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一日目

(~♪♪♪)

携帯のアラーム音が夢の中で鳴り響いている。

かすかに開く瞼の先には、見慣れた天井がぼやけて見えた。


ベットから起き上がりテレビのリモコンを押す。そのまま洗面台へ向かい冷たい水で顔を洗う。

いつも通りの流れだ。

テレビから聞こえてくるニュースをボーっと眺めながら歯を磨いていると携帯が鳴った。

(メールだ)


「今日の一限代へんよろしく。」


絵文字もなにもないシンプルなメールを送ってきた相手は、友達の重森清孝であった。


(いやいや、あいつ昨日も休んだろ。この時間にメール送れるなら来いよな)


俺は頭の中で軽く文句をいいながら返信を打った


「了解」


一限目が始まるのは九時十分からだ。テレビ画面の左上には「8:52」と表示されてるのを見て、

まだ余裕があるなと、煙草を一本取り出して吸い始めた。



大学まで歩いて五分のところに俺の住むアパートはある。そして始業時間ギリギリに行くのがいつの間にか当たり前になっていた。


大学への道はアパートの目の前にある、神新治駅≪かみしんじえき≫の横道を通って行く。

駅が目の前にあるおかげで、俺の部屋には、常に学生の話し声や電車の走る音が絶え間なく聞こえてくる。



そして、大学に向かう途中だいたいいつも後ろから声がかかるのだ。



「宗佑、おはよーさん!!」

「おはよ、いっつも朝からハイテンションだな」

「んなことないって、宗佑がいつも眠そうなだけやろ?」

「…まぁ、それは生まれつきだからしょうがない」

「うそやん!?」

「……。」



俺は慎也の関西弁を軽くスルーしつつ、眠たい目をこすりながら歩き続けた。


この朝からハイテンションな…いや、常にハイテンションな男の名前は小野寺慎也である。

慎也は165くらいの身長で、細い。天然パーマ。

関西出身というのもあってか、とにかく四六時中やかましい。


慎也は隣のアパートに住んでいるため、だいたい毎朝一緒に大学に行くことが多い。



「昨日バイトでな!めっちゃ可愛いお客さんがきてな!たぶんうちの大学の子やねんかぁ!そんで話かけようとしたらな、彼氏持ちやってん!むっちゃショックやわぁ!!そんでな…」

