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王都襲撃⑦

 



「うん、少なくともある物は利用できるみたいだね」


 貯蔵庫の中にあった食材のうち、そのままでも食べられる物を見付けたのでとりあえず食べてみる。

 その果実の種類と記憶に残っている味は一致しているけれども、それが記憶から読み取ったが故なのかどうかは判断がつかない。


「ていうかそれを言ったら、この建物も含めて、いままでの舞台も私はさっぱり見覚えが無いんだけどね」


 だとしたら、私の記憶は関係がないって事かな。

 でも、何でもかんでも私の記憶に準拠する必要は無い訳だし。中々決定的な手掛かりが得られないね。


「お嬢様、つまみ食いは、はしたないですよ……?」

「そうだね。でも落ち着いて座って食べる事もできないんだから、仕方が無いと思うよ?」


 手足を折られて身動きができない、かつてアルフォリア家に勤めていたコック長さんと会話する。

 別に首を追ってトドメを刺す事ぐらい、魔力による強化が無くても素の私でも十分できるけど、いまはそれをしない。

 このまま私がどっか行ったとして、彼が再登場するかどうかを確かめる為に。


「まあ、武器が手に入ったのは収穫かな」


 3つ目の舞台がおどろおどろしい雰囲気を放つ、まるで怪談の舞台にもなりそうな館の中だって気付いた時に真っ先に思い浮かんだのが、自衛の為の武器を手に入れる事だった。

 これだけ大きな建物ならばどこかしらに厨房はある筈だし、そこならばほぼ確実に刃物が置いてあると思って探し出したんだけど、予想が外れなくて何よりだよ。


「お嬢様、何故私を殺したのですか?」

「貴方もそれを聞くんだね。言っておくけど意味ないよ、その問いに」


 少なくとも私は、あの侍女長さんや彼を殺した事に対して罪の意識なんて抱いてないもの。


「だって貴方、私に毒を盛って殺しようとしたでしょ」

「仕方が無かったのです。家族を人質に取られていたのです」

「うん、知ってる」


 だって他でもない本人が喋ってたからね。

 にしても、その事を知っているって事は、やっぱりこの世界は私の記憶準拠なのかな。


「逆らえなかったのです。だから私は、やるしかなかった」

「それには同情するよ。でも私は、その為にわざわざ殺されてあげるほど自己犠牲には溢れてなかったからね。

 それにさ、私が食事に手をつけないのを見るや否や、いきなりナイフを振り被って来たじゃん。そりゃあ抵抗するよ、普通に考えて」

「せめて釈明の余地ぐらい、与えてくださっても良かったではないですか。どうして殺したのですか」

「だから殺されそうになったからだってば。て言うか、生かしたまま捕らえろとか、当時の私には酷な話だったよ?」


 何せ、碌に魔力を制御できてなかった頃の話だからね。

 それまで持っていなかったのに、比較対象が無いくらいに膨大な量をジン君から譲り受けたんだから当然と言えば当然の話だけど。

 しかも当時の私なんて、体術は碌にできてなかったからね。魔法で抵抗するしか無かったよ。


「でもまあ、それを言い訳にするつもりもないよ」


 仕方が無いと言えばそれまでだけど、殺したのは紛れも無い事実だしね。

 かと言って、その事をイチイチ悔いるつもりもないし。

 殺しに掛かって来たから殺し返した、ただそれだけで完結するだけの出来事をイチイチ蒸し返して、ややこしくする事に意味なんてなくてただ不毛なだけだもの。


「そういう訳だから、その話はこれで終わり。私は自分の所業に心なんて微塵も痛めていない、だからこれは無駄なだけだよ」


 食べ終えて残った芯を捨てて、水でべたついた手を洗う。


「にしても、ここまで来ると例え領域干渉系の能力でも、何かしらの術者にとって不利なルール上の欠点が存在するはずなんだけどなぁ。そのルールが、さっぱり分からない……」










