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混沌始動⑦

 



「「……チッ」」


 ムカつく奴の顔を見て急激に不愉快になっていく気分を晴らすように舌打ちすると、奇しくも何故か同じようにミネアのした舌打ちと重なる。


「おやおや、誰かと思えば、大言壮語したクセに大コケした挙句ベルさんにボッコボコにされたお強いエリート様じゃないですかぁ」

「いきなり随分な言われようだな!?」


 まるで脈絡も無ければ、おれからすればどういう意味だかさっぱりなミネアの罵倒だったが、傍から聞いている分には実に気分が良いのでスルーする。


「つか、思い出した。お前確かウフクスス家の奴だろ。ついさっきまで、お前んところの奴に殺されかけたんだが?」

「そのまま殺されていれば良かったのに」

「何つう言い草だ」

「すいません、つい本音が口を突いて出てしまいました。建前はうっかり死んでいれば良かったのに、でした」

「変わらねえよ」

「いえ、その交戦したという方とは関係なく死ねという意味ですので、きちんと違いはあります」

「……おい、俺とお前って、そこまで面識がある方じゃないよな?」

「信頼関係というものは必ずしも出会ってから経過した時間に比例する訳じゃありませんから。加えて貴方は私の敵ですので、信頼関係はどん底固定です」

「別に信頼関係を築きたい訳でもなければ、そんなつもりはこっちにも毛頭無いが、そこまで言われる筋合いも無い筈だと認識しているんだが?」

「他人に対して危害を加えた側はその事を忘れがちですが、加えられた側はずっと忘れないものなんですよ」

「そもそもお前は今の今まで俺の事忘れてたはずだよな?」

「覚えてるじゃないですか、私が貴方をボロクソに言う筋合いの1つは」

「ボロクソ言っている自覚はあんのな」

「意図的に言葉を選んでいるんですから当然じゃないですか。それすらも分からないほど貴方は……いえ、それこそ愚問でしたね。貴方に対して最初に抱いた印象はやはり間違っていなかった。

 ところでその鈴の音を止めてくれませんかね? 貴方の声並みに耳障りかつ汚いです」


 聞いていて恐ろしいまでに低レベルな言い合い……いや、一方的な罵倒だった。

 聞くのは勿論、見るのも堪えない。

 おれはまだしも、アルトニアスに至っては事態の推移に付いて行けているかすらも怪しい。


「おいジン、こいつ縊り殺して良いよな?」

「何でおれに聞く」


 はた迷惑極まりない。


「はっ? だってこいつ、お前の許婚だろ?」

「「はぁ!?」」


 何でアルトニアスまで驚いているんだ。

 じゃなくて、


「とうとう頭沸いたな」

「断定形かよ。そこのガキが言ってたんだよ、お前の許婚だって」

「お前アホか? そんなあからさま過ぎる嘘に騙されるなよ」

「なっ、騙しやがったのか!?」


 やっぱこいつアホだな。前から分かってた事だが。


「あながち嘘でもないのですが……まあ置いときましょう。とりあえず貴方は回れ右して、早々に視界から消え失せてください。そして一生この迷路を彷徨ってのたれ死んでください」

