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元持ち主の話①




 メネキアが色々と長話をしていた他は特に問題もなく、入学式はつつがなく終了した。

 その後は各学年ごとにクラス編成が行われるらしいのだが、既におれが入るクラスは決まっている為、一足先に寮の鍵を受け取って退散する事にした。


 個人的にはそのまま直接寮に向かうつもりだったが、道中で明らかに不自然な、道のど真ん中の何もない空間にポツンと置かれた小奇麗な扉を見掛け、予定を変更する。

 木製の扉を押すと、今度は軋んだ音を立てる事もなくスンナリと開き、澄んだベルの音が鳴る。


「いらっしゃい、ご注文は?」

「ジェパ酒」

「またか。毎度毎度面白みのない注文だ」

「客商売に面白みを求める方が間違ってる」


 シロがグラスに酒を注いでいる間にカウンターの席に付き、横に座っている小柄な人影に視線を向ける。


「今日は珍しくベスタも一緒か」

「……文句、あるのか」

「いや、別に」


 そこに居たのは、このホワイトバーでシロの専属護衛を務めている能力者であるベスタだった。

 おれの腰程の身長しかないが、実年齢はおれよりもずっと上らしい。

 その小柄な体を、頭から腰まで服の上から布で覆っている為、容姿はおろか性別すら不詳だが、シロ曰く「アタシが男を護衛に雇うわけねェだろ」と言っていたので、おそらくは女だと思われる。だが、そのひび割れて掠れた声はとても女のものには聞こえない。

 ただ、腕だけは確かだった。


「おら、喧嘩してんじゃねェよ」

「してねえし、するつもりもねえよ」


 差し出された酒を煽る。苦いが、飲んでいるとクセになる味だ。


「煙草吸う?」

「いい」


 灰皿は遠慮しておく。ベスタは煙草の臭いがかなり嫌いで、側で吸えば烈火のごとく怒り狂う。

 そしてシロも、その事を知った上で勧めてきていた。


「何の用だ?」

「ん、一応聞いとけってさ。依頼人クライアントが」

「何をだ?」

「向こうの学園長について。殺せるか、だとさ」

「遠回しに殺せ、と言っているのか?」


 契約の際に、殺す相手はこちらで判断すると条件を提示した筈だが。


「向こうからすれば、あくまで希望を伝えてるだけなんだろうよ。

 それに、ちょうどあの世代にはゾルバは散々煮え湯を飲まされてるからな、できれば殺して欲しいってのが本音なんだろ」

「事情は分からないでもないが、無理だな」


 メネキアを見た時の事を思い出す。


「不意打ちなんてまず不可能だろうし、真っ向からぶつかっても勝てる気がしない。奥の手を切って、ようやく何とかなるってところだ」


 それも固有能力は抜きで考えた場合だ。

 メネキアがどんな能力を持っているかは知らないが、能力次第では、奥の手を全て使い切っても負ける可能性だって十分にある。


「それに、仮に殺せるとしても今は動くつもりはねえよ。動くメリットがない。ゾルバにそう伝えとくんだな」


 奥の手は最後まで取っておくから奥の手なのだ。

 中には切る際に相応のリスクを背負うものや、回数制限のあるものだってある。おいそれと切る訳にはいかない。


「それよりも問題なのは――」

「アキリアの方、か?」


 先回りされた言葉に、苦々しく頷く。


「あれは本当に規格外だ。仮に何でもありの全力を尽くしたとしても、勝てる気がしない」

「ま、アタシでも何故か覗けなかったしな。何と無くヤバイってのは分かる」

「認識が全然甘い。お前が思っているより、さらに数十段上だと考えとけ」


 それでもまだ甘いかもしれない。

 せめて膨大な魔力に任せて、力任せに振るうのであれば、まだ救いがあったかもしれないのに。


「キシシ、ついでに言えば固有能力も反則的だもんな。敵対する方が間違ってねェか?」

「だが、やる以上は敵対は避けられない」

「んで、瞬殺されて終わりか?」

「……付け入る隙が、無い訳じゃない」


 それは負け惜しみではなく、歴然とした事実だった。


「ガキの頃にな、1度真剣にゾルバが滅びますようにって、願ったことがあるんだよ」

「マジでガキだな」

「だから言ってんだろ。んで、結果は現在の通りだ」

「【願望成就】を謳ってる割に、何でもありじゃねェってことか?」

「いいや、違うな」


 元々がおれの能力だったから分かる。あの能力は紛れもなく、何でもありの能力だ。


「ただ、それはあくまで完璧に馴染んでいる・・・・・・場合だ。馴染んでなければ・・・・・・・・、その分実現できる事も限られる」


 固有能力を持つ者とて、何の練習も一切なしに能力を使いこなせはしない。大きな効果を出すには、相応の習熟度というものが必要になる。


「ましてや、元々はおれの能力で、本来備わっていたものじゃない。使いこなせるようになるには、他の能力者よりも多くの鍛錬を必要とするだろうな」

「つまり、まだそんなに派手な事はできないってか? 希望的観測が過ぎると思がな。10年以上経ってんだろうが」

「何も無根拠に言っている訳じゃない。本当に使いこなせてるなら、今頃ティステアが隣国のゾルバ程度にまごついている訳が無い」


 何でもありなのだから、ゾルバを滅ぼすなり併呑するなり、簡単にできるだろう。

 確かに希望的観測であるのは事実だが。

 それでも付け入る隙はあると思う。


「それに、さっきも言ったとおり、元々がおれの能力だ。対策ぐらいは――」


 言葉の途中で足下で魔力が動き、直後にカウンターの向こう側に落下する。

 それ自体はベスタの仕業だと分かっていたから驚きもしなかったが、直後の言葉には驚きを隠せなかった。


「隠れてろ、イゼルフォンの連中が来た」







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