四日目(午前の部)
「……け……そう……すけ……そう…すけ…………宗介!」
ハッと目を開けるとそこには、俺の顔を険しい表情で覗き込む清孝の姿が映った。
「お前今何時だと思ってんだよ」
清孝は怒ったような呆れたような口調で、テーブルの上の時計を指差しながら言った。
俺はボーッとしながら清孝の指差す方へと目をやり、自分の目を疑った。
テーブルの上に置かれた時計の針は、丁度二時を回ったところだった。
「お前昨日徹夜だったからって、寝坊にもほどがあるだろ」
とりあえず清孝には言われたくないと思いつつ、自分はさっきまで寝ていたのだということにようやく気づいた。同時に集合時間から四時間も遅刻をしているということにも気づいた。
「ずっと携帯に電話してたのに繋がらねえし、仕方なく呼びに来たけどインターフォン鳴らしても出てこねえしよ、鍵空いてたから部屋に入って起こしてやったわけだ」
「そうだったのか、悪かったな」
「まぁ別にいいけど、今夜も特に何も起きてねえし。もうこのまま何も起きないんじゃねぇか?」
「そうかもな…ちょっと顔洗ってくるわ」
俺はベッドから降りて洗面台へと向かった。蛇口を捻り目一杯冷たい水を出し顔を濡らした。
鏡で自分の顔を見ると、少し老けたように見えた。きっとあの夢のせいだろう。
あの夢を見たのは久ぶりだ。年を取るにつれて見る回数は少なくなっているが、当時はほぼ毎日と言っていいほどよくあの夢を見たものだ。
部屋に戻ると清孝が煙草を吸っていたので、俺も便乗して一本吸うことにした。
すると清孝が突然「お前大丈夫か?」と言ってきた。
「何が?」
「なんか結構うなされてたぞ?」
「あぁ、たまにあるんだよ。トラウマってやつかね」
「そうかい、大変だな」
他の人がどう思うかは分からないが、俺は清孝のこういう何気に気遣ってくれるが、決して深いところまで詮索しないところが好きだ。だから清孝といると楽なんだろうなと思う。
実は清孝は女子からの相談がかなり多い。本人は面倒くさいとか言っているが、ちゃんと一人一人に的確な言葉を投げかけている。女子が相談したくなる気持ちはよくわかる。
「んじゃそろそろ行くか」
清孝の言葉でお互い煙草の火を消し、宮下さんの部屋へと向かうことにした。
もうずいぶん前からみんなは部屋にいるからという理由で、インターフォンもノックも鳴らさずに部屋のドアを開け、勝手に中に入っていく。
すると予想通りの反応がやってきた。
「宗介!お前なにしとんねん!今何時だと思ってんねん!」
「はいはい今二時だよね、俺もビックリしているよ」
「お前遅れてきといてなんやねんその態度は!そもそもな…」
とりあえず慎也の存在は完全に無視することにして、俺は拓磨と宮下さんに深く頭を下げた。優美子はさすがに今夜は来ていないようだ。
「…この遅刻は明日の昼飯全員分でチャラだから」
グッ、やはり拓磨は冷静に一番キツイことを言う。
「いいんですよ。村岡さんは昨日も徹夜してくれましたし、しょうがないですよ」
「いや、宮下さん本当にすみません。いつの間にか寝てしまっていて」
「せやから四時間遅刻てどういう神経しとんねん!だいたいな…」
………慎也の存在は完全に無視しています。
「もういいだろ、今夜も何事もなく宮下さんも無事なわけだし」
「まぁ、清孝がそこまで言うならええねんけどな。そもそも俺は別にそんな怒ってるわけちゃうしな」
誰がどう見ても一番キレてたじゃねえか!
