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道化の遊戯⑥

 



 まるでおれが思わず発したその単語が、開戦の合図であったかのように、獅子が無音の咆哮と共に襲い掛かって来る。


「いきなり来るかッ!」


 寸前で飛び退き、喰われる事を回避。間髪入れずに踏み込み、獅子へと一切の手加減無しに斬撃を叩き込むも、硬質の音が響き、剣は骨の顎に挟み込まれて抑え付けられる。

 動きが止まったところに容赦なく襲い掛かる竜の顎から逃れ、剣に噛み付いたまま離れない獅子を、剣ごと壁に叩きつけるも、その脆そうな外見とは裏腹に、獅子はビクともせずに喰らい付いたまま離れない。

 だが、さらに追撃を掛けてくる竜に対して全力で叩き付けてやると、さすがに耐え切れなかったのか剣から離れて地面と降り立つ。


「退け、おれに戦う理由は無い!」

「笑止……」


 返答は短く、追加の獅子のおまけ付き。前方から挟み込んで来るように疾駆し、容赦なく襲い掛かって来る。

 片方を剣で弾くも、もう1頭の対処に間に合わずに後退。間隙を埋めて伸張し喰らい付いてくる獅子を跳躍して背で跨ぎ、壁に一瞬だけ張り付いて獅子を誘導。すぐさま離れ、勢いを殺し切れずに衝突した獅子の尾てい骨へ、壁に挟むように斬撃を叩き込んでようやく粉砕する。


 もう1頭はと周囲に視線を巡らせようとして、視界に飛び込んでくる、急接近して来る影。

 翻した剣で迎撃し、ベルと【諧謔】の振るう刃が噛み合い、足腰に重い衝撃が襲い掛かって来る。


「英雄の狂剣は沈み、されど黒海に沈まず。怨敵は追い掛けるが運命さだめ

「ああッ!? 相変わらず訳の分かんねえ野郎だな、テメェは!」


 横手から跳び込んで来る獅子を、剣から手を放し、裏拳で殴りつけて床に叩き付ける。

 同時に片手だけでは【諧謔】の剛力には抗い切れず、すかさず腹部の鎧の上から蹴りを叩き込むも、頑健過ぎてビクともせず、代わりに反動でおれ自身が後退する。


 離していた手を剣に持って行こうとして、鈍い痛みが走る。視線をやれば、素手で殴り付けたために、拳が半ば砕けていた。

 一方で、脳の抑制を外した人間の全力の拳を受けていながらも、獅子を構成する骨には罅の1つも無い。忌々しいまでの硬さだった。


 いや、獅子だけではない。


「ぐッ……!」


 【諧謔】が畳み掛け、おれの振るう剣と【諧謔】の剣とが衝突し合い、その度に両手に重い手応えと火花が生じる。

 同時に【諧謔】の背面より体を伸ばす双頭の竜の顎も幾度も閉じられる。

 さすがにその全てには剣では対応し切れないため、その分自身が動く事で回避するが、全ては躱し切れず、牙が体の随所を掠めて皮膚と肉を削り取り、痛みを生む。


 さらにそこに、おれが先程粉砕した分の補充と追加分も合わせ、3頭の獅子まで加わるのだから手に負い切れる道理は無かった。


「チッ……!」


 限界はすぐに訪れ、背中に壁が触れたタイミングで正面から【諧謔】が、左右から竜と獅子とが挟撃しようと迫り、無傷で切り抜けるのは不可能と即断。左手側へと身を屈めながら抜け出し、同時に左腕を眼前に差し出す。


 一瞬遅れて激痛が襲い掛かり、それを誤魔化すように上腕に力を入れ、腕に喰いついた牙がそれ以上進行するのを防ぐ。

 その途中にも歩みは止めず、片手で握っていた剣を、挟撃からの抜け出し様に【諧謔】へと叩き込む。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」