「おいジン、やっぱこいつ殺して良いよな?」

「おれに確認を取るな」

「ジンさん、厚かましい事は承知ですが、早急にこの人を物理的に排除してくれませんか? 微力ながら助力する事は約束します」

「…………」


 こいつと意見が一致するのは甚だ不愉快だが、カインを排除するという意見に賛同するのはやぶさかではない。

 見た感じ、平常時よりも弱っているように見えるし、ある意味ではチャンスとも取れる。


「……殺るか」

『殺るならオレにやらせろヨ』

「何でそんな結論に達するんだよ。見ろよ、俺結構重傷だろ?」


 馬鹿かこいつは。いや、アホだったか。

 だから殺るんだろうが。


「少なくとも眼に映るような外傷は肝臓辺りの刺し傷ぐらいだな」

「重傷じゃねえか」

「どこがだ」


 その下にあるべき臓器が無いのは――厳密には足りてないのは、よく知っている。

 それをやったのは、他でもないおれだからだ。


「……はぁ」

「……無粋だな」


 無粋かどうかは知らないが、間が悪い事だけは確かだった。


「それにしても、これで少なくとも3勢力か。ますます訳が分からなくなって来た……な!」


 煉瓦の壁を乗り越えて最初に降りて来た奴から順に縦に両断する。

 カインが出てきた通路の奥から出てきた連中は、全員がカインの手によって一太刀で首を刎ねられる。


「何ですか、彼らは?」

「こっちが聞きたい」

「精神支配を受けた人たちよ。誰がやったのかまでは分からないけど」

「ああ、なるほど……」


 アルトニアスの言葉に、合点が言ったとばかりに頷く。


「おい、ミネア」

「何でしょうか?」

「先導しないで口頭で行き先を指示できるか?」

「むしろ先導するよりも簡単ですね。身を守らなくても良いので」

「ならやれ」

「了解しました」


 正直に言えば自分の身ぐらいは自分で守れと言ってやりたかったが、言ったところで不毛なだけな為に飲み込んでおく。


「カイン!」

「一時休戦か!?」

「共同戦線だ!」

「決まりだな!」


 癪に障るが、その方が合理的だと割り切る。

 現状の詳細は依然として不明だが、大前提としておれのコンディションが万全でない以上は、戦力はどれほどあっても足りるなどという事は無い。

 その点こいつは、おれの方が不満を呑み込めば戦力としては申し分ない。

 決して許した訳ではないが、合理的な思考の元で一端確執は抜きにする。


「すいませんが、周囲の地形を簡単で良いのでメモしてありませんか? 何でしたら、ざっとで良いので思い出してもらうだけで構わないのですが?」

「それなら、一応私がメモしたのだったらあるわ」


 アルトニアスからメモを受け取ったミネアの顔が、そのメモを覗き込んだ瞬間に顰められる。


「分かり辛いですね、せめて縮尺ぐらいは正確でなくとも意識してください。それとせめて現在地ぐらいは書き込んでおいてくださいよ」

「うっ……」

「まったく分からないという訳でもないので、構わないといえば構わないですけど、解読する身にもなってくださいよ」


 妙に棘のある言葉だったが、一方で事実でもある為なのか、アルトニアスから反論は無い。


「手伝おうか?」

「結構です。その方が合理的な場合は癪に障りますけれどもそうしますが、今はその時ではありませんので。

 そんな事よりも、あちら側に道に沿って進んでください。途中で曲がるべき角があれば、その都度支持します。勿論――」


 視線が、指差した方角から沸いてくる精神支配を受けた連中を捉える。


「彼らに関しましては全面的にお任せします」

「何が勿論なんだかな!」


 先頭を走る相手の両膝を両断し、直後に顎を足で打ち抜いて後方の奴に当て、返す剣でそいつらを纏めて両断する。

 左側の壁を乗り越えて現れた新手に、出会い頭の一太刀を浴びせて出鼻を挫く。

 間髪入れずにカインが間に割って入り、鈴の音を伴って続く連中の首を刎ねる。


 身に着けている装備は動きを阻害しない軽鎧に加えてそれぞれの武器と、装備面だけで見れば立派なものだ。

 だが、動きこそ早いが各々が狙いを定めて突進して来るだけで、対処は容易だった。

 少なくとも今はだが。


「まずこの迷路の性質ですが、おそらく全体像はかなり広大であれど常に同じです。空間そのものに捻れはなく、特定地点ないし特定行動を取った物体を特定地点に跳ばすのが性質と見て間違いないでしょう。残念ながら確証はありませんが」

「ああ、それに関してはこっちと見解は一緒だな。音の反響から考えてもほぼ間違いない」

「余り嬉しくないところからの補足ですが、つまりはそういう事ですね。全体像が常に同じである以上、この空間から脱する為の出口も常に同じ地点にあります。ですので、後は進み方の法則にさえ気を付ければ問題が無いという事です。

 そして気になる法則についてですが、正直に言ってこれがかなり面倒くさいです。あっ、そこを右に曲がってください」


 指示に従って十字路を右に折れた瞬間、向かい側からと反対側の曲がり角からそれぞれ新手が襲って来る。

 カインと視線を一瞬だけ交え、即座に結論を出してカインが後方に下がる。


「見れば分かると思いますが、この迷路を構成している通路は恐ろしいまでに整然としています。お陰で一見不自然な点がないと思いがちですが、逆を言えば、その整然とした構成こそが最大のヒントとも言い換えられます。

 加えて、迷路を構成している通路にパターンが少ない。分岐路は多くでも3つまでで、大別してしまえば通路は僅か4通りのみに分別できます。分かりやすく方眼紙を思い浮かべてください。1マスの中に縦横共に3マスずつの小さなマス目が描かれている方眼紙です。

 残念ながら図で説明している手間が惜しいので口頭での説明になりますが、その小さなマスに左上から順に1から9の数字を割り振ります。

 すると通路は、最も多い2・5・8のマスが繋がった直線の通路、4・5・8ないし5・6・8のマスが繋がったL字路、1・2・3・5・8のマスが繋がったT字路、そして2・4・5・6・8のマスが繋がった十字路の4通りに区分できます。