みんなが思ったことだとは思うが、誰一人として慎也にツッこもうとはしなかった。
「んじゃ、解散するか。宗介は遅れて来たから今夜も徹夜でよろしくな」
「マジかよ…」
「せやな!愛梨ちゃんと二人きりってのは許せへんけど、そんくらいのことはしてもらわないかんわ」
慎也はともかく、清孝のさっきまでの優しさはどこへいったのだろう。
「そんな悪いですよ!村岡さん昨日も徹夜してくれたのに二日続けてなんて、私なら大丈夫ですから。今夜は何にもなさそうですし、みなさんがあまりにも優しいのでつい甘えてしまってました。すみません」
「宮下さん…」
この子って実はものすごく良い子なんじゃないか?
「いや、やっぱり今夜も徹夜で見張るよ。もし何かあってからじゃ遅いから」
「でも…」
「宗介の言うとおりだ!何かあってからじゃ遅いからな。さすが宗介、それでこそ男だ。じゃあ頑張れよな」
なに、褒めてくれるわりに一緒に見張ろうとはしないのか!?
「まっ、何かあったら起こしてくれればええから。ほんじゃな」
「…オヤスミ」
「お前らなぁ…」
そう言って、清孝たちが部屋を出ようとした時、
「ガシャーッン!」
えっ?
玄関口にいた全員が一斉に部屋の中に目をやった。
何が起こった!?
俺は誰よりも早く部屋の中へと戻った。すると、部屋の窓ガラスが割られ、破片があちこちへと飛び散っていた。割られた窓の近くには野球ボールほどの大きさの石が転がっていて、よく見るとその石に茶封筒が紐のような縄のようなもので雑に縛られていた。
「どうした!?」
次に部屋の中に飛び込んできた清孝が声を荒らげ聞いてきた。
「これ…」
俺は転がっていた石を拾い清孝と後から入ってきた他の全員に見せた。
「なんやねんこれ…てかまだ犯人近くにいるんちゃうか!?」
「…確かに」
そう言うと慎也と拓磨は部屋を飛び出した。
「おい、ちょっと待て…」
俺は二人を呼び止めようとしたが、すでに二人は階段を全速力で駆け下りていた。
「ハァ…大丈夫かな?」
「まぁ大丈夫だろ。あっちはあいつらに任せよう。それよりも…」
清田の視線は割れた窓ガラスと宮下さんに向けられていた。
宮下さんは部屋の中央に座り込み、何が起こったのか分からないといった表情で放心状態になっている。
「宮下さん大丈夫?」
「あっ、はい、すみません大丈夫です。ただ驚いてしまって…なんだか怖くなってきました」
無理もない。普段の日常生活で自分の部屋の窓ガラスを割られることなんてありえないことだろ。それにこんな状況じゃ誰だって怖いに決まってる。宮下さんはしばらく割れた窓ガラスをボーッと眺めていた。
「宗介、これ…」
「ん?」
清孝は石に縛りつけてあった茶封筒を渡してきた。
「そういえばこれ何が入ってたんだ……!?」
縛りつけてあった封筒の中には、宮下さんの写真がしわくちゃな状態で何枚も入っていた。しかも、どれもまともなカメラ目線は無く、たぶん全て盗撮したと思われる写真ばかりだった。中には宮下さんの着替えや、このマンションまで写っているものもあった。
「なんだよこれ…」
すると宮下さんは俺が持っていた写真に気づき、目を見開いて奪い取るかのように俺から写真を取り上げた。
「イヤっ…な、なんなのよこれ…何で……イヤぁーーーーっ!」
宮下さんは狂ったように泣き叫び、持っていた写真を汚いものでもを触ってしまったかのように放り投げた。
すると清孝がすぐに宮下さんのそばに駆け寄り肩を強く抱き、「宮下さん!大丈夫!?落ち着いて!」と何度も声をかけていた。
俺は宮下さんの姿を見て頭がおかしくなりそうだった。どうにか落ち着こうと自分に言い聞かせながら、こんなこと本当にあるのかと考えていた。