 雄叫びと共に振るった剣は、込められた裂帛の気合いによって威力が増大する――などという都合の良い事は起きず、切っ先は【諧謔】の鎧に触れた後に、表面を火花を散らしながら滑り後方へと抜けて行く。

 当の【諧謔】の装甲には、表面に僅かな傷が付けられているが、それだけだ。

 こちらとしてもそうなる事は半ば予想通りの為、落胆も動揺も皆無。本来生じたであろう筈の空白の時間を、腕に喰らい付いた獅子へと剣を叩き付ける事に充てる。


 結果として3頭居る獅子のうちの1頭を潰すのみとなるが、その潰した1頭とて、反転して再び【諧謔】と向き合った頃には、鎧から分離するかのように新たに生み出されて補充される。


「【操骨】か。相変わらず硬過ぎんだろうが……!」


 理不尽な結果に対するものと、開戦早々に死に掛けるという結果に対する不満を纏めて吐き捨てる。対峙する【諧謔】は語らず、配下の亡者と共に再接近。

 当然のように迎え撃つが、手数の段階で圧倒的に劣っている。必然的に、全身にさらなる傷が加算されていく。


 自身の骨を増大、体外へと表出させて自由自在に操る事を可能とする、【諧謔】の固有能力である【操骨】。

 保有者のセンスにも拠るが、その柔軟性は驚くほど高く、全身を覆い身を守る鎧とする事や敵を打ち倒す武器とする事は当然として、背部より伸びる竜のように第3の手足代わりとなるものを生み出し操る事も、挙句獅子のように簡単な命令に従って動く従魔を創造する事まで可能とする。


 簡単に言えばそれだけの能力だが、2つの特徴がそれを極めて厄介にしている。


 骨折という言葉があるように、骨が折れたりするのは珍しい事ではない。だがそれは、骨が元来隙間だらけの構造をしており、本来持つ頑健さを大幅に脆化させているのが原因でもある。

 【操骨】の能力は、そうした隙間を全方位から圧縮する事によって完全に埋め、さながらインゴットのようにする事ができる。

 そうして隙間の無くなった骨は驚くほどの強度と硬度を誇り、生半可な衝撃では破壊するのは不可能となる。厚さがあればそれは尚更の事で、その骨によって作られた鎧は、要塞すら畳めるザグバの拳の直撃を受けても、内側の装備者を重傷の状態とは言えども生存させる事を可能とする。


 そしてもう1つの要素が、魔法に対する極めて高い抵抗力。


 人間の持つ魔力抵抗力は、外側からの干渉に対しては誤差を生み出す程度の役目しか果たせないが、一方で内側からの干渉に対しては、個々人で差はあれど大きな役目を果たせる。

 【操骨】の能力者が外部へと表出させた骨は、その内部に存在する抵抗力が剥き出しとなった状態に等しく、本来ならば内側にしか作用し無い筈の本人の魔力抵抗力を、そのまま外側からの干渉に対しても転用させる事ができる。

 ましてや【諧謔】クラスともなれば、その抵抗力は5大公爵家の宗家のそれにも比肩し得る。さすがに古代竜が恒常展開する【反魔相殺陣】の魔法ほどではないが、低位から中位の魔法程度など完全に無効化し、高位の魔法であってもその威力の大半を削げる。


 【操骨】の能力は言わば、物魔両方に対して高い防御力を得られる能力なのだ。


 おまけに腹立たしい事に、その能力者である【諧謔】が、センスの塊のような奴だ。

 背面部の竜にしろ、自立行動する獅子にしろ、その動きはおれの知る他の【操骨】の能力者と比べても俊敏で、明らかにヴァフルよりも速い。ついでに言えば、大抵が自身の纏う鎧に連結させて手足の延長線となる従魔を生み出すのが限界で、獅子のようにそれ独自で動く従魔を生み出す事ができるのは【諧謔】のみだ。

 そして当然のように【操骨】の最大の特徴である防御力も兼ね備えており、魔力抵抗力に関してはともかく、その反則的な硬さは、おれのような剣士にとっては最大の脅威となる。