 扉から出て行ったアキリアを、男は静かに観察する。


「冷静さは健在で焦りは見えない。そして分析力も高い。時間を掛ければ、能力の全容に行き着く可能性が高いな」


 男の名前はデルヴァン。傭兵団【レギオン】の11番であり、他の団員と比べれば比較的新しい時期に入団した人物である。


「決して仕留めようとは考えるな、足止めだけに留めろ……か」


 それが事前に、第1副団長より厳命された事だった。


「侮られているのか、それともそうではないのか、イマイチ判断がつかぬな」


 デルヴァンは、自分の能力に自信を持っていた。

 絶対であるとか、最強であるとかと慢心しているわけではない。事実先ほどの分析のように、見破られるときは見破られるという事を理解しているし、実際に体験している。

 だがそれでも、強力なのもまた客観的に見ても揺るがない事実だ。

 例え圧倒的な格上であっても、最強クラスが相手であっても、術者がただ発現しただけに過ぎない者であっても殺し得ることができる。それが領域干渉系の能力だ。

 実力差や格の差に関係なく、相手をルール内での行動しか取れなくさせる。それは術者もまた同様だが、その時点で実力差は殆ど関係が無くなる。


 その性質をデルヴァンは良く理解した上で、じっくりと自分の能力の研鑽に従事した。

 生憎限定的な能力故に範囲は限られるが、持続時間を、そして内容の緻密さを充実させる事にひたすら歳月を費やした。

 そしてそれは、【レギオン】という集団に属した事で完成したという自負があった。

 とある人物の補助を受けた事で、彼の能力は1つの固有能力としてそれ以上を望めない域に到達したという確信があった。


「……どちらにせよ、このまま行けば遠からず破られるのもまた事実」


 そしてその結論は、自分の能力は絶対ではないという事を理解しているからこそ行き着いた解だった。


「ならば、一気に仕留めに掛かるのもまた選択肢の1つだろう」










「出て来いダスクーリュ!」


 ミズキアの手首に嵌められた腕輪、その装飾具である宝石の1つが強烈に発光し、彼によって支配された怪物が新たに出現する。

 緑と白の2色によって上下に塗り分けられた鱗に覆われた胴体は直径だけでも人の身長を超え、尾までの長さは実に数十メートルにも及ぶ。

 そして頭部の辺りに存在するのは、外見だけを見れば人間の裸体の上半身。

 白いざんばら髪を伸ばし、口からは細長い舌を垂れ流したその裸体は老婆のそれで、おまけにそれだけで胴体に見合う大きさを備えており、口だけで人間を丸呑みできる程の大きさを誇る。

 そんな外見ゆえに、眼にしても性欲を掻き立てられることは無いだろう。


「ナーガか」

「ただし、魔界原産の規格外のサイズのだがな」


 形状そのものが蛇に近いため、長いとは思えても大きいと感じる事は中々無い。

 だが長さもそうだが太さも異常であり、質量だけを見れば相当な数値となる事は容易に想像がついた。


「殺し尽くせ!」


 ミズキアの号令に従い、ナーガが老婆の頭部の口を開き、喉奥に橙色に発光する光球を生み出す。


「あれはやっべぇ!」

「くッ……!」


 吐き出されたのは極大の熱線。

 口腔の大きさと同程度の直径を誇る熱線が瞬きほどの時間も掛からずに放たれ、そこからさらになぎ払われる。

 当然その範囲内に存在していたものは、燃える事すらなく消失する。


「うっごえええええええええええッ!!」


 情けの無い悲鳴を上げながら、熱線を回避したテオルードが逃げ回る。

 老婆の顔が彼を丸呑みしようと降り掛かる度にギリギリで回避し、標的を逃して地面に激突し揺れる地面に揉まれながらも、紙一重の回避をし続ける。


「アオォォォォォォォォ……!」


 何度目かの捕獲に失敗し、変わりに口の中に抉り取った岩盤を入れたナーガが、恨めしげな呻き声を上げながら口腔内のものを咀嚼し飲み込む。


「悪食かよ!」

「まあ、大概のものならそいつは喰えるな」

「ッ!?」


 テオルード自身が使っていた、自分に刺さり血の付いたナイフを煌かせてミズキアが斬り掛かる。

 それを寸前でナイフで受け止め、甲高い音が鳴り響く。


「ダスクーリュはオレのペットの中でも特に手の付けられない個体でな、ああして咀嚼して飲み込んだものを、材質を問わずに体内で魔力に還元する事ができる。還元というあたりがオレと似ているから、気に入ってたりもするんだがな」