「マジでシャレになんねえよ…こんなことテレビの世界だけと思ってた…」
「宗介、世の中には、俺たちが知らないことが数え切れないほどあるんだろうよ。信じられないようなことが毎日繰り広げられてんだな」
「清孝…」
清孝は俺に向かってそう言うと、まだパニックを起こしている宮下さんの背中を無言で撫で続けた。
俺は飛び散った窓ガラスの破片をゆっくり片付けながら、この状況をどうすればいいのか考えていた。
その時、俺の携帯が静まり返った部屋の中に響き渡った。
携帯の画面には『公衆電話』と表示されている。
慎也達か?あいつら二人とも携帯持っていってなかったのかよ。そんなことを思いながら電話に出た。
「もしもし、慎也か?」
すると電話の向こうからは意外な声が返ってきた。
「もっ、もしもし?宗くん?奈美だけど、助けて…怖いよ」
奈美!?俺は奈美からの電話だったというより、奈美から助けを求められているということに驚き、うまく頭の中が整理できていないまま言葉を探した。
「どうした!?何があった?」
俺は異様な気配を感じ、思わず声を荒げた。
「わかんないけど、なんか誰かがずっとついて来てる」
「ついて来てるって…奈美今どこだ!?」
「今バイト終わって帰ってるところなんだけど、大学の裏の河川敷のところ。多分バイト先からずっとついて来てるよ。宗くんどうしよう…」
「わかった!すぐ行くから待ってろ!」
「…うん」
そう言ってから俺は電話を切った。何だってんだ今日は次から次へと、しかもこんなタイミングって…もう訳がわからん。
俺は考えることを一旦諦め、とにかく今は奈美の元へ急ごうと思った。
「清孝すまん、奈美がピンチだから助けに行ってくる。こっち任せていいか?」
俺は細かい説明を一切省き清孝に伝えた。
すると清孝は無言でうなずき親指を立てて俺の方に向けてきた。
清孝…今どきそれはちょっとダセぇ。
そんなことを思いながら俺は急いで外へと飛び出し、自転車にまたがり全速力で走らせた。
奈美の元へ自転車を走らせている途中でふと思った。
どうして奈美は携帯から電話してこなかったのだろう。バイト先かどっかに忘れてきたのか、それとも電池が切れていたのか。
そうだとしても何で俺の番号がわかったんだ?俺の番号を覚えてたのか?それも何で…
やはりいくら考えても答えは出そうになかったので、奈美に会ってから本人に聞こうという結論に至った。
そして俺は奈美が言っていた河川敷に着いた。奈美の姿はまだ見えなかった。河川敷は隣町まで続いていて、正直自転車を走らせて全て探していくのは不可能だと思った。しかも実際来てみると辺りは真っ暗で街灯も少なく、冷静になって考えてみると、こんな場所で待たせる方が逆に危ないと感じた。
とりあえず適当にゆっくりと自転車を走らせ、辺りを集中して見回した。
「奈美ー!どこだー!」
普段ならありえないことだろうけど、このときばかりは常識なんて言葉は一つも通用しないことがわかっていたので、俺は夜中だろうがなんだろうが、周りの目も気にせずとにかく叫んで奈美を呼び続けた。
すると橋の下から人影がこちらに向かって恐る恐る歩いてくるのが見えた。
「奈美!?」
「…宗くん?」
俺は自転車から飛び降り、急いで奈美の元へ駆け寄った。
「大丈夫か?怪我とかしてないか!?」
「うん。来てくれてありがとう。すごく怖かった」
「もう大丈夫だから。それで、その後をつけてきた奴はどこだ?」
「それが、宗くんと電話し終わって、電話ボックスから出たらいなくなってて…」
「そうか…まあとにかく無事でよかった」
「宗くん、本当に来てくれてありがとうね。宗くんの姿が見えた時、本当に嬉しかったよ」
奈美はそう言うと、目に涙のようなものを浮かべながら俺の顔を見て微笑んだ。