 さらには【諧謔】自身が、それ単身でおれよりも格上の存在で、超常級の戦士だ。勝ち目が皆無というほどの開きは無いが、鎧を纏った状態でありながら速さでおれに勝り、また剣技においてもほぼ互角。耐久力など比べるべくも無い。

 それだけでも泣きそうだというのに、そこに単体でも十分に強力な従魔が竜と獅子を合わせて5体も加わるのだ。相手の方が強いにも関わらず、最初から物量面においても、手数においてもハンデを背負わされているのに等しい。


「テメェ! 今が争っていられるような状況下じゃねえ事ぐらい、理解できんだろうが! 一体どういうつもりだ!」

「飛び交いし刃に理由など無く、ただ在り所によって取り決められ、喜怒哀楽と憎悪のみが、その領域へと干渉する」


 くぐもった声が、相変わらず理解のできない、しようとする意欲も湧かない言葉を紡ぐ。

 ただその次の言葉だけが、こちらの言葉に対する明確な返答として事態の推移を決定付ける。


「議論の必要性は絶無」

「そうかよ!」


 竜と刃を掻い潜ったこちらの剣が【諧謔】を打ち据えるが、傷が僅かに付くだけに終わるのは勿論の事、鎧の厚さも相当なものなのか、衝撃が内部まで満足に届いている様子も無い。

 続く投擲したナイフも、突き刺さるどころか切っ先が欠けて終わる始末だった。

 それほどの厚さの鎧を纏っていれば、機動力が落ちても良さそうなものなのだが、骨による鎧の密度は鋼鉄製の鎧の密度の半分以下で、例え通常の鎧の倍以上の厚さがあろうとも、負担は鋼鉄の鎧を纏うよりも軽い。つまりは反則だ。


