第三話:戦闘の後
立っていたのは、天月を持っていた蒼穹だった。と言っても体も満身創痍で今にも崩れ落ちそうな状態でふらふらと安定感のないものだった。
刀を地面に刺しそれを支えに立ち、横目で横たわる白狼のウォルカを見た。
先程の「風神剣」で、切ったが、それはあくまで峰打ちだったのでウォルカは一応死んでいない。だが手加減できる状態ではなかった一撃だった為、重い一撃になってしまい目を回し気絶していた。
蒼穹は身体から血が流れるのを感じながら刀を地面から引き抜き鞘に納め、座るのにちょうどいい岩を見つけ座り込んだ。
ウォルカの一撃を替わりにうけた上着はもうひどい有様だったので、使える部分に切り布にする。その布で自分自身を出来るだけの手当てして、大きく出血している部分を止める。おかげで先程より容体も安定して力も戻り気も少し楽になって行った。
今できる事をすべてやり終えたので、ふと地面で寝ているウォルカを見た。
(しっかし、大きなオオカミだ。今までこんな奴見たことないぞ。)
小さいころ世界の動物図鑑で見たいろいろな動物たちを思い出す。しかしここまで大きなオオカミなんぞ爺さんの山でも見たことはない。さらに話すことのできる動物なんぞ人間以外見たことはなかった。
蒼穹は頭の奥底にあった一番ありえない可能性が浮上してくる。
―ここは自分の住んでいた世界ではないと言う事に―
ありえないだのあり得るだの思考をぐるぐる回転させていると、
『ぅぅんううぅっぅ…ハッ!?』
ウォルカは目を覚ました。
そして、蒼穹を視界にとらえると、毛を逆立て悔しそうな声を滲ませて吠える。
『何故殺さなかった!私を侮辱しているのか。』
「別に俺は最初からお前を殺す気なんて、さらさらなかったぞ。」
『何?』
蒼穹は呆れたように諭す。
「初めて会った時から言っただろ。何でここに居るのかわからないって。あれは本当の事で気が付いたら俺のいた道場からここに飛ばされたんだ。」
順序立ててきちんと説明する。するとウォルカは素直に聞いて、徐々に落ち着いてくる。
『……………そうか。まだ完全に信じられんが、確かに嘘は吐いていなさそうだな』
ウォルカは釈然としないながらも、目を見て嘘をついていないと理解したらしい。
相手が話を聞いてくれたタイミングで蒼穹は本題を告げた。
「取り敢えず、俺はウォルカの希望通り聖域?から出て人のいる所に行きたいんだ。そこまでさっきの事の謝罪を込めて案内してくれないか。
うまい事相手の譲歩を引き出そうとする。
そして蒼穹は自分の考えが正しいかどうか、この世界の住民に会って確かめようとした。
つまりここは自分の居た世界ではなくて
―異世界なのかを―
ウォルカは少し考えた後、コクッと頷く。
『分かった、取り敢えず出口を…!?』
出口に向かって歩みだそうとした瞬間、ビクっとして動きを止めた。
そして明後日の方を向いて話し始めた。
『…え?はい…申し訳ありません。不覚を…え…ええ………え…え、えええ本当ですか!?このまま連れて来いと!何でです?面白そうだから?バカじゃぁ…も、申し訳ありません。分かりました。』
ひとりでに話だし、蒼穹は怪訝にウォルカを見たが、それに気が付いた様子はなくそのまま会話を続ける。
『分かりました。そこまで言うなら。はい、はい、はい。』
独り言が終わると、くるっと後ろの蒼穹の方を向いた。
『事情が変わった。お前を聖域に連れて行こう。』
「…は?」
『もう一度言うぞソラ。お前を我々の聖域に招待しようと言っているんだ』
今まで出ていけと言われて戦ったのに急に手のひらを返すような言葉に目を瞬かせる。ウォルカも自分の言っている意味が分かっているのか少し恥ずかしそうな表情をしていた。
それにしてもオオカミなのに表情豊かである。
「え、えっとウォルカは俺が聖域に入ったことに対して怒っていたんだよな?」
『…』
「でなんで今度は素直に入れてくれるんだ?」
蒼穹がそう尋ねると、意を決したかのように告げた。
『我が王の気まぐれでな。基本的には聖域にはわが種族以外ほとんど入れないのだが、今回は何でも『侵入者の顔が見たいわ。聖域に連れて来なさい。あ、これは命令だから抗議とか受け付けないから』とおっしゃられてな。すまないが一緒に来てくれないか…もちろん身は保証する。』
蒼穹はその軽さに同情するがその言葉に考え込み、ふと何かを思いついたのか顔を上げウォルカ見た。
「もしかして、そいつは俺がどうやってここに来たのかを分かるのか?」
その質問に目を白黒させたが、ウォルカもふと何かいたずらを思いついたのかニヤッと笑った。
『それはお前が陛下にお会いすればわかることだ』
その挑戦的な態度に苦笑を浮かべる。
「分かったありがたく招待されよう。」
そう言って笑うと、蒼穹はウォルカの後に続いてついて行った。