「当たり前だろ。しかしお前いっつもこんなに遅いのか?いったい何のバイトしてんだよ」
「それは…今日はたまたま忙しくて、それで…」
「ふーん…そっか。まあいいや、それより宮下さんの家で清孝が待ってるんだ。とりあえず戻って話そうか」
「うん」
「あっ、でも奈美んちってそっちの方向でいいのか?」
「大丈夫だよ。愛梨ちゃんちから結構近いんだ」
「そっか」
そうして、俺と奈美は宮下さんの部屋へと向かった。
自転車を走らせている途中何度か人の視線のようなものを感じた気がしたが、これ以上奈美を怖がらせるわけにもいかないと思い、特に内容もない世間話を懸命に話しながら、清孝と宮下さんの元へと急いだ。
宮下さんの部屋に戻ったら慎也と拓磨も帰ってきていた。
「よっ、奈美ちゃん。大変やったなあ、大丈夫なん?」
なんて軽い挨拶なんだ。こんな非常事態にあっけらかんと…しかし、こんな時だからこそ慎也のようなやつが一人いたら場が和むというものか。
「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「ええよ別に、でも呼ぶんやったら宗助より清孝の方が頼りになったのに。な、拓磨?」
「…ぷっ」
え?何こいつら、なんでこんな反抗的なの?ていうか何で拓磨今のタイミングで笑ったの?馬鹿にしてるんだな、そうなんだな?
「ううん、清くんの番号分からなかったし、宗くんが来てくれてよかった」
「奈美…」
奈美はそう言うと俺の方を向いて笑顔を見せた。とりあえずその笑顔はとてもつもなく可愛いくて、少し胸がドキドキしてしまった。
「あっ、そういや奈美どうして公衆電話からかけてきたんだ?携帯持ってないのか?」
「あぁ、うん。ちょっと…バイト先に忘れてきちゃったみたいで」
「ふーん、そっか」
なんだか奈美は少し答えにくそうだったので、俺もあえてそれ以上は聞かないことにした。
すると今度は部屋の奥から清孝が顔をのぞかせた。
「よっ、奈美。大変だったな、大丈夫か?」
「うん、私は大丈夫だよ。それより愛梨ちゃんは大丈夫なの?」
「あぁ、今ちょうど眠ったところだ。さすがに精神的にきたみたいだな。宗助が出て行ったあともずっと泣いて震えてたしな」
「そうなんだ…」
奈美は宮下さんのことを本当に心配しているらしく、寝込む宮下さんを悲しそうな目で見つめていた。
「しっかし、ホンマ許せへんな!こんな可愛い子を怖がらせて、何が目的なんやろうな」
確かに慎也の言う通りだ。犯人はいったい何がしたいんだ?今までは後をつけられたり無言電話があるくらいだった。それだけでもかなり気味が悪いことだが、ついには部屋の窓を割られ写真を送りつけてきた。犯人の行動はだんだんとエスカレートしている。このままでは本当に宮下さんの身が危ないだろう。
次の日、俺らはいつものT館に集まっていた。さすがに昨日の出来事はみんなにとっても衝撃的なことだったのか、みんな疲れた顔をしている。
「なあ、やっぱり警察に行こう。もう俺らだけで手におえる問題じゃないって」
「せやな、もう十分事件やで!」
「…いつか血を見るぞ」
清孝の意見に慎也と拓磨も賛成した。俺も清孝の意見に賛成だった。とりかえしのつかないことになる前に警察に行くべきだろう。
「んじゃ、今夜宮下さんに話してみよう。さすがにこんな状況だし、彼女も賛成してくれるだろう」
「そうだな、早いにこしたことはない。そういや宮下さん今日は大学来てんのかな?」
「いや、さっき優美子ちゃんに会ったんやけど、今日は大学休んでるらしいわ」
「そうか…てか優美子の耳にはもう入ってんのか、まあそりゃそうだわな」
「…直樹だ」