「お前の趣味思考なんざ知りたくもねえよ!」


 力で押し込んで弾き飛ばし、蹴りを叩き込む。


「ハハッ、まあちゃんと聞いとけよ。その方が身の為だからよ」


 その蹴りを腕で受け止めたミズキアが残虐に笑う。


「オレがそうであるように、還元した魔力というのは再利用されるもんだ。それはダスクーリュも変わらない。ただし用途はオレとあれとは異なる。あれの場合は――見たほうが早い」


 ミズキアが視線で指し示した方向を見ると、動きを止めたナーガが、その長い体を不気味に蠕動させていた。

 大口を開いてそうする様はまるで何かを吐き出すかのようであり、その予測を裏切らず、喉奥から楕円体の紫色の物体が吐き出される。

 粘液に塗れたそれは地面に転がり停止したところで早くも亀裂が入り、殻を突き破って中身が飛び出して来る。


「……マジかよ」


 中から現れたのは、ダスクーリュという名のナーガをサイズダウンさせたナーガ。

 サイズは精々が数メートルほどだが、既に上半身の人間と同じ外見のそれは老婆のものであり、さらに言えば親であるダスクーリュとまったく同じ顔の造詣をしている事に気付き、テオルードは吐き気がこみ上げて来た。


「ああして還元した魔力がある程度たまると、それを卵として吐き出す。その卵から孵った個体は、同じようにあらゆるものを喰らって体内で魔力に還元し、それを元に急成長していく。

 そして親と同じぐらいのサイズまで大きくなればそこで成長は止まり、成長に当てる必要の無くなった魔力は今度は卵へと回されるようになる。

 あれが1体居るだけでネズミ算式に増えていき、対処できずに手をこまねいていれば、数日もあれば国を滅ぼせるそうだ」

「繁殖力高すぎだろうが。ゴキブリかよ」

「ゴキブリよりも遥かに高いさ。そしてここからが面白いところでな、オレが制御している個体――ダスクーリュはともかく、それ以降に生まれた個体には当然だが支配は及んでいない。つまりは、あらゆる者を無差別に殺しに掛かって来るという訳だ!」


 新たに生まれたナーガはその場で即座に地中に潜る。

 程なくして現れたのは、ミズキアの言葉を裏付けるかのように仲間である筈のザグバの足元。

 咄嗟に飛び退いて難を逃れたザグバを恨めしげに見つめるそのナーガのサイズは、地中で大地を喰らっていた為か潜る前と比べて格段にサイズアップしていた。


「勿論その中に、オレも含まれているという実に笑える仕様だ。まあオレの場合、喰われても死なないがな」


 突き込まれて来たナイフを、ミズキアはあえて躱さない。

 それを正面から受け止め、腹筋に力を入れて刺さったナイフを抜かせずテオルードの腕を掴む。


「じゃあ仲良く消化されるとしようか」

「冗談抜かせ!」


 背後から襲い掛かって来たダスクーリュの開かれた顎に、反転してミズキアを押し込む。

 ミズキア自身をつっかえ棒代わりに、辛うじて口の縁に立っているテオルードは何とかして腕を掴んでいるミズキアの手を振り解こうとしようとするが、その直後にミズキアが怪しく笑うのが眼に入る。