『オイやべェゾ。今回は近くに水場なんざネェ』

「それくらいは分かってる!」


 ただ硬いだけの物を斬るのは児戯に等しい。斬線を見極め、この斬線にそって剣を振れば良いだけの芸当だからだ。

 【諧謔】の面倒なところは、ただ纏っているだけに見える鎧の構造を、絶えず内部で変異させている事だ。

 お陰で斬線が絶えず変化し、見極め斬るのが酷く難しい。しかも【諧謔】自身もそれが分かっている為、余計に難易度は上がる。


 前回は結局1度もその装甲を破る事はできず、最終的には川に誘導し突き落とす事で、勝負自体を有耶無耶にして終わった。

 だが、当然ながら船内に人が溺れられる程の水場など無く、また船外に出ようにも、領域干渉系の能力によって生み出された舞台の外の出るのは不可能だ。


 誰がどう見ても、現状がほぼ詰んでいるのは明らかだった。


「此岸と彼岸を繋ぐ術など無く、姿有りしものは渡る事も叶わず。されど姿無きものならば、渡り引き継ぐ術を有する。確率は微小なれど、しかと受け取ったり」

「うるせえよ!」


 獅子を踏み台として跳躍。廊下の壁を蹴って天井を足場とし、頭上より強襲。

 当然迎撃して来る竜を刃で迎え撃ち、凌いでその骨格に降り立つ。

 おれの視線と【諧謔】の面頬の奥の視線が交錯したのは一瞬。その面頬を目掛けて、全力で振り回した剣が炸裂。

 技など無い、ただの力任せの一撃。それ故に衝撃は並のものでは無く、その下の脳にまで届き得る可能性はあった。


「理解できぬならば、それも良し」


 あくまで可能性は可能性でしかなく、確実性など皆無でしかなかったが。

 そこには、こちらの全力の殴打など無かったかのように平然とした【諧謔】の健在な姿があった。


「クソっ……!」


 竜の上から飛び退き、獅子の襲撃を回避。続く【諧謔】の剣は迎撃して防ぐ。


「終幕としよう」


 振るわれ、そしておれの剣に弾かれた【諧謔】の大剣が、切っ先をおれに向けた状態で停止する。


「しまっ――」


 失敗を悟った時には既に遅く、次の瞬間には、急伸長した【諧謔】の刃が、滞空中であった為に身動きの取れなかったおれを貫いていた。










「と、言う訳らしいが……」

「詐欺だ、詐欺。どっかで騙されてる」

「あるいは、どこかで勘違いしているか、ですね」


 いくらあり得ないと叫んだところで、現実に起きているという事実は覆しようがないんです。ならば、どういう前提があれば、それが説明可能かを考えるのが当然の行為でしょう。

 少なくとも、理不尽だの詐欺だのと叫ぶだけで何もしないよりかは建設的な筈です。


「アベルさん、【レギオン】の副団長である貴方に尋ねます。考えられる、具体的な可能性にはどのようなものがあります……って、どうかしましたか?」

「いや、俺の事を色目抜きに副団長として見てくれる奴には、久しぶりに会ったなと……」

「俺も一応副団長なんだけどな」

「無能は黙っててください」

「おい、誰が無能だ」

「貴方しか居ないでしょう……」


 うるさいですね本当に。叫ぶしか能がない人は黙っているだけで益となるのに、それさえもできないんですか。


「カインの事は置いておくとして、そうだな……真っ先に思い当たるのは、媒質を使っている事か」

「当然ですね」


 素晴らしい、実に素晴らしいですね。

 諌めるだけ無駄だと割り切って、必要以上に追求も静止もフォローもしないその判断はとても合理的で好感が持てます。

 何より、魔道具ではなく媒質と答える辺り、きちんと考えているのが分かりますね。


「単純に魔道具じゃねえのか? これだけの事を引き起こすんなら、媒質の影響なんざ微々たるもんだろ」

「魔道具が前提とするならば、少なくともその魔道具の製作者は、これ以上の事象を引き起こせるという事になるでしょう。そんな方が居て全く記録にも残らず、噂にもならないというのは不自然過ぎます。もっと考えてから発言してください」

「ああ、確かに言われてみりゃそうか……」


 普通は言われずとも理解するべき……いえ、この人は所詮こんなものでしたね。いちいち思考を割くのも勿体無いですし、以後は無視するとしましょう。


「まっ、カインの言う通り、媒質を使っていると仮定したとしても、余程の物じゃない限り影響は微々たるものでしかない。相応の数を用意したところで、それを上手く活用できるかどうかは別問題だしな」

