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四日目(午後の部)~夕方から夜へ~

俺たちは、優美子の部屋にあった奈美の携帯を申し訳ないと思いつつ持ち出し一度大学に戻り、そのまま自然とT館に向かっていた。T館に着くと直樹と由香里ちゃんが座っていた。




「宗助先輩!あれ?みなさん一緒だったんですね」

「どうしたんですかみなさん、なんだかまた疲れた顔になってますけど…」



心配する直樹と由香里ちゃんに誰もが苦笑いするしかなかった。慎也でさえも由香里ちゃんを目の前にして挨拶すら交わさないとは、やはり今回ばかりはみんなダメージが大きかったようだな。



「すまん直樹、ちょっと今頭の中が混乱し過ぎて説明がつかん。ちょっと考えさせてくれ」俺がそう言うと直樹は少し申し訳なさそうに黙り込み由香理ちゃんと顔を見合せた。


「裕美子ちゃんと愛梨ちゃん、どこ行ってしまったんやろか…」

「どうして裕美子の部屋に奈美の携帯あったんだろうな」

「…謎が謎を呼んでるね」



拓摩の言う通り、本当にどんどん謎が深くなってきている。何から考えていいのかさえ分からなくなってきた。

裕美子の部屋でいったい何があったのか、二人は何処に消えたのか、奈美の携帯は何故あの場所に…。



バンッ!!


机を無駄に大きな音を立てて叩き、立ち上がったのは清孝だった。



「とにかく!探すしかねぇだろ!」



清孝のその一言で、さっきまでお通夜みたいだった空気が少しずつ晴れてきた。


「せやな、ここで考えててもしゃあやないし、探し行こ」

「…せやな」



拓磨!?



「あの…」


俺以外誰も気づいていないような拓磨のコボケを横に、直樹が申し訳なさそうに声を洩らした。


「一体何があったんですか?なんかみなさん熱い決意をしていますけどイマイチこっちまで伝わってこないんですが…」

「裕美子と宮下さんがいなくなったんだ。しかも裕美子の部屋が荒らされていて、何故か奈美の携帯が置いてあって…」


そう言いながら奈美の携帯を直樹に差し出す。


「えっ、ちょっと待ってください!なんか急展開すぎてついていけないんですが…」

「そりゃそうやろうな、俺たちも何がどうなっとんのかさっぱり分からん」


そんなことを言いながら慎也は分かりやすくお手上げのポーズを決めた。

その横で直樹は俺が差し出した奈美の携帯を不思議そうに見つめていた。手に取ると、初めて携帯電話を見たかのように、様々な角度から携帯を観察している。


「どうした直樹?」


俺は不思議そうに携帯を見る直樹に問いかけた。


「いや、…これって、本当に奈美先輩の携帯なんでしょうか?」

「そりゃ、奈美の携帯に決まってるさ。さっき奈美の携帯に電話掛けたらその携帯が鳴ったんだ、どう考えても奈美の携帯だろ」

「あ、いや、もちろん奈美先輩の携帯だとは思うんですが…」

「なんだよ?」


直樹は携帯を凝視しながら不思議そうに応えた。



「この携帯、あまりにも新しすぎませんか?」



直樹の発言を聞いた俺たちの頭の上には、きっと分かりやすく?マークが浮かんでいただろう。


「どうしてそう思ったんだ?」


清隆が鋭い目つきで直樹に聞いた。


「何といいますか、単純に汚れや傷が全くついてないし、液晶の保護シートもこれ最初からついているやつですよね?」

「何でそんなことわかんねん!ていうか、奈美が単純に携帯めっちゃ大事に使ってただけちゃうか!?」

「確かにその可能性も十分あります。でも…ほら」


直樹が携帯画面を向けてきて俺たちは言葉を失った。

連絡先の登録画面には、『村岡宗助』という名前が一つ寂しく登録されてあった。


「!!!?」


俺は直樹から携帯を奪い取り着信履歴やメールボックスをチェックした。


そこには、『村岡宗助』の文字しか書かれていなかった。

奈美の携帯には、俺とのやり取りしか入っていない。


「これって…」


必死に言葉を探す俺の代わりに、拓磨が動揺しながらもいつも通り冷静に言った


「…宗助専用の携帯だね」

「なんで…どうして…」


上手く言葉が出てこない。

何故俺の名前しか入っていない!?奈美は裕美子とも慎也とも、ここにいるメンバー全員と携帯でやり取りしていたはずだ!

