序章
ティステア神国は、かつてこの大陸を統一した巨大国家だった。
ところが、今から500年前に混迷期と呼ばれる魔族の大侵略が始まり、それを迎え討たんとする天界の神族との激突に巻き込まれて甚大な被害を被った事を皮切りに、併呑した国家が次々と独立を宣言し、現在では大陸に23ある国家の1つに成り下がった。
それでも大陸有数の国家には違いないんだが、同等以上の国力を持つ国もいくつかあり、また国内では500年経った今でも独立を目論む勢力も潜んでいる為、中々油断できない状況にある。
そんなティステアだが、今のところ表面上は平和を謳歌している。勿論水面下はかなりドロドロとしているが、表立ってティステアにちょっかいを出して来る国は無い。
何せ、ティステアには守護家とも呼ばれる5大公爵家が存在する。
この世界に生きている人間なら、殆どの者が魔力を持っている。だが、それを実戦でも通用するレベルの魔法を行使できるほどの魔力量を持つ者となると、途端にその数は少なくなる。
ティステアでは混迷期以前より、そういった保有魔力量の多い者を血統に加える事によって貴族たちは生まれつき膨大な魔力を宿す事に成功しており、有事の際にはその力を振るって常人とは比べ者にならない程の力を発揮する。5大公爵家は、その貴族たちの中でも特に強い力を持った者を輩出し続けている一門である。
だが5大公爵家が守護家と呼ばれる理由は、それだけでは無い。
ティステアだけに限らず、大陸全体の人間の中に、ごく稀にだが膨大な魔力と共に魔法では説明の付かない力を持つ者が生まれる事がある。
魔力を消費しながらも、魔法では説明が付かないほど強力な効果を発揮するその力は固有能力と呼ばれ、固有能力を持つ者は能力者と呼ばれた。
固有能力の内容は千差万別であり、同じ血を引いていても同じ能力に目覚める事は滅多にない。しかし前提として、使用するには膨大な魔力を必要とする為か能力者は貴族の中で生まれる事が殆どであり、その貴族の中でも能力者として生を受ける事は稀である。
5大公爵家はそんな能力者を、数多く輩出している。だからこそ守護家とまで呼ばれているのだ。
例え分家の生まれであっても2人に1人は、宗家の者となればほぼ全員が能力者であり、戦時にはその力を振るい敵対国に甚大な被害を齎してきた。
ティステアに攻め込んだ事のある国は、その恐ろしさを良く知っていた。故に表立ってティステアに――正確には5大公爵家に対して、ちょっかいを出すような国は近隣には存在しない。
あくまで、表立っては。
「5大公爵家を潰せ、か……」
それが今回の依頼人の意向だ。
ならばやってみせよう。
例えそれが、生家を潰すという事であっても。