表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

うなぎ

「飼いたいんだ」


「何? いきなり」


 早苗は目を細めて、夫である小林一郎の方を見た。


「飼いたくてしょうがないんだ」


「飼いたいって、何を」


「ウナギ」


 早苗はさらに目を細める。近視の人間が焦点を合わせるために努力するときの視線。早苗は両目とも裸眼1・5のはずだが。


「ウナギって何よ」


「ウナギはウナギだよ」


「ウナギ飼いたいって、急に、頭おかしいんじゃないの」


 早苗の目は、粘土の表面にヘラでつけたひっかき傷のように無表情になった。


「だから、ウナギ飼いたいって言ってんだろうがあああ。このメスブタが! オレはおまえなんかよりウナギを百倍も愛してんだあああ」


 善良なる夫を10年間演じ続けてきた小林一郎は、いまだかつて使ったことのない言葉で妻を罵った。


 早苗は、こん棒で打ち付けられたように体を硬直させる。


 目に涙をためて、ソファから立ち上がる。どすどすと足音を立ててリビングから出ていく。叩きつけるようにしてドアを閉めた。


 すべてが終わった、早苗とは。


 すべてが始まった、ウナギとは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