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元持ち主の話②




「これはおれ個人の考えだが【願望成就】の能力ってのは、要するに結果を生み出す能力だ」


 ベスタに強制的に移動させられた際に、カウンターの床にブチ巻けられた酒の代わりを頼みながら説明する。


「例えば、死んだ猫が生き返るように願ったとしよう。すると猫は生き返る。後に残るのは、猫が生き返ったという結果だ」

「何と無く分かるけどよ、それなら願いが叶う能力で良いんじゃねえか?」

「そうでもない。というのも、これからが本題なんだが、この生み出される結果は大きく2種類に分けられるからだ。直接的結果と、間接的結果の2つにな。

 例えばさっきの猫を例に取ると、願った結果猫が生き返る。だからこれは直接的結果に分類できる。

 次に間接的結果だが、例えばおれがガキの頃祈ったゾルバが滅ぶという願いが現実のものになったとしよう。その際に重要なのが、何が原因で滅んだのかだ」

「ああ、つまり天災で滅んだんなら、願った為に天災が起こって結果ゾルバが滅んだから、間接的結果って訳か」

「そうなる」


 結果を見れば願った通りになっているのだから、一見大差無いように思えるが、それは大きな間違いだ。

 結果は確かに願った通りになっているが、過程に関しては願ってもいないのに発生している。

 全部が全部願った通りになるのなら、この過程は発生する筈がないのだ。


「やや話が脱線するが、昔人間の固有能力を強奪する魔族に会って話をした事がある。かなり長く生きている奴で、100以上の能力を奪ってきたとか豪語してたな」

「よくそんな奴と呑気に話しなんてできたな」

「エルンストが居たから」

「あぁ……」


 シロが遠い目をする。

 シロに限らず、エルンストを知る者に対してその名前を出せば、どれだけ無茶苦茶な話でも大抵は納得される。


「で、そいつ曰く、奪った能力は元の持ち主に対して効果が薄いんだとよ」

「奪いたてで使いこなせてないとか、そんな理由か?」

「いいや、文字通り効果が薄いって話だ。同じ威力の筈なのに、元の持ち主よりも強い力を持った奴だって消し炭にできたのに、元の持ち主は重傷を負うだけで済んだらしい」

「誤差の範囲、って訳でもなさそうだな」

「ああ。何十回も試した結果だから、間違いないそうだ」


 元の持ち主は自分の能力に対して耐性を持っていると、あの怠惰の塊のような魔族は表現していた。


「そしてさっきの2種類の結果の話に戻る訳だが、この2種類のうちの直接的結果ってのは、0か1かなんだよ」


 猫が生き返るように願ったとして、生み出される結果は願った通りに猫が生き返るか、もしくは力量不足で生き返らないかのどちらかだ。

 間違っても、生き返ったがゾンビとなったなんていう結果にはならない。そう願ったのならばまた話は別だが。


「……つまりおまえは、0か1かの直接的結果なら、耐性を持っている筈の自分に対しては必ず0に傾く筈だー、って考えてんのか? それこそ希望的観測だ。楽観しすぎてる。第一、その魔族の話が本当かどうかも分からないだろうが」


 何故かシロが、イラついたように言う。


「知ってるさ。それにおれも、必ず0に傾くとは考えてない」


 そこまで都合の良い話は無いだろう。それにシロの言うとおり、あの魔族の話が真実である保証も無い。


「だが、もし魔族の話が本当で、少しでも抗える可能性があるなら、それで充分だ。勝てる可能性は少数単位だろうが、0じゃなくなる」

「可能性は所詮可能性の話だろうが! それに、仮にその話が真実だったとしても、要は願い方次第だろうが!」

「それも分かってる!」


 元がおれの能力だ。今の持ち主であるアキリアを除けば、1番理解しているのはおれだ。


「それとも、泣き寝入りでもしろってか!? 続けてれば激突するからって、勝ち目なんざ無いからって、諦めろとでも言うのか!?」


 ただ説明しているだけの筈が、つい感情的に怒鳴ってしまう。

 だが、絶対に譲る事はできなかった。仮にさっきの仮説が無かったとしても、おれは絶対に諦めたりはしない。


エルンストが・・・・・・殺されているんだぞ・・・・・・・・・!?」

「落ち着け……」


 カウンターに拳を叩きつけて吼えるおれに、横から冷水のようにひび割れた声が浴びせられる。


「騒ぐのは、不毛な行為だ……感情的になれば、視野は狭まる……ましてや、ここで怒鳴る事にメリットはない……冷静になれ……」

「……ああ、そうだな」


 自分でも感情的になっているという自覚はあったから、ベスタの言葉にスンナリと納得する事ができた。


「怒鳴って悪かったな」

「酒なんか、飲むからだ」

「説得力ねえぞ、それ」


 ビンを丸々1本開けている奴が、グラス1杯程度しか飲んでいない奴に言っていい言葉ではない。


「……まあ、なんだ。アタシだって、何も泣き寝入りしろだとか、諦めろだとか言うつもりはねえよ。ただな、おまえの言っている事はあんまりにも都合が良すぎる。そんな話を聞かされる身にもなってみろよ」

「……ああ、すまない」


 新しくグラスに酒を注いで、一気に煽る。

 途端に全身にカッという熱が走るが、返ってそれが頭を冷やしてくれる気がした。


「それで、どうすんだ?」

「どうって、何がだ?」

「今後の方針だ。おまえの話は分かったが、アキリアって奴の事は、激突するかどうかは別にしても先の事だろう。そんな先の事じゃなくて、まずは何をするかって話だ」

「……それなら、もう決まってる」


 シロの纏めた資料が入った茶封筒を取り出す。


「レディウス家の長男は、いまは学園の3回生。そしてその弟は今年新入生として入学している。でもって、兄弟仲は良好。合ってるか?」


 封筒から取り出したのは、グスタグ=ルド・レディウスの兄である、ジステス=ルド・レディウスについての資料だ。


「その筈だが、資料にも書いてある通り、表面上の事かも知れねえぞ? 何度も言うとおり突っ込んだ事までは調べらんなかったし、内心で互いにどう思ってるかまでは保証できねェよ」

「十分さ、それだけ分かってればな。折角学園に編入したんだ、利用しない手はない」


 資料を適当に放り、ナイフを投げて壁に縫い付ける。


「レディウス家の兄であるジステス、まずはこいつから切り崩す」







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