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捕らわれの勇者達

掲載日:2012/10/31

「シュー・ラドクリン? 君は本当にシュー・ラドクリンなのか! まさかダレスを守る紫の聖剣士と、この魔宮で出会うことになるとは・・・」

 涙を流しながら俺の手を力強く握った男は、30代と思われる白面の貴公子だった。


「カイ・ベンディング! そうかあなたが大神トトの預言者にして、ルーインの求道士と呼ばれる、白の聖者・カイなのですね。私も貴方にお会いできて光栄です」

 俺はこのような場所で伝説の聖者に会えた事を神に感謝し、膝をついて祈りをささげた。


 そう、ここは正義の魔力と殆どの技が封じられた悪の巣窟、暗黒魔城の中だ。

 昨夜、不覚にも俺は罠に落ち、数名のバーサーカーによってここに幽閉されてしまったのだ。



「私だけではない。こちらはホワイトソーサラー、JJ・マリー、そしてこちらはグレートシーフ、ロニー・ギャレットだ」

 カイが小声で仲間達を紹介してくれた。

 いずれもヒューラント世界で、知らぬ者はいない伝説的なヒロイン達だった。

 ただ、驚いたのはその容姿。魔宮の邪悪なエネルギーによって真実の姿が捻じ曲げられ、マリーはどうみても12,3歳の少女に、ロニーにいたっては・・・。


「よろしく、シュー・ラドクリン。私がこのような姿で驚かれた事でしょう」

 おずおずと差し出されたロニーの手を、俺はしっかりと握りしめた。

「みなさんをきっとこの魔宮から救い出して見せますからね」

 俺は乙女たちに誓った。


「ここには他にもレイランドの忍者、空雲やギギのサムライ、アシュラベエもいるんだ」

 カイが俺に耳打ちをした。

 いずれ劣らぬ伝説の勇者達。

 これだけのメンバーが揃えば、本来どれほどの窮地にあっても、簡単に打開できるはずだった。


 だが・・・、


「俺もいるぜ!」

 と、話に割り入って来たのは、昨夜俺をこの魔宮に引きずってきた悪のバーサーカーの一人、紅顔のクニツカだった。


「食事の時間は、会話禁止だ。さっさと食いやがれ!」

 看守のクニツカが手にした邪剣をカイの首にあてた。


「結界が解かれれば、君を最初に灰にしてやろう」

 カイが不敵な面構えでそう答えた。

クニツカはその言葉に驚いた様子で「ケッ、口の減らねえやつだ」と、言い残して立ち去った。

 やはり、バーサーカーもカイの力を恐れているようだ。


「君が今日ここに表れたのは、まさにトトの思し召し。先日我々は魔宮の地下にヒューラントへ飛べるポータル(脱出口)を発見したんだ」

 カイがちらりと忍者・空雲達に目配せをしながら言った。

 空雲達もこちらを見てコックリと頷く。

「今夜脱出を決行する予定なんだが、君も来てくれるね」


 昨夜、罠にはまり魔宮に連れてこられた俺は絶望の夜をすごしたが、どうやらわずか1日で脱出できそうな雰囲気だった。


 その夜・・・、


 バーサーカー達が寝静まった頃を見計らい、俺の独房を秘かに開ける者がいた。

 グレート・シーフのロニーだった。


「実は私、いつも自分の独房を抜け出して城の中を探索し、その様子をカイに知らせていたのよ」

 そう言ってロニーはイタズラっぽく笑った。

「彼女の活躍により、魔宮地下のポータルを発見できたというわけさ」

 いつのまにかカイを始め、マリーや空雲、アシュラベエも集まっていた。


「バーサーカー達に気付かれませんでしたか?」

 俺の質問にアシュラベエは「見張りの雑魚共なら、ワシが峰打ちで眠らしてやったぜよ」と笑った。

 どうやら魔力や殆どの技を封じられても歴戦の勇士が集まれば脱出は簡単そうだった。


「でもこのまま、城の主を倒してしまおうなんて言わないで下さいよ」

 カイがにやりと笑いながら言った。

 勿論それはわかっている。

 結界の謎を解き、おそらくは城の周りにある封印のクイを引き抜いてからでないと暗黒魔城の主と戦う事は出来ないだろう。


「とにかく一度ヒューラントに戻りましょう」

 俺の一言で、全員が行動を開始した。

 

 地下へと続く別棟へは中庭の塀を乗り越えねばならなかったが、ここは空雲が木の枝で梯子を組み、

 何重にも閉じられた扉はロニーがこじ開け、迷路のような階段はカイの卓越した記憶力で突破した。

 魔力を封じられたマリーや、剣技を封じられた俺は無力だったが、その必要すらなかったのだ。

 

 俺達はポータルの前にいた最後の見張りを当て身で眠らせると、

それぞれがマシンの前に座り、暗証番号を投入ヒューラントへの扉を開いた。


 だが・・・、


「うわあああ~!」

 次の瞬間、俺は絶望の叫びを上げた。

 ダレスを守る紫の聖剣士、シュー・ラドクリンのレベルが1になっており、全ての装備がなくなっていた。


「わかったかい。それが現実さ」

 振り返るとバーサーカーのクニツカが、カイやハゲ親父(!)のロニー達と共に立っており、絶望に打ちひしがれる俺をニヤニヤと見下ろしていた。


「ここは絶望と刮目かつもくの部屋と呼ばれていてね。この『矯正施設・解偽かいぎ園』に収容された人が最初に連れて来られる部屋なんだよ。ゲームの中の世界なんて、結局書き換え一つで全てがパーになるんだということを知ってもらう為のものさ」


 クニツカの話によると、解偽園とはネットゲームの中毒者を収容し、矯正を計る専門施設のようで、各ゲームごとに収容棟が分かれているという本格的なものだそうだ。

 その為、ド○クエ棟やピ○ライフ棟なども別にあるとか・・・、

 その解偽園に協力すれば、出所日が少し早まるという事で、カイもロニーも園に協力して俺をだます一芝居を打っていたという事だ。

「ごめんね。おじさん」とマリーが謝ってくれた。



「デリンジャー・ケイン? 君は本当にデリンジャーなのか! まさかレイランドの守護神とまで言われる暁のホワイトナイトと、この魔宮で出会うことになるとは・・・」

 俺は引き籠りの大学生君の手を強く握りながらそう言った。


「そういうあなたはダレスを守る紫の聖剣士、シュー・ラドクリンなのですね!」

 魔宮に連行され、絶望の淵にいた大学生君は喜びの涙を流した。

「実は、城の地下にヒューラントに戻るポータルを見つけたのだが・・・」


 大学生君がこの話に乗ってくれば、俺の収容期間が10日減る。

 俺は、現実世界では中年ハゲ親父の美女(?)盗賊・ロニーと共に慎重に罠に誘った。



    ( おしまい )


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