 この迷路は、以上の4つの通路をそれぞれ1マスとして方眼紙上に詰め込んでいく事で完成する代物だと考えてください。全体の方眼紙の大きさは不明な為、全体像も分からないままですが」


 ミネアの説明を箇条書きにし、頭の中に並べてみる。

 言われてみれば確かに、迷路を構成していた通路は不気味なまでに整然としていたし、分岐路は十字路による3つまでが最大で4つ以上の分岐路がある場所に当たった事も無い。


「それで、肝心の攻略法は?」

「それに関してはまだ自身を持って断言はできませんが、おそらくは魔方陣に似ているのではないかと思っています」

「魔方陣?」

「ええ、知りませんか? 正方形の方陣の中に、数字をどの列においても合計の数字が同じになるように割り振っていったものの事なんですが」

「一応は」

「何それ?」

「魔法陣?」


 アホ2人は放置する。


「あくまで似ているというだけ……というよりも、要素としては合計数値ぐらいしか共通点は無いのですが、列を道のりに置き換えれば分かりやすいのではないかと思います。

 直線路、L字路、T字路、十字路の順にそれぞれ数字を割り振り、所謂チェックポイントからスタートして、通った道のりを構成する通路の数字の合計値が一定になった場合チェックポイントが更新され、それを積み重ねていく事が大まかな攻略法になるかと。

 そしてこの手のものにおいて正解の道筋は限られていますから、必然的に攻略法に従って進んでいけばおそらくゴールに辿り着けるはずです」

「その各通路の数値と、合計の値は?」

「すいません。それに関しましては、まだ検証中としか言いようがないです。

 ですが一応、既に何通りかに絞り込んではいます。ここまで構成が緻密だと、返ってこっちの条件は緩い事が多いので然程手間取らない数字の筈ですから。

 1番あり得るのは、1から4までの数字で合計値はその階乗でしょうかね。まあ初項が1である保証も、公差が1である保証もありませんので、あくまで推測止まりでしかありませんが」


 つまり、いま飛ばしている指示は検証の為という事になる。


「それと攻略法が特定できたとしても、もう1つ問題があります」

「あくまでノーミスで到達できるのは、事前に全体像を把握している場合のみに限るという事か?」

「ええ、その通りです。ですので正解のルートを割り出すのには、どうしたって最初のうちは虱潰しに地図を埋めていく必要があります。

 元よりこの能力の意図自体が、取り込んだ相手を消耗させる事にあるので不自然ではないのですが、面倒である事には変わりはないかと」

「……いや、それに関しては多分大丈夫だ」


 少なくとも当てはある。

 頭を下げる事を考えると激しく不愉快ではあるが、カインならばそれは可能だろう。


 それにしても――


「普通は気付かないぞ」

「でしょうね。ですが私は普通ではないので。私の有用性を改めて認識していただけましたか?」

「……そうだな」

「気のない返事ですね、まあ良いですが。それよりも、前提条件に今のを問題がもう1つ生まれます。そっちの方が重要ですね」

「構成の緻密さと規模の矛盾か」

「ええ。ここまで構成が緻密――もとい難易度が高いと、その分範囲が狭くないと釣り合いが取れない筈です。

 それができる程の腕を持った領域干渉系の能力者なんて聞いた事もありませんし、まず隠し通せるものじゃない。どこかで詐欺をやられている気がします」


 仮に最初は常識に則った通りにごくごく狭い範囲にしか干渉できなかったとして、それを地道な鍛錬で伸ばしていったのだとしても、習熟するには当然だが能力を使用する必要がある。

 となれば、これ程までのレベルまでに使いこなせるようになるほど能力を使っていれば、どこかしらで誰かが気付く筈だ。

 かと言って、最初からここまでできたというのも考えにくい。

 100歩譲って本当にそうであったと仮定すれば、確かにおれはまだしもミネアまで心当たりがないというのもおかしくはないが、逆にそれほどまでに才ある者ならば、能力とは関係のないところで知名度が上がる筈だ。


「オイ、長い説明は終わったか?」

「……理解できたか?」

「要するにそいつの指示に従って進めば良いんだろ?」

「やっぱお前アホだわ」


 アルトニアスですら、できてはいないが理解しようとしてはいた。

 早々に理解を放棄したのはお前だけだ。


「ンな事よりも、ちょっとヤバイかもしれん」

「何がだ?」

「敵影の数だ」


 握った剣に括り付けてある鈴を揺らして鳴らしてみせる。


「後方から相当な速度で近付いて来ている。反響音から推測するに、この分だとあと数分で接触する筈だ。数は……およそ200」












くっそ分かり辛い説明で申し訳ありません。

改善案等がありましたら、是非感想欄にてお願いします。

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