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災厄の寵児②




 最初にその不快感を感じ始めたのは、エルンストが死んでから大体1年程が経った頃だった。

 ある日、何の脈絡もなく首裏筋を炙るような不快感を覚え、そしてそれが一際強くなった時に決まって引き起こる災厄の類。

 そんな事が続けば、その不快感が何なのかは馬鹿でも理解できた。


 それは言うなれば、生存本能だ。

 1歩間違えれば、自分もまた命を落としかねない災厄が迫って来ている事を、おれの本能が敏感に感じ取り警告して来ていたのだ。


 それまではエルンストが側に居た。だからどんなものが迫って来ようとも、本能は警告を行う必要が無かった。どんな災厄であろうとも、エルンストは力で捻じ伏せ、おれの事を守ってくれたから。

 だか、もうエルンストは居ない。

 魔族が襲って来ても、竜が来襲して来ても、自然災害が襲来して来ても、それらからおれを守ってくれる者はもう居ない。

 だからこそ、無意識のうちにおれの本能は警告を発するようになったのだ。

 迫り来る危険から生き残る為に。


 生来より付き纏い、時にはおれを巻き込みながら、時にはおれ自身に牙を剥く異常な性質と。

 皮肉にもエルンストによって鍛えられ、そしてエルンストが死んだ事によって身に付いた、おれの持つ性質にのみ反応する感覚。

 この2つの使い方を誤らずに活用できれば、固有能力以上の凶悪さを発揮する事が可能だ。


 おれが意図してやった訳ではない。むしろ、どうしようも欠片たりともコントロールする事はできない。

 だからこそ、使える。

 重ねて言うが、おれが手を下した訳でもなければ、おれが仕掛けた訳でもないのだから。


 記録的豪雨によって河が氾濫を起こし大洪水になって溺死しようが、強烈な風が吹き荒れて飛来して来た物に当たって死のうが、通り魔に襲われて刺殺されようが、魔獣の大群が襲撃して来て食い殺されようが、竜に遭遇して焼き殺されようが、魔族に襲われて蹂躙されようが。

 そこにおれの意図が介入する余地など、どこにも無い。

 おれはただ、事前にその日に何かが起こる事を知っていたぐらいだ。


 まあ、おれにも牙を剥く事がある以上は、完全に信用する事はできないが。


『結構死んだナァ』


 落石は複数の場所で起きており、その中で規模が大きな場所に移動すると、酸鼻な光景が広がっていた。

 赤ん坊ほどの大きさから直径10メートルを超える大きさのものまで、大小様々な岩がそこら中に鎮座し、その下にはまだ生乾きの血や押し潰された人体の一部が覗いている。

 周囲を見渡せば、落石の下敷きにこそならなかったものの、破片を浴びて頭部が砕けてていたり、あるいは生々しい殴打痕の刻まれて事切れた死体が転がっており、それ以外にも下敷きになった際に胴体から千切れて飛んで行った腕や足、あるいは頭部が散乱している。

 幸いにも死にはしなかった者も、血を流しながら痛みに呻いている。その側では治癒魔法の使える者が、血に塗れながら魔法を駆使して治療に当たっていた。


『勿体ねえナァ、美味そうな奴も何人か巻き込まれて死んでんゼ。どうせ死ぬなラ、味見くらいしてみたかったゼ。今からでも間に合うカ?』

「やらせねえよ。人の目が多すぎる」

『つれなえナ。他の奴らが立ち去るのを待ってたラ、霧散しちまうだロ』

「だったら諦めろ。勝手な真似は許さない」


 その後も頭の中に不満の声が響くが、全て黙殺する。

 エサを与える事の重要性は理解しているが、時と場合はキチンと弁える必要がある。


「思ったよりも死ななかったな」


 確かに引き寄せる災厄にも大小がある。下手すれば街はおろか領地すら滅びそうなものから、個人だけに降りかかるものまで、内容は千差万別なのは事実だ。

 しかし個人的願望としては、もっと多く、もっと貴族側に被害が出て欲しかった。

 死んだのは殆どが平民で、貴族の大半は無事だった。これは運というよりも、落石から身を守れるだけの能力が貴族には備わっていた為だ。


「……いや、被害があったのがここだけとは限らないな。あれだけの地震だ、街にも当然被害は出ているだろう。その辺りは、後でシロに調べさせるか」


 もっとも王都なだけあり、建造物の頑強さも折り紙付きだ。そこまでの被害は望めそうにはない。


「こんなのなら、下に眠ってる何かが目覚めてくれた方が良かったか。いや、その場合は当然おれも危険なんだろうが」


 微かだが、遥か地中に魔力の塊があるのが感じられる。少なくとも、地中に生物であれ無生物であれ、何かが眠ってるのは間違いない。

 あり得るのは、死火山という事もある為、枯渇寸前の竜穴パワースポットか、そうでなければその竜穴を利用した封印の類と言ったところだ。

 前者の場合ならば、何らかの拍子で破裂し小規模とはいえ噴火する可能性が。

 後者の場合は竜穴の枯渇で封印が解ける可能性が、それぞれあった。


 とは言え、もう過ぎてしまった事を悔やんでも仕方が無い。正確な時期の掴めなかった波も過ぎ去った事だし、大人しく次のプランを練った方が建設的だ。


「おい、1つだけ聞くが、この下にあるのはお前の同族か?」

『さあナ。コッチも全部を知ってる訳じゃネェ。むしろ知らねえ事の方が多イ。ただ、神国は500年前の混迷期の時モ、そのさらに前からモ、封印は散々してきたからナ。あり得ないとは言わねえヨ』

「そうか……」


 その辺りの事情はシロに頼んで調べてもらっているが、混迷期の時に記録が消失している為、調べようがないらしい。

 一応イゼルフォン家の中枢まで忍び込めれば分かるかもしれないとの事だが、今のところはやめておいた方が良いというのが、双方で一致した見解だ。


「……まあ良い」


 時間は有限だが、まだ余裕はある。

 焦らずに慎重にやれば良い。













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