拓磨の言葉でみんなが入口の方へ目を向けると、こちらへ向かって歩いてくる直樹の姿があった。隣にいるのは…この間直樹と一緒にいた小柄な子だ。名前は何て言ったっけなあ…
「由香里ちゃんや!」
あぁそうだ、大澤由香里ちゃん。慎也の女好きが初めて役立った瞬間だ。
「こんにちは。…って、みんなすごい疲れた顔してますけど大丈夫ですか?」
なんともすがすがしい挨拶を交わしてきた直樹に対して、まともに受け答えできたのは慎也だけだった。
「大丈夫やで。それより久しぶりやなあ由香里ちゃん。元気しとった?」
どうやら直樹ではなくもう一人の相方へ向けられたものだった。
「あっ、はい。お久しぶりです。みなさんお元気そうで…慎也さんはお元気そうですね」
さすがにこの温度差は誰でも気づくのだろうな。
「そりゃ元気やで!てか何で二人なん?もしかして二人って…うそやん!?」
はいうそです。面倒くさい展開になりそうだったので俺はなんとか話題を変えた。
「どうした直樹?何か用があってきたんだろ?」
「いえ、さっき優美子先輩に会って昨夜のこと聞いて、ちょっと心配になって」
「そうか、まあ俺らは大丈夫だけど、本人はかなり効いてるな」
「そうですか…」
そんなことを話している俺の正面に座る拓磨がなにやらカバンの中をゴソゴソ探っている。
「…直樹に見せてみよう」
拓磨が取り出したのは、宮下さんの部屋に投げ込まれた盗撮写真だった。
「何で拓磨が持ってんだ!?」
「そこに…写真があったから」
拓磨は訳の分からない理由を置いてから写真を直樹に渡した。
「これは…ひどいですね。思ってたより大変なことになってるようですね」
「うそ…こんなことって本当にあるんですね…」
直樹の横から顔を覗かせていた由香里ちゃんもさすがに少し引いている様子だった。
「そうだよ、思っていた以上にやばいことになってきた。だから今夜警察に届けようって話を宮下さんに言おうって話してたんだ」
深刻な顔つきで清孝は直樹に言った。
「そうですね。こうなったらもうそうするしかないと思います…ん?」
「どうした?」
「この写真なんですが…」
そう言って直樹が手に持っていた一枚の写真は、宮下さんが笑顔で写っている写真だった。この状況は多分友達と話しをしてるのだろう。数人の友達に囲まれて宮下さんが真ん中で楽しそうにに写っていた。場所は…食堂か?
「この写真がどうかしたのか?」
「いや、僕もそんな写真とか詳しくないんですが。この写真って、どう考えても真正面から撮られた写真ですよね。盗撮というか…普通に正面から堂々と」
直樹のその言葉で全員が一斉にもう一度写真に目を向けた。確かに直樹の言う通り写真は正面から撮られているように見えた。少なくとも隠し撮りという感じではなかった。
「そう言われてみればそうやな。でも最近のカメラってすごいんやろ?こんなん拡大して写したら遠くからでもできるんちゃう」
「そうだとしら、宮下さんの前にも誰か写りませんか?ほらテーブルのところよく見てください。写している側の方にも食事がチラッと写ってるんですよ。つまり宮下さんの前には誰かが座っているんだと思います。もし遠くから隠し撮りしたのだとしたら、少なからず宮下さんの正面に座る人物が写ると思うんです。それに正面の人物を避けて撮ろうとしたら少し斜めからとか、角度がいると思うんです。でもこの写真を見る限りではそれはないんじゃないかと」
「じゃあつまりこの写真は…」
清孝が恐る恐る直樹に訊ねる。
「たぶん、この写真を撮った犯人は…一緒に食事をしている宮下さんの正面に座る人物だと思います」
昼休みのチャイムと共に、学生たちが食堂へと流れ込んでいく。
そんな騒がしい中で、俺たちの空間だけが時が止まったように静まり返っていた。