が止まったように凍り付く。

 そして次の瞬間には、爆発したように沸き上がる。


「素晴らしい、さすがはアキリア様だ!」

「神より愛された寵児であるに違いない!」

「これで我らがアルフォリア家は安泰ですな!」

「アルフォリア家よ万歳! ティステア神国よ万歳!」


 その熱狂は長く続き、やがて当事者であるアキリアも驚きから立ち直り、嬉しそうな表情を浮かべる。


「やった、やったよジン君! ジン君の言う通りだった!」


 正確にはおれが言った事とは違うのだが、それを口にする事はなく、おれの願い通りになった事を一緒に喜んだ。






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