別の携帯?携帯を二つ、いや複数持っていた?何のために?どうして俺だけが登録されていた?


考えれば考えるほど分からなくなっていく…一体何が起きている?


「とにかく、三人を探すしかありません。どこか行くあてはないんですか?」


直樹の問いかけに、俺たちは誰も答えられないでいた。


「いや、待てよ。ある、一つ三人の共通な場所がある」

「どこやねん?」

「サークルだ」


清孝が有名な探偵アニメの決めセリフを言う時のようなドヤ顔で言い放ったその言葉で、みんなは一斉に動き始めた。

慎也はまずどこの大学のサークルに三人が入っていたのか、拓磨はこの大学に三人と同じサークルに入っている人間を探した。

清孝は「真実はこの中に必ずある」と言いながら、有名な探偵漫画を読み始めた。

俺はとりあえずどうしていいか分からず、もう一度裕美子の部屋へ行ってみようと思い足を運んだ。



誰もいないと分かっていても、やはり女の子の部屋に無断で入るのは気が引ける。

俺はわざとらしくノックして「裕美子、入るぞ」と周りに聞こえる声で独り言を発してから中へと足を踏み入れた。


……部屋の中を見渡して、改めてこの部屋で何が起きたのだろうと考えていた。

そういえば、まだ寝室の方は見ていなかったが何か手がかりになるものはあるだろうか。心の中で裕美子に謝罪しつつ寝室の方に向かった。


「!?」


寝室の方は全く荒らされた形跡はなく。隣りの部屋と比べるとここだけ別世界のような時間が流れている気がした。

真っ赤なカーテンに純白のシーツが掛かっているベッドが置いてあり、本棚やクローゼットも綺麗に整頓されていた。

一通り部屋の中を見渡したが、特に手がかりになるようなものは見つけることが出来なかった。

寝室を出ようとしたとき、ドアの横に飾られている数枚の写真が目に入った。写真には楽しそうに笑っている裕美子の写真と何処かの風景を撮った写真が飾られていた。そういえばさっきも隣りの部屋で写真を見つけたな、もう一度見てみようか。


「~♪♪♪」


ドアノブに手を掛けたとき俺の携帯が鳴った。



「もしもし」

「宗助!?大丈夫か!!ええか!とにかく落着け!?」

「お前が落ち着け」


電話口から飛んできた声は慌ただしい様子の慎也の関西弁だった。


「どうした。何か分かったのか?」

「あのな、とにかく落ち着いて聞けや、裕美子が病院に運ばれて意識不明の状態らしい」

「……え?」

「俺と拓磨は今病院に向かってる!直樹と由香里ちゃんにも連絡したから多分二人も向かってると思うで」


まてまてまて、全然ついていけてないぞ俺


「えっと、待てよ、清孝はどうした?」

「それがあいつ全然連絡つかへんのや!こんな大変な時に何処で油売ってんねんあいつ」

「なんだよそれ…分かった、とにかく俺も病院に行く!何処の病院だ?!」

「創生病院や」

「分かった、すぐ向かう」



慎也との電話を切り、頭の中を整理する。

………。

何でこんなことになってしまったんだろう。昨日まで普通に笑い合っていたはずの友達が今は病院で意識不明の状態って…。尚吾の時と同じだな。

何故か急に頭に浮かんできたのは、尚吾との別れの場面だった。あの時も急すぎて全くついていけてなかった。今もそんな感じだ。だから尚吾のことを思いだしたのだろう。


外はすっかりと闇に包まれている。また一日が終わろうとしている。ここ最近は日が経つにつれてどんどん状況が悪化している気がする。そんな不安を持ちながらまた明日を迎えなければならない。

しかし、裕美子や宮下さん、そして奈美を助けてあげることが出来るのは、もはや俺たちしかいないのではないか。

一度引き受けたからにはここで俺が投げ出すわけにはいかない。

そう決意し寝室のドアを開けた。


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