不死者と番人②
「なる、ほど……ウフクスス家の、師団員共か……」
自分を磔刑にした者たちの所属を理解したミズキアが納得の声を上げる。
「不死というのは本当だったか。命を交換する事によって成立する不死性らしいが……」
「それなら、骨の髄まで焼き尽くせば良い。そうして灰を海にばら撒けば完璧だ」
ミズキアを貫く師団員の1人がそう言うと、別の者が別の手法を提示する。
「だったら酸の海に沈めよう。命が枯渇するまで、延々と溶かし続ければ殺せる」
「それよりも氷漬けにした方が手軽だ。冷凍保存すれば無力化できる」
「溶岩に落とした方が良いのでは? 酸の海や冷凍保存では万が一がある」
「いいえ、毒にしましょう。猛毒のガスで充満させた空間に放り込んで、死に切るまで閉じ込めておけば良いかと」
「どれも却下だ。こいつがシャヘル様の【空間支配】の能力を強奪しているという事を忘れるな。その気になれば、そのどれからも脱出できるだろう」
槍斧を持った男が得物を振り被る。
「我々の手で直接、1回ずつ殺していくのが確実だ」
そして振り下ろし、頭部を粉砕して殺す。
「それもそうだな」
「……お前たち、何故ここに居る?」
結論が出るのを見計らっていた訳では無いだろうが、軽くは無い負傷を抱えたゼインが、まるで知己の間柄であるかのように言葉を投げ掛ける。
それに対して、ミズキアに対して武器を突き立てずに一歩引いた所から観察していた男が、懐から手紙を取り出して掲げてみせる。
「オーヴィレヌ家の当主の妹より、文を授かった」
「なるほど、あのガキの仕業だったか!」
頭部を再生させて生き返ったミズキアが声を上げ、身を激しく捩じらせる。
体を貫く刃が全身を刻むのを無視して回転し、不死性に物を言わせて拘束から脱出。地面に降り立ったところに、天壌の業火が炸裂。
「ウフクスス家第11師団師団員、シャゴベ=レデ・レスピナスだ。人呼んで【業火のシャゴベ】」
「安易な名前だな!」
半身を炭化させたミズキアが、命を落として焦げた部位を元通りにしながら後退。腰から黒い金属片を取り出す。
「呑み込め!」
金属片が溶解して地面に浸透したかと思うと、今度はその地面が独りでに蠢きだし、人を容易く呑み込める程の高さを誇る泥の波濤となる。
しかしその波濤も、頂点に達して崩れ落ちる寸前で突如として凍り付いて停止する。
「【氷結のブフェル】だ。従弟が世話になった」
「心当たりがねえよ!」
大気中より突如として出現する、無数の鋭利な氷柱の雨を空間を遮断する事で防ぐ。
何発かは手足に喰らったものの、何とか防ぎ切ったと安堵の息を吐いたのも束の間、地面に刺さった無数の氷柱がその体積を急膨張させる。
隣り合った氷柱と氷柱が膨張する事によって触れ合い、一体化しながらミズキアを取り囲むようにさらに膨張を続ける。
程なくして完成したのは、氷のみで作られた見た目は綺麗な大樹。
「空間断裂!」
「散開!」
その中に閉じ込められたミズキアが能力を発動し、自身を捕らえる大樹ごと周囲を斬り刻み、それを察したウフクスス家の者たちがバラバラに後退し不可視の斬撃を回避する。
一方大樹から脱出したミズキアは、一歩踏み出し切断された大樹の断面に足を置いた瞬間、視界がぐらりと傾くのを感じる。
「なッ――!?」
足を置いた大樹の断面は解凍を始めており、透明の液体がミズキアの足を包み込み、蒸気を上げながら急速に溶かしていっていた。
「【酸牙のエブロイ】――エブロイ=ロニ・シシステス。得意とする系統は……」
掲げられた手に黄金色の液体が収束し、投槍を形成する。
それを振り被り、投擲する。
「水属性の中でも酸系統の魔法だ」
それを片足を失って機動力を落としたミズキアに命中し、胸腔の下まで蝕む。
心臓を失ってさらに死んで生き返ったところに、両手に剣を握った師団員が強襲。