「なッ、嘘だろッ!?」


 気付いた時には既に遅く、ミズキアの姿はまるで煙のように消え失せる。

 そして遮る盾を失ったテオルードは危うく丸呑みにされかけ、ギリギリで牙を掴んで踏ん張り呑み込まれるのを防ぐ。


「大人しく呑まれとけ」

「ぐあッ!?」


 しかし直後に、唐突に現れたミズキアによって背中にナイフを突き立てられる。

 咄嗟に勘に従って身を捻り、危うく急所を刺される事こそ防ぐも、その痛みに呻いたのも一瞬で、すぐさま刃に塗られた毒が全身に回り始め痺れて来る。


「クソ……がッ!」

「ジャァァァァァァァァァァァッ!!」


 全身に毒が回る前に、ナイフを目の前にあった舌に突き刺し、力一杯引っ張って真っ二つに斬り裂く。

 その痛みに堪らずダスクーリュはテオルードを吐き出し、のた打ち回る。


「ぐッ、クソ……!」


 背中に突き立ったナイフを引き抜き、腰から錠剤を取り出して適当に口の中に放り込み咀嚼し飲み込む。

 自分で調合した、既存の魔法では解毒が不可能な毒であるが故に魔法で早急に取り除く事はできないが、代わりに薬で分解を促す。


「【圧着】……!」


 そして残る傷に関しては、強制的に塞いでそれ以上の出血を防ぐ。


「ッ――!」


 しかし一息吐く間もなく転がり、直後に地中からナーガが現れる。

 それは最初にダスクーリュが産んだ個体ではなく、2体目の幼生体だった。


「マジで繁殖力異常過ぎんだろうが! 怪物退治は暗殺者の仕事じゃねえんだぞ!」


 怒声というよりは悲鳴に近い声を零し、幼生体の吐き出す成体と比べれば細い熱線から逃れる。

 そこに幼生体の背後にゼインが現れ、能力を使い老婆の首を切断する。


「サンキュー、助かった」

「邪魔だったから排除しただけだ」


 ゼインの視線の先には、ザグバの姿があった。


「触れないっていうのは、思いの外に面倒だな。それで怪我をさせられたら、治す事は無理そうだ」


 ゼインの能力を看破し警戒するザグバは、十分に注意が必要な相手だとゼインは判断していた。

 相性で言えば僅かに自分の方に傾くが、そこにザグバの人知を超えた膂力を加味すると果たしてどちらに天秤が傾くか。

 それは現状では判断しかねる事だった。


「まあ、だからこそ面白いんだがな!」

「――ッ、ウフクスス!」


 テオルードが叫び、ザグバに合わせて構えたゼインは間一髪で頭上から襲来して来たミズキアの角柱の棒を防ぐ。

 かと思えばミズキアの姿は掻き消え、今度はザグバがテオルードの方へと戻って来る。


「クソ、この俺が間を読み返されてんのか!?」


 あり得ないと思いながらも、そうとしか説明のつかない現象を前に毒づく。

 紙一重で拳を回避し、続く蹴りも伏せて回避したところに、後頭部に振り下ろされた棒を転がって躱す。


「捉えた、空間切断!」


 そして突然、左腕が落ちる。


「が……ッ!?」


 断面は平らではなくかなり急激な傾斜を作っており、まるで標本のように生々しい光景が一瞬だけ広がり、思い出したように血が溢れる。


「完全に捉えたと思ったんだが、咄嗟に腕を犠牲に逃れやがった。普通感知なんざできる筈がないんだが……未来予知か?」

「ちくしょう、が……お前、いまのは……!」


 驚愕と苦痛が入り混じった表情をミズキアへと向ける。

 見ればそれはテオルードだけではなく、ゼインも同様であった。


「オレの固有能力である【還元】は、ありとあらゆるものを自分のものとする事ができる。それは生物無生物を問わず、生者死者をも問わない」


 パッとミズキアの姿が消え失せ、一瞬でゼインの隣へと移動する。

 咄嗟に腕を挟んだゼインだったが、フルスイングされた棒によって骨がへし折られる。


「空間断裂!」


 周囲の景色に、まるで写真を斬り裂いたかのように線が入りズレる。

 そのズレはすぐに大きくなっていき、地面や壁を問わずに粗の1つもない断面を覗かせてあらゆるものが切断される。


「空間交換」


 そして今度は、ミズキアと吹っ飛ばされたゼインの位置が交換される。

 そこにザグバの拳の衝撃波が迸り、今度こそ回避できずにゼインの姿が宙を舞う。


「死体は有効活用しなきゃなぁ。まだまだ使いこなしきれてないから有効範囲は狭いが、能力単体としては相当に強力だぜ。この【空間支配】の能力はな!」


 それはかつてのアルフォリア家当主であり、そして【レギオン】第2副団長であるカインの手によって討たれ命を落とした、シャヘル=ラル・アルフォリアの持っていた能力だった。












良く死ぬ奴は強い……気がする。

こいつちょっと詰め込みすぎじゃないのかって気もしなくもあらず。言い訳ですがこれでも初期設定から変わってないのですよ。

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