「それだけの量を活用できる能力があれば、そもそも媒質など必要ありませんしね」

「となれば、少数ないし単体でこれだけの事象を引き起こせるようにできる、強力な媒質という事になる」

「思い当たるのが、1つだけありますね」


 アベルさんの顔を見る限り、どうやら私と同じ物を思い浮かべているようですね。


「「竜玉」」


 と言うか、それぐらいしかありませんね。


「もしそうだとしたら、話は簡単ですね。媒質として使っている以上、必ず手の届く範囲内に置いておく必要がありますから」

「今回の場合だと、術者もこの舞台の中に居る訳だからな。そいつを殺せなくとも、媒質さえ壊せればそれで勝ちだ」

「まあ、遭遇し戦闘になったらの話ですけどね」


 少なくともオーウェン……いえ、ヴァイスさんやキュールさんの例にもある通り、不意打ちで脱落する場合もありますからね。

 まず相手にこちらが気付けなければ、戦闘が始まる事もないでしょう。


「しっかし、竜玉なんざ簡単に出回るもんでもない筈なんだがな。仮に本当に竜玉が使われてたとして、出処はどこのだ?」

「闇市とかに出回る事は無いんですか?」

「無い事も無いが、物が物だからな。出回ったらすぐに話題になるし、誰が手に入れたかも簡単に把握できる。少なくとも知る限りで、ティステアに回った事はねえよ」

「ドゥーガの惨劇の折に狩られた古代竜はどうだ? 確かあれ、死骸から竜玉が消え失せてたんだろ? それを確保していたって線は考えられないか?」


 おや、まだ居たんですか貴方は。てっきり打ちのめされて、どっかに行ったと思ってましたが。


「いや、あの時の古代竜を狩ったのはエルンストらしい。【死神】のガキから聞いた事だから間違いない。竜玉も魔界の大罪王に流したんだそうだ」

「単独で狩ったって……いや、団長も可能なんだから先代の【死神】も可能なんだがよ……。

 あっ、それで思い出したが、団長が狩った個体の竜玉はどうしたんだ?」

「ダリオンが後でちゃっかりと確保してた。その子のスカールスとやらはミズキアが飼ってるし、違うだろ」

「なら、他に古竜谷以外で確認されている古代竜って居たか?」


 ……ふむ、暇潰しにはちょうど良いですし、戯れに考えてみるのも良いでしょう。


「大陸の西側にあるという、惑乱の森に住まう個体なんかはどうですか?」

「ああ、【幻惑のダッカル】だったか? あれはまだ健在だったろ。そもそも、あの森特有の不気味な幻覚自体、ダッカルが生み出してるものだからな」

「では、スマーグライグの周辺海域に出没する個体は?」

「【碧海のエシケー】だな。相変わらず討伐されてない。そもそも、誰の手にしろ討伐されたんなら、とっくにあの国は侵略戦争始めてんだろ」

「そうですか……」


 当たり前ですが、簡単に討伐されるような存在でもありませんしね。

 しかしこれで、少なくとも存在が確認されている個体の竜玉では無いという事が判明しましたね。


「確か、ティステアの東の山脈に1体居たろ。バラバラとかいう名前のやつ」

「バルバラです。エルンストさんが4年ほど前に狩ってますね。ジンさんがソースですので間違いないです」


 人里に降りて害を為す訳でもありませんので、長らく放置されているお陰で、未だに知る者は居ませんけどね。


「あー、なら大陸中部のシャンティスの火山の火口に――」

「【灰被りのラークリン】ですね。それもエルンストさんに狩られてます」

「北方のデテネグ山脈の――」

「【凍原のミドガルゾ】ですね。やっぱりエルンストさんに狩られてます」

「ドルネ盆地の――」

「【這いずるアズカルドス】ですね。当然エルンストさんに狩られてます」

「フィフネリア護竜国の――」

「【守護竜フィフネリア】ですね。何故かエルンストさんに狩られてます」

「狩り過ぎだろ!」


 うるさいですね、埃が舞うのでテーブルを叩かないでくださいよ。


「何でそんなピクニック感覚で狩ってるんだよ! 狩れる力があったとしても、命がけだぞ!? 遊びで挑んで良い存在じゃねえぞ!?」

「知りませんよ、そんなの。私に言われても困ります」

「つか最後! 何でフィフネリアまで狩ってんだ!? 何でそれで何も無いんだ!? 大陸全土に指名手配されてもおかしくねえだろ!」

「…………」


 今、明らかに私の話を聞いてませんでしたね。それにそれぐらい、聞かなくても分かるでしょうに。


「あの国が侵略を受けてないのは、ひとえにフィフネリアが守っていると諸外国に認知されてるからだ。それなのに、例え人為的にフィフネリアを殺されたからって吹聴すれば、あっという間に侵略を受けて滅ぶ。口外しないのは当然の事だ」


 全く持ってその通りです。同じ副団長でも、どうしてこんなに知能に差があるんでしょうね。


「いやでも、さすがにフィフネリアが死ねば国内でも騒ぎになるだろ」

「フィフネリアの姿を見る事が許されてるのは、あの国の王族だけだ。王族の口さえ封じれば、民衆に広まる事も無いし、それが原因で騒ぎになる事も無い」


 まあ、私を含めて部外者が数人知ってしまったんですがね。

 これではあの国の余命も、持って数年でしょうね。


「おっ、戻って来たか」


 ベスタさんと、何故か筆談で会話する【レギオン】の女性が戻って来ましたね。

 ちょうど議論も終わるところでしたし、ちょうど良いタイミングです。


「何かあったか?」

『進展なし』

「…………」


 しかし、喋りませんね。いえ、別に個人の事情に対して深く突っ込むつもりもありませんけど。


 ……ほぼ同じタイミングで戻って来てましたけど、まさか行動を途中からでも一緒にしてたんじゃありませんよね?