左右から挟みこむ斬撃を伏せて回避し、お返しの当身を喰らわせようとしたところで、その背後から双剣の男と良く似た顔立ちの男が逆手に握ったナイフを振るい背中を斬り裂く。
両者に前後より挟み込まれる事を嫌ったミズキアが、転げてその場から離脱。片手を地面に付けて跳ね上がり、着地したところに唐突に体勢を崩して膝を付く。
「わたくしの毒ガスの味は如何でしょうか?」
「毒ガス、だと……?」
女の師団員の言葉に慌ててミズキアは呼吸を止めるが、既に全身の7割以上が麻痺して動かなくなっていた。
「本来ならば致死性の毒を散布するところですが、あなたが相手では捉える事は難しそうですので、変わりに即効性のある無色無臭の神経ガスを使わせて頂きました。今さら呼吸を止めても遅いかと思われます」
ミズキアの眼光を向けられたその女性は、優雅に一礼する。
「申し遅れました。わたくしはウフクスス家第11師団師団員のマナス=リヴァ・ウォンデルケンと申します。生憎洒落た通り名はございませんがね」
膝を付いたミズキアの頭上に覆い被さる影。
その正体を見極めようと首を上げるよりも先に、頭部に剣が突き刺さり顎から抜け出る。
同時に喉元と心臓にそれぞれナイフが突き立ち、合わせて3度の死を与える。
血反吐を吐き出し、神経ガスによる麻痺から脱したミズキアがさらに空中へ。追い縋ろうとする2人の男にナイフを投擲して牽制し、右方より迫る業火を能力を発動させて還元。
あっという間に消失した炎の遮幕の影に追従するように放たれた強酸の槍も、同様に還元される。しかしその酸の槍に包まれていた、透明の槍が肩口を抉り貫通する。
空中で衝撃を与えられて体勢を崩し、緩やかに落下を始めたミズキアの墜落予想地点に先回りする影。
片手で軽々と槍斧を扱うその男は、頭上でその得物を旋回させて十分に遠心力を乗せた強烈な一撃をミズキアへと叩き込む。
その一撃が叩き込まれる寸前で転移し、その攻撃は空を切る。しかし10メートルほど離れた場所に現れたミズキアが着地した直後、胸部にアバラを纏めて粉砕する痛烈な一撃が襲い掛かり、優に数メートルは足が地上から離れて地面を転がる。
「ぐッ……砕け散れ【炎火の紅玉】!」
激しく咳き込み喀血しながらも、中指に嵌めていた赤い宝石が埋め込まれている指輪を抜き取って放り投げ、キーワードを口にする。
途端に宝石が砕け、内側からその小さな宝石の内部に納まっていたとは思えない、天壌の業火さえも上回る熱量を誇る炎が噴き出し、距離を詰めてきたウフクスス家の者たちを目掛けて殺到する。
「退がっていろ!」
先頭を走っていた双剣の男がそう言い放ち、似た顔立ちの両手にナイフを構えた男と並走を始める。
そしてどちらからともなく武器を握る両手を前方へと掲げ、襲い掛かる炎を迎え入れる。
「なッ、マジかよ!?」
人間など骨の髄まで焼き尽くし、原型はおろか遺体さえも残さない筈の業火は、まるで彼が普段戦場でそうしているかのようにその勢いを急速に衰えさせ、淡い光となって消え失せる。
目を凝らして見れば、先頭を走る2人の前に薄っすらと光を反射する正六角形の集合体の殻が顕現しているのが確認できた。
「ウフクスス家第11師団師団員の【対術師】イシュタリト=ルド・スカトーリアと」
「同じく【対術師】エシュタリト=ルド・スカトーリアだ」
双子の兄弟である2人が発動したのは一部の高位魔族や古代竜が大抵の魔法を消失させ、多量の魔力が込められた強力な魔法であっても大幅に減殺させる効果を持った、恒常的に展開している結界を人間が魔法で再現した、無属性の超高等魔法である【反魔相殺陣】の魔法。
本来は数百人もの術者が長時間掛けて組み立てる準戦略級であるその魔法を、双子ならではの阿吽の呼吸と、5大公爵家に生を受けた者が持つ魔力量を用いる事で、ごく狭い範囲ながら強烈な猛火を完全に抑え込むほどの代物を瞬時に組み立てていた。
