2日目。
1.
「・・・ふぅ・・・」
昼休み。
学校についてからも、茜はいっこうに僕に話しかけてこなかった。
それどころか、話しかけようとすると…避けるようにしてどこかにいく。
「はぁ…」
なんだよ僕が何したってんだよ…とブルーな気分にひたっていると、
『ザ、ザザ…ブツン』
教室のスピーカーが電流を通した。
『あー…えーと2年3組の神崎優くーん、2年3組の神埼優くんはー至急職員室まできてくださいなー・・・くりかえしませんよー…』
ブツン、とそれだけで途切れる。
放送とわかるまで数瞬。
…声の主が担任とわかるまで2秒。
あの舌ッ足らずな話し方はあの人しかいない。
幼なじみには避けられるし・・・次は先生の呼び出しか…
さらにブルーな気分にさいなまれながら、僕は職員室に向かった。
2.
コンコン、ノックする。
「しつれーしまーす…」
三人。
警察官の人と、メガネのすらりとした男の人。あとは―
「優ちゃん!」
―呼び出した張本人。
普通担任は生徒をちゃん付けでは呼ばない。世間的常識で考えれば。
「先せ、…いや、『祐奈姉さん』。…いい加減、ちゃんはやめてほしいんだけど…」
そう。担任の朝比奈・祐菜『先生』は、僕の元伯母にあたる。
しかしながら『伯母さん』とでも呼ぼうとならばパンチが飛んでくる。自称ヤクザを吹っ飛ばした拳。
…僕は善良な一般市民だ。なのに殴られた経歴を持つ。
「で、何?」
「ム、いきなり元親戚とはいえ先生に向かってタメ口?」
「何デスカ、先・生?」
「よろしい」
満足そうにうなずく先生。
「――それでね、後ろのこの二人が―」
「警部の本田だ」「カウンセラーの樅木です」
そっけない紹介。それ以上は話すことなどないかのように。
・・・・・・・・・・・。
意味がわからない。
何故、こんなところにこんな人たちがいる?
…いや、カウンセラーならまだわかる。だが、…警察…?
混乱している僕に、朝比奈先生は、話を切り出した――
―――話を、まとめる。
今日午前6時過ぎに、ここ風見市安武町の路地で、高校生5人の遺体と1人の重傷者が発見された。
彼らは何か鋭い刃物で全身を切り刻まれており、多量の血に死体は沈むようにして――
――否、浮かんでいるのを近くの住民が見つけ、通報したものらしい。
そこまでなら自分が呼び出される理由は皆無だ。しかし続きに――
なお、この遺体は昨晩から今日未明にかけて殺されたものであり、
今日未明、現場から一番近い交番に駆け込んできたのが、――僕だった。
その際に、血にまみれたシャツから滴り落ちた血痕が交番の前に残っており、調べた結果、6人のうち4人の血液が混ざったものだったという。
この時点で僕は重要参考人、否、最重要容疑者として目をつけられた、というわけだ。
もう1つ、付け加える。
その襲われた6人の『生徒』は――この学校、風見学園の生徒であった、ということである。
「…わかったかしら…?」
少々沈んだ声で、話し終わった先生は今にも泣きそうにこちらを見る。
「・・・・・・・・・・。」
たしかにあの場にいたのは事実だし、シャツが真っ赤に染まっていたのは、やはり血であったのだ。
夢と思っていたもの――否、思いたかったものを、現実として突きつけられた。
証拠は血痕。
凶器はないにしても、血を浴びた少年が犯人でない証拠にはならない。
弁解は――ない。
「――――というわけで、君には事情聴取、もといカウンセリングを受けてもらいたいんだ」
2人のうちの一人、――樅木といったか――カウンセラーの彼は僕に提案をする。
事情聴取?バカな。犯行声明の間違いじゃないのか?
暗に[自白しろ]と言っているようなものだ。
それに僕は――
「…すみませんが、覚えもないことを突きつけられても困るんですが」
――しらばっくれた。
「知らないふりはいけないよ?」
樅木は笑っている。
口だけで。
目はまったく笑っていない。
ヒトを観察する眼。
その人のどこがどうなっているのか、『中身』を見抜く、眼。
「…さ、神崎くん。行こうか」
「ちょっと待ってくれよ!僕は何も…っ!」
「きみしか、いないんだ」
・・・何のことだか、瞬時に悟った。
僕は、…従うほかなかった。
3.
所変わって、カウンセリング室。
「だから、知りませんて。」
ズキズキ頭が痛むせいで、まともに視界を固定することが出来ない。
「…じゃあ、なんであの時君は、血まみれだったのかな?」
樅の木という名のカウンセラーは、そんな僕の様子を気にすることもなく、静かに問う。
「だから―――っっ!?」
突然、頭を思いっきり殴られたような衝撃が襲った。
(そのへんにしとけや)
…知っているようで、聞いたこともないような声が、頭に響く。
(お前はもう、『俺』のモンなんだ)
(お前はもう―――)
彼は、なんと言ったのか。
だんだん、声が遠くなる。
それに伴って、
―――僕の意識も、深い闇に引きずり込まれていった。