不可視
-現在-
「一度だけでいいから、もう一度だけでいいから父さんと話をしてくれないか!」
正直、なんて都合のいい話だろうと思うし、いまさら許されるとも思わない。しかし俺の出した答えはつまるところ自分の娘の事が何一つ分からないということだった。
当然のように、娘は私の声に反応すら示してくれなかった。
-過去過去-
「あの、あの娘は…ここではどんな子なんでしょうか。ちゃんと笑って生活していますか?」
「○○さんはとてもいい子ですよ、しっかりものを言ってくれるし、良くこの授業でここを質問してくれると説明しやすいなぁって思った時、彼女が質問してくれたりするんです。
そういう意味でいつも○○さんには助けられてます。いつも笑ってるかって…そんなこと気にしたこともありませんけど。そうですねぇ、廊下ですれ違ったり、休み時間教室を見た時は大体友たちとおしゃべりしてるか、本読んでるか勉強してるか…って、生徒って大体そんなもんじゃないですか?」
-過去-
夢を見た。
「ねぇ、今日○○ん家とまりにいっていい~?」