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編入②




 入学式が執り行われる会場となる講堂には、既に新入生たちが各々の席に座り、付近の者と談笑に勤しんでいた。

 見下ろす限りの人の群れ。

 上から数えるだけでも、優に1000を超える頭を数える事ができた。


 そしてさらに注意深く観察して見れば、その人の群れの中で、早くもいくつかのグループが形成されていた。

 おそらくは、同じ貴族同士。それも同じ派閥に属する者同士でグループを作っているのだろう。観察する限り、決まってグループを作っているのメンバーの顔は面白いくらいに整っている。


 だが、そうしたグループを作る者たちは少数派だ。それもその筈で、新入生は貴族よりも平民の方が遥かに数が多い。大体10倍ほどの人数差がある。

 しかし、これはあくまで彼らが1回生であり、尚且つ入学したばかりだからだ。

 このティステア学園は、貴族も通いはするが、一般に対しても広く門戸を開いている。

 とにかく実力があれば入学が可能な為、出世を夢見てこの学園に入学する平民は少なくない。

 だが卒業する頃になると、貴族と平民の人数比は完全に逆転する。

 卒業まで漕ぎ着けられる平民はごく僅かで、殆どが振るいに掛けられ、脱落していくのだ。


 眼下で楽しそうに喋っている新入生たちに、そんな過酷な未来が待ち受けている事を知っている者は殆どいないだろう。

 そうとは知らずに、無事入学できた事を喜ぶその様は、見ていて滑稽にすら思える。


「……まあ、考えるだけ無意味か」


 おれはそもそもまともに卒業するつもりもないので、彼らが今後どうなろうが、物凄くどうでもいい。そんな事をを考えるよりも、別の事をするのに忙しい。


 おれは今、講堂の3階に居る。というのも、編入生はこの式に参加する必要がないと言われたからだ。

 毎年この学園では学年が上がるごとにクラス替えを行っているが、そのクラス編成が発表されるのは入学式の後であり、それまでは前の学年のクラス編成のままでこの式に望むのだという。つまり早い話が、今のところおれの座る席は用意されていないという事だ。


 それを聞かされたおれは、これ幸いと3階に上がらせてもらい、上から観察させてもらう事にした。

 やる事は、シロから受け取ったリストと生徒の照合だ。


「グスタグ=ルド・レディウス……レディウス、ね……」


 アルフォリアの分家に当たる伯爵家が、そんな感じの名前だった筈だ。

 3回生に兄がおり、3年前に父親含む親族が不慮の事故で死亡している為、現在はその兄が当主代理を務めており、卒業と同時に正式に継ぐのだという。


 この学園が貴族平民を問わず人気なのは、卒業と同時に一種のステータスを手に入れる事になるからだ。

 貴族にとっては家督を継ぐ為の最低条件であり、また貴族平民問わず卒業した事は自分の持つ能力の裏打ちにもなる。その為、誰もが卒業を夢見て入学試験を受け、また落ちた場合も諦めずに来年、再来年と挑み続けるのだ。


「グスタグ、グスタグ……そんな奴居たか……?」


 記憶を振り返ってみるが、該当する奴は居なかった。

 まあ5大公爵家にもなると、末端も含めると総人数は数百人にも上る為、記憶にない奴が居てもおかしくはないが。


「……まあ、思い出せないのなら、大した奴じゃ無かったんだろう」


 一応兄に対する牽制には使えるかもしれないので、顔は確認しておくが。


「……あいつか、多分」


 濃い青の髪と目を持つ男を見付ける。

 資料に書かれている特徴とも一致しているし、ほぼ間違いないだろう。動作も洗練された貴族のそれだ。


 ここで見るべきなのは、主に髪と瞳の色だ。

 それらは時たま、本人が得手とする属性に当たる色に変化する事が多い為、こと戦場では相対した敵において真っ先に確認すべき部位でもある。

 勿論、全部が全部当たる訳ではなく、中には全く関係の無い色合いをしている者だって少なくない。比率的には、およそ半々と言ったところだろうか。

 だが例え半々であっても、得手としている可能性のある属性を知れるという事は大きい。

 重要なのは使える属性ではなく、得意とする属性であるという点だ。それを知っているのと知らないのとでは、戦いの展開は大きく違ってくる。

 情報を制する者が戦いを制するというのは、れっきとした事実なのだ。


「固有能力の有無は、不明と」


 これは当然と言える。

 貴族たちにとって、固有能力の有無や、持っている場合の能力の詳細は、自分の生死に直結する重要な情報だ。

 自分から積極的に吹聴して回ったり、もしくは隠しきれないほどの騒ぎにでもならない限り、大抵は隠蔽される。


「まあ、持っていたとしても余程の能力で無い限り、そこまで脅威にはならないだろう」


 保有する魔力量を探るが、5大公爵家に連なる者にしては、かなり少ない。

 それでも平民と比べれば圧倒的に上だが、先ほどのメネキアと比べると、まるでドングリと大樹だ。


「ミネア=ラル・ウフクスス……こっちは面倒そうだな。よりにもよってウフクススの宗家かよ」


 苦い思い出が蘇る。

 追放されてから最初の奴隷生活に終わりを齎した、法の番人であるウフクスス家。

 その宗家直系の血筋を引く娘が、新入生の中には混じっていた。







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