遮るものが無くなった師団員たちが疾駆。先頭を走る双子が各々の武器を構え、最初に接敵するかと思いきや、同時に左右に散る。
直後にミズキアの体が、胴体から真っ二つに分かたれる。
「名乗り遅れたが、ウフクスス家第11師団所属の【風斬りのレハール】だ……」
槍斧を持った男レハールが、厳かな声で振り抜いた槍斧を元に戻す。
「覚える必要は無い。今までの口上も全て、規則に則ったが故のものだからだ」
「そして俺が、フェルギア=ルド・レスティレオだ。お前たち【レギオン】には息子が世話になった」
即座に胴体を繋げて復活したミズキアの背後から、地面よりヌッと現れた、ゼインと応対をしていた男がミズキアの胸に手を突っ込み抜き取る。
抜き取られた手には赤黒い肉塊。未だ脈動するそれがミズキアの心臓であると本人が理解したのは、それによって死亡して蘇った後の事だった。
「くっそ……!」
毒づきながらも、ミズキアは何度目かの転移を実行。徐々に形成され始めていたウフクスス家の包囲網から脱する。
さらに一箇所に留まれずに停止する事無く移動するミズキアへ、いくつもの魔法による遠距離攻撃が撃ち込まれ、地面を穿つ。
危ういところで、そのことごとくを回避するミズキアの進行方向に立ち塞がる影が2つ。
それまでと違い、ジャケットは羽織っていないその者たちが繰り出す槍を回避し、遅れて繰り出されて来た石突きを素手で弾く。
その際に手の骨から不穏な音が響くも、一切合財を無視して空中で身を捻り、両者に蹴りを叩き込んで体勢を崩させる。
「空間切断!」
そこに能力を発動させ、武器を犠牲にその場から退避した両者の片腕をそれぞれ奪う。
そして仕留め損ねたという事実を前に悔やむ間もなく、どこからともなく淡い光が迫り、腕を失った2人を包み込む。
途端に滑らかな断面を見せていた腕から骨が突き出し始め、形を作り、それを筋肉が包み込んでいき皮膚が覆っていく。
ものの数秒で元通りの腕を取り戻した2人が、新たに魔法で生成した剣を繰り出してミズキアの体を貫く。
「【癒光のベストラ】だ。師団の回復役を担っている」
体を貫きこそはしたものの、致命傷には程遠いミズキアは相打ち代わりに切断した槍の穂先を相手に叩き込むも、その傷も瞬く間に癒される。
声の主のほうを見てみれば、先ほどまで重傷を負っていたゼインの傍に立った小柄な女性が、ゼインに向けて手を翳して光を当てて治療を行っていた。
その光景を確認し終えた刹那、遠距離から飛来して来た矢が側頭部を貫き、一瞬彼の視界は闇に落ちる。
「どれほどの不死性を持とうとも、完全な不死などあり得ない。必ず然るべき対処法というものが存在し、それに忠実に従えば、不死者など恐れるに足らない」
「テメェ、らァ……!」
苛立ったような声を上げるミズキアの表情は、奇妙な事に笑っていた。
自身が窮地に立たされているという現状を理解できていないが故の笑みでは断じてない。むしろ当事者であるが故に、その場の誰よりも理解している。
元より心許なくなっていた命は、ここに来て大幅に削られたことによっていよいよ後が無くなっている。
ともすればそれは、長い傭兵としての人生の中でもトップレベルの窮地と言っても過言ではなかった。
なのにミズキアは笑っていた。怒りも憎しみも皆無な表情で、心の底から笑えていた。
「クソッ、楽しいなァ。オレはザグバとは違う筈なんだが、何でだか知んねえけど、楽しいじゃねえかよ! 空間断裂!」
腕を振るい、狙いなど一切定めていない無差別の攻撃を撒き散らす。
当然ながらそれを喰らわぬようにウフクスス家の者たちが退避した事によって生じた、一瞬の間の空白。
その隙を活かして、ミズキアが左手を突き出す。