 その場合、一体どのようにしてコミュニケーションを取っていたのか、非常に気になります。


「副団長、ただいま戻りましたよぉ。収穫は特に無いですねぇ」

「そうか……」


 ギレデアさんも戻りましたか。そしてキュールさんは見付からずと。

 これは本格的に、相手側がこちらを追い詰めに来たと判断するべきでしょうね。


 これでこちらは、消耗前提の模索に動く事ができなくなってしまった。ついでに言えば、ごく一部の方の栄養補給の手段も無くなったという事になります。

 おまけに、キュールさんが居なくなったのは、よりにもよってこの広間の中での事だ。それはこの広間が、絶対に安全では無いという事でもある。

 つまり、おちおち休む事も寝る事もできなくなるという事になります。

 今はまだ人数が多いですから何とかなるでしょうが、今以上に人数が減れば、きかなりの厄介な要素となる。

 術者の方は、人の嫌がる事を良く分かっていますね。


 どうにか状況を打開しようと、捜索に出た面々を待つ間の暇潰しも兼ねて始めた議論でしたが、そこで出た媒質の使用はあくまで推測に過ぎませんし、打開策とはなり得ない。

 腹立たしい事実ですが、これは地味に追い詰められてますね。


 唐突に奇妙な術式に捕まったかと思えば、おそらくは箱庭型と思われる船内に閉じ込められて。

 さらにその場には、私以外にも大きく分けて、3つの勢力が同様に捕らえられている。

 かと思えば、カルネイラさんが唐突に登場して、ルールを提示してゲームの開催を宣言。その提示されたルールは、今も紗幕を見れば確認できます。

 そのルールの提示がゲーム開始の合図だったようで、直後にヴァイスさんが行方不明に。後を追った【レギオン】の方も同様に戻らず。

 次にジンさんが、記憶準拠の実体のあるナニカと遭遇し交戦、これを撃破。これによって、箱庭型の舞台に記憶準拠の要素が存在するという奇妙な状況下になってしまう。

 そして安全かと思われた広間も、実は安全では無いと発覚して現在に至ると。


 このこれまでの経緯に加えて、色々と常識的に考えてあり得ない能力の規模やら事象やらが重なってと、異常な出来事が起こっている訳ですが。

 少なくとも、ルールの提示による譲歩をしているのは間違いないとは思います。現状でルールと矛盾している事は起きてませんし、それを抜きにすれば、ますます術者の異常さに拍車が掛かりますし。


 果たして如何なる種で、これを成立させているのか。

 もしくは、私たちが何を勘違いしているのか。


「……おや?」


 これはまさか、もしかするともしかするのかもしれませんね。


「やはり……」


 記憶を振り返ってみれば、確かに最初からおかしいところはありましたね。

 これはとても腹が立ちます。こんな単純でくだらない事に気付けなかった自分に対してですが。


 ええ、分かっています。私がやるべき事はただ1つ。その為ならば、使えるものは使い、利用できるものは利用しましょう。


「全ては貴方の為に」











次回予告

偽りの凶者はその存在を虚ろに戻し、解放への一手が投じられる……みたいな。


文字数は今後減らそうかと思います。

具体的には、今まで8000文字を目安に書いてて、足りなくて追加したら区切りの良いところが見付からずに5桁突入みたいな事が多々あったので、目安を5000字くらいに下げようかと。そして目指せ更新頻度アップ。

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