「……。」



慎也は基本女好きだ。



そんな慎也の話を左耳で聞き、右耳で吐き出す行為を繰り返していると、教室の前のベンチで寝転がっている男がいた。


「おぉ!拓摩!おはよーさん!」

「………」





返事がない。ただの屍のようだ。




などと軽い冗談を頭の中でつぶやいていると、その男はムクッと起き上がり、目を開けているのか閉じているのかわからない顔をこちらに向け「…おはよ」と一言言った。



「こんなとこで寝てたら風邪ひくで!!」

「いや、そこじゃないだろ」と俺が冷たく言う横で、慎也はゲラゲラと笑っていた。



今にも閉じそうな目を左手でこすりながら、右手で頭をぼりぼりと掻いているこの男は、岩佐拓摩である。

拓摩の身長は170くらいで、体格はなかなかたくましい。とにかく髪の毛のキューティクルが半端じゃないのが特徴。


「なんでこんなとこで寝てんねん、もう講義始まんで。風邪ひくで!」

「………」



拓摩は基本しゃべりません。



そんなやりとりをしていると、始業のチャイムが鳴り響いた。


「やば、早よ行くで!」

慎也の掛け声とともに、俺たちは教室の中へ急ぎ足で入っていった。


教室の中に入ると、一目散に後ろの席に向かった。この時ばかりはいつもみんなの考えは一致していた。

席に着くと同時に、ものすごい速さで拓摩はまた深い眠りへと落ちていった。


その速さは、沸騰したやかんに触ってしまい手を引っ込める動作のあれに似ている速度だった。



すでに夢の中に行ってしまった拓摩の横で、俺はとりあえず教科書らしい物を机の上に投げ出した。

慎也は俺の反対側の拓摩の隣に座り、カバンの中をゴソゴソと探っている。

すると拓摩を挟んで顔をこちらに向け、かなり小さな声で、


「そういや清孝はまだ来てへんのちゃう?」と不思議そうな顔で聞いてきた。

「清孝は朝メール来て、代へん頼むってよ」

「またかよ!最近ちょっと多いやろ!」


確かに、元々あまり大学に来なかった清孝だったが、最近は前にも増して大学で姿を見なくなっていた。

重森清孝は、身長は拓摩と同じくらい(俺も同じくらい)だが、拓摩よりも細身で、細マッチョといったところだ。


「まぁ、いいんじゃね」

「せやな!」

と、俺たちはいつもこんな感じで、会話が軽い。


「村岡くん、おはよう」

慎也との会話が終わるのを見計らったように、小さく明るい声であいさつをしてきたのは、後ろの席に座っていた西沢奈美だった。

彼女は明るくて、知的。マンガにでくるようなヒロインとまではいかないが、小柄で可愛らしい子だ。

ちなみに「村岡くん」とは俺のことで、今更ながら村岡宗佑が俺の名前である。


「おはよう。髪切った?」

どう見ても昨日と変わりない髪形だったが、とりあえず言っておく。


「切ってないよ、村岡くん発言適当すぎ!」

と照れたように笑う顔は、まるで子どものように素直な笑顔だった。



講義が始まると、さすがに慎也も静かになり、拓摩はよだれを垂らしながら幸せそうに眠り続けた。

俺はケータイのニュースを眺めていた。



すると後ろからまた声がかかった


「宗くん、今日バイト?」

声をかけてきたのは、奈美の隣に座る川端優美子だった。

優美子は、長い髪をかき上げながら、クリックリとした目を輝かせて俺のほうを向いていた。


「いや、今日はバイトないよ」

「じゃあ、今夜みんなで飲みに行こう!こっちは私と奈美だけだけど、慎也くんと拓摩くんにも伝えといて!あっ、清くんも誘えたら誘っといてね」

「あぁ、わかった。聞いてみるよ」


俺はそのまま、慎也のほうに顔を向きかえ


「慎也、今日優美子ちゃんが飲みするらしいから行くよ」

「行くよて、今日バイトやねんけど」

「いやいや、慎也は休むよ」

「なんで勝手に決めんねん!!…まぁえぇけど」


そう言うと思っていたので、はなから決めつけるのはいつものことだ。


「あとは、拓摩はどうせ暇だから来るとして。清孝だな」

「昼には学校来るんちゃうん?そん時に聞こっ!」


昼には…くるのだろうか……






二限目は空き時間だったので、T館の一階でグダグダしていた。

T館の一階には、広い空間に机やパソコンが置いてあり、そこでランチをする人もいれば、自主勉強をする人もいる。学生が集まるフリースペースである。

俺たちもだいたいここに集まることが多い。



「それにしても、優美子ちゃんから飲みの誘いなんて珍しいな」

「せやな!優美子ちゃん達と飲むの久しぶりやな」



「……頭痛いんだけど」


久しぶりに拓摩の声を聞いたと思ったら、まさかの体調不良を訴えてきた。


「大丈夫か拓摩、そんな時は頭を振りながらそこらへんを歩き回ると治るらしいぞ」


俺は優しく適当なアドバイスをしてやった。


「うそやんっ!?」


慎也のツッコミを無視していたら、ちょうど二限目が終わるチャイムが鳴った。


「飯食い行くか。一応清孝にもメールしとくわ。」

「せやな、もしかしたら、もう一人で食っとんちゃう?」


俺たちはT館を出て、T館から少し離れた食堂へと向かった。



拓摩は、T館から食堂まで終始頭を振り続けていた…



食堂に着くと、入口から一番近いテーブルに荷物を置いて、券売機の列に並んだ。

この時間はとにかく人が多い、この大学にこれだけの数の人がどこに隠れているのだろうかと、いつも不思議に思う。



俺は一番安いきつねうどんをすすりながらケータイを開いた。


「あっ」

「どないしたん?」

「清孝もう少しで着くってよ」

「遅いねん!」


俺はチラッと横にいる拓摩を見た。

さっきまで頭が痛いと言っていたのが嘘のように、日替わり定食を驚くべきスピードで間食していた。

そんな拓摩を見て、あっけにとられていると、急に俺の目の前にドカッと座る音がした。


「もう先食ってんのか?」


さっきまで一緒にいたかのように、何食わぬ顔で現れたのは清孝だった。


「遅っ!びっくりするわ!」

「あっそ」

「……。」



清孝は冷たいです。



「清孝、優美子が今夜飲み行こうって言ってるけど、行ける?」

「あぁ、今日バイトねぇし、行けるよ」

「この四人で飲むのも久しぶりなんちゃうん!?」

「そう言われれば、最近飲みとか行ってなかったな」

「久しぶりにめっちゃ飲むか!」


清孝は無類の酒好きでもあり、飲みになると急にテンションが上がることがある。

ちなみに、俺と慎也は酒が弱い。そして拓摩は非常に酒が強い。


「んじゃ、講義終わったら俺一回帰るから、現地集合でいいか?」

「おう、また店と時間わかったら連絡するわ。慎也が。」

「なんで俺やねん!?まぁえぇけど」


そう言うと思っていたよ。


「拓摩はどうする?」

「…慎也ん家で寝とくわ」

「なんでうちやねん!?まぁえぇけど」

「……」

「……」




こうして、飲みの時間まで各自適当に時間を潰すことになった。



大学での講義が終わり、俺も一旦家に帰ることにした。

家に入ると雑にカバンをベットの上に放り投げ、テレビをつける。小腹が空いたので冷蔵庫を開けてみるが、賞味期限ギリギリの牛乳と、よくわからない葉っぱが三枚ほどあった。