その突き出された左手首に嵌まっている、複数の宝石が嵌め込まれている腕輪に右手をやり、指先で蒼穹の如く蒼い宝石に触れて叫ぶ。
「顕現しろスカールス!」
言葉と同時に蒼い宝石が眩い光を放ち、虚空に膨大かつ複雑怪奇な術式を浮かび上がらせる。
「手を出すな! 退がるんだ!」
「正解だ。だがもう遅い」
ゼインの言葉に動き出そうとしていた部下たちが動きを止め、ミズキアより距離を取り始める。
だがそれを嘲笑うかのようにミズキアは言い放ち、術式の中心に交錯した亀裂が走り、中心からそれが姿を現す。
曇りの無い、宝石に勝るとも劣らない幾つもの鱗に覆われた頭部に、無数の鋭利な牙の並ぶ口腔。鋭い光を宿す縦長の瞳孔を持った眼は左右にそれぞれ3つずつ、計6つあり、それらが外の景色を拝むかのように独立して動いてウフクスス家の面々を見渡す。
顕現したのはその頭部のみで、その頭部には額を始め眼球のすぐ傍や頬から顎に掛けて、挙句の果てには口腔内に至るあらゆる場所にミズキアが使う黒い角柱が深々と突き刺さってはいたが、その金色の瞳には虚ろな光など皆無で明確な意思の光が宿っていた。
そしてその角柱だけでは制御できていない事を裏付けるかのように、角柱の全てに魔力による様々な色の鎖が繋がっており、それらをミズキアが手綱のように握り締めていた。
「古代竜だと!?」
「そうだ。と言っても、こいつは幼体だがな」
ミズキアの声を捉えたか、青い古代竜が視線を、続いて顕現している首だけでもミズキアの方向へと向けて口を開こうとし、ミズキアが縛鎖を全力で引き寄せる事によって遮られる。
「かつ、て、こいつの親を団長が殺して、単体となったところを、オレを含む不死組で、襲撃をしたが……」
強制的に閉口させられたばかりか、向きを前方へと戻された古代竜が狂ったように暴れ始める。その度に縛鎖のどれかが弾け飛び、新たな縛鎖をミズキアが生み出しては繋ぎ合わせる。
「総計して、1000にも届く回数の死を、経験した挙句、殺し切る事は叶わずに、捕らえるまでに留まった……が、それでも、まるで制御、し切れていない……!」
ミズキアの声はもはや苦鳴に等しい。
眼は極限まで見開かれ、唇の端からは強く噛み締められすぎて切れた事による出血が流れ落ち、また鼻腔もまた同様に出血を伴い始めていた。
保有する魔力量が膨大で、それによって身体能力を向上させても頭部だけの筈の古代竜の力には抗いきれず、圧力に耐え切れなくなった体の随所からも赤い血が弾け出る。
「やめて、おいた方が、懸命だ……!」
必死に竜を抑え込もうとするミズキアの無防備な姿に、一部の構成員が動き出そうとして、ミズキアの警告に足を止める。
「オレが、死んで、一瞬でも制御が離れれ、ば……こいつは、あっという間に、周囲を灰燼に変える……!」
「貴様ッ……!」
最悪に等しい脅しに、フェルギアが義憤の声を上げるも、それに反応する余裕さえミズキアには存在しない。
「さあ、スカールス……全てを、消し飛ばせ!」
縛鎖のうちのいくつかを手放し、閉口させた口を自由にする。
と同時に、それまで以上に残る縛鎖に力を込めて、間違っても自分の方を振り返って来ないように制御する。
僅かな自由を得ながらも、それでも自身を捕らえた憎き人間に良いように使われている事を理解していた竜は、それでも捕らえられた恨みを晴らす為に口腔の奥に溜めていたものを解放する。
それは人間も、そして下手な魔族でさえ足元にも及ばない、大海に匹敵する魔力が費やされた息吹。
その戦略級魔法に匹敵する息吹が口腔より放たれ、轟音と閃光、粉塵とそれに伴う暴風に振動が副産物として生み出され、本命の極太の雷撃がウフクスス家の者たち目掛けて射出される。
「おのれぇっ!!」
「よせ!」
双子のスカトーリア兄弟が制止の声を振り切り、全力の【反魔相殺陣】を展開。古代竜の息吹と衝突し、正六角形の集合体である結界は瞬時に崩壊。周囲に結界の正六角形の破片が飛び散り、次の瞬間には青い燐光となって消える。
災害に等しき息吹が通り過ぎた後には、何も残らない。
ただ地中深くまで抉れた地面の底に、おまけのように消し炭の残骸たる灰が敷かれるだけだった。
直前までの騒音が嘘のように静まり返る周辺に、怨嗟の彷徨とそれに混じった苦鳴が響き渡る。
苦鳴を漏らすミズキアは、自身が顕現させた古代竜を必死の形相で送還している最中だった。
開かれた口腔は上顎と下顎に何重にも縛鎖が絡み付く事で再び閉じられ、至る所に突き刺さった角柱に繋がっている縛鎖が後方へと引き寄せられる事で、虚空に出現している亀裂へと古代竜の頭部が引き擦り込まれて行く。
しかしそれすらも古代竜が全力で抵抗する為に遅々として中々進まず、僅かたりとも気を抜けば拘束を振り解いて自由を得て、即座にミズキアを殺しに掛かる事は明々白々だった。
「うぅぉおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
獣のそれと大差の無い雄叫びを上げて、ついにミズキアが古代竜を亀裂の奥に引き摺り込む事に成功する。
闇の奥へと消えて行ったスカールスはそれでも怨嗟の声を止めることは無く、それは亀裂が閉じるまで響き渡る。
やがて亀裂の閉じた事によって役割を終えた術式が、独りでに解けてはミズキアの手首に嵌る腕輪の宝石へと吸い込まれていき、回収が全て終わり数度明滅した後に本当の静寂が訪れる。
「スカールスは、危険過ぎる。ダスクーリュも相当なものだが、それさえもスカールスと比べれば、赤子に等しい。一歩どころか爪先でも間違えれば、逆にオレが喰われて終わる」
荒い息を次から次へと吐き出すミズキアが、それでも亀裂のような笑みを浮かべて膝を持ち上げ立ち上がる。
すかさず能力を発動させて、果敢にも雷撃を防ごうとして失敗した双子と、不幸にも逃げ遅れた末端の構成員3名分の魔力と命を自分のものへと還元する。
「これでそっちの数が減って、少しは楽になるな」
「問題ない」
万が一にもスカールスが完全解放される事を避ける為に、完全に術式を収め切るまで静観を選択していたウフクスス家の者たちが包囲網を敷き、フェルギアが強気な笑みのままミズキアの言葉を切り捨てる。
「5人の命に対して、数十回は殺している。採算はちゃんと取れている」
「これだから、損得勘定で動かない連中は嫌なんだ……」
非情な言葉の裏に宿るのは、強烈を通り越して苛烈の域に達している使命感。
場合にとっては嫌悪感を抱くであろうフェルギアの言葉に対しても、その場に居るウフクスス家の中の誰も不満を表情に浮かべている者は居ない。
「……お前たちは補助に徹しろ」
そこに、彼らの長であるゼインが現れ睥睨する。
「奴は俺が仕留める」
師団長の言葉に、全員が無言で首肯する。
秩序を重んじる彼らにとって、上に立つ者の言葉は立場以上の絶対的な意味を持っていた。
そのゼインを、ミズキアもまた好意的な、しかし凶暴性の高い笑みを浮かべて迎え入れる。
両者が睨み合ったのは、ほんの僅かな間。次の瞬間には弾かれたように動き出し、そしてゼインが声高らかに警告を飛ばす。
「総員散れ!」
その指示を疑いも戸惑いも無しに従う事ができたのは、師団員の者たちが殆ど。
残る末端の構成員のうち、一部の者たちはその指令の意図が理解できずに一瞬だけ静止し、そして全身を斬り刻まれて倒れ伏す。
「やあ、ミズキア」
ミズキアの左手側より、悠々とした足取りで好青年の笑みを浮かべたヴァイスが近付いて来る。
「助けは必要かな?」
次回予告
さらなる進化を遂げる不死者を前に番人は命を削り、帝が暴帝へと至り新たな死を呼び込む中、巨星の1つが遂に堕ちる……みたいな。