「最近買い物も行ってなかったんだっけ。」


自慢じゃないが、俺は料理もできなければ、掃除や洗濯、あらゆる家事が苦手である。

まさに、一人暮らしの男子学生という部屋に住んでいる。

しょうがないので、牛乳を手に取りコップに注いでいると、慎也からメールがきた。


「今日は六時半から『いそや』で飲むから、遅れずに来いよ~」


その店ならここから歩いて十分くらいだ。もう六時過ぎてる、連絡遅いだろ。と文句を覚えながらも俺は先に行って待つことにした。





店に着くと、すでに女の子二人が待っていた。


「あれ?宗くん一人?みんなと一緒にくるのかと思ってた」

「みんな個人プレイが好きだからね、そのうち来るでしょ」

「まさか村岡くんが一番のりとはねぇ、絶対最後かと思ってたよ」


奈美の発言に悪意ははなかったと思うが、俺は苦笑いしかできなかった。

そうこうしていると、残りの三人も集まってきた。


「それじゃ入ろっか」


優美子の掛け声に合わせてゾロゾロと店の中に入っていった。


「予約してた川端です」と優美子が伝えると、店員に連れられ、個室の座敷部屋に案内された。


すると…すでに一人女の子が座っているのが見えた。

あれ?

今日は女の子は奈美と優美子だけだったよな。ていうかあの子誰だ?見たことあるようなないような…

俺はいろいろな疑問を感じながら、部屋の中へ入っていく。


部屋に入って、真っ先に口を開いたのはやはりこの男だった、


「あれ!?今日って奈美ちゃんと優美子ちゃんだけだったんちゃうん!?いや、えぇけどな!」


…なんでお前に許されるんだ?


「ごめんね、別に隠すつもりはなかったんだけど、知らない子がいたら来てくれないかと思って」


優美子は、少し申し訳無そうに言った。


「そういうことか、まぁいいじゃん。とりあえず座って、早く酒頼もうで」


清孝はもう酒しか見えていない様子だった。

男四人と女三人は向かい合って座り、それぞれ飲み物を注文した。


「それじゃ、今日は集まってくれてありがとう。乾杯!」


優美子の乾杯の合図で、清孝と拓摩はビールを一気に喉に流し込んだ。そしてすかさずおかわりをしていた。

相変わらずすごいな…

俺が二人に関心していると、慎也が話を切り出した。



「ほんで、そっちの可愛い子はいったいどちらさまでしょうか?」

確かに、よく見ると鼻が高く、まるで外人のような顔立ちだ。

可愛いというよりは、美しいという表現のほうが合っているだろう。



慎也の発言により、優美子が慌てたように紹介し始めた。

「あっ、紹介が遅くなったね、この子は宮下愛梨。私と奈美がいるサークルの友達なの」

「サークルって、テニスやったっけ?」

「そうだよ。愛梨ちゃんは英語科で私たちと学科が違うから、サークルでしかほとんど会えないけどね」


確かに英語科っぽいなと、俺は外見だけで勝手に納得していた。



「そんで、その美人な子と俺らを友達にしてくれる飲み会か!お友達からお願いしますか!?」


清孝はすでに酒が回り上機嫌な様子だった。

その隣で拓摩も、まだ店に入ってから一言も発していないが、ニヤニヤしてご機嫌なのが伺える。

そんな清孝の言葉とは裏腹に、優美子たちはお互いの顔を見合わせて、急に神妙な顔つきになり始めた。

すると今度は、宮下さんが何やら優美子に話していた。



「優美子、やっぱり悪いよ。私自分でなんとかするから」

「大丈夫だって!みんなこんな感じで適当なところあるけど、絶対力になってくれるから!」


俺たちはそのやり取りを見ていて、誰も適当な人間扱いされたことにはツッコまず、何かただ事ではないことを察し、なぜかみんな正座していた。


「あのね…実は、今日みんなを誘ったのは、この子を助けてあげて欲しくて!この子の周りで最近妙なことが起きてるのよ」


優美子の話に、俺たちはまだついていけず、全員の頭の中に?マークが浮かんでいた。

そんなことはお構いなしに、優美子は淡々と話を続ける。


「詳しいことは、本人の口から聞いてあげて。愛梨話せる?」

「…うん。ありがとう。」

「話づらかったらあたし達が話すからね?」

奈美も心配した様子で宮下さんを見つめていた。


宮下さんはどこか申し訳なさそうに俺たちのほうに顔を向けた。


「それで、どうしたの?」

この状況をいち早く理解し勇敢に質問したのは、まさかの拓摩だった。


「実は…ここ一、二週間くらい前からちょっとした嫌がらせみたいなことに遭っていて…

最初は、家に帰ったらなんか部屋の様子が違うなって感じくらいだったんです。

それが日を追うごとにエスカレートして、部屋の中が無茶苦茶に荒らされてたり、ポストの中に差出人不明の手紙があったり、その…下着が無くなったりとか…」


「下着が無くなったんですか!?何色の下着ですか!?」


この発言には、満場一致で慎也に白い目が向けられた。


「それはつまり…ストーカーってやつですか?」

清孝が恐る恐る尋ねてみる。


「…はい。」





「……うそやん。」


俺はおもわず、自然と慎也の言葉を口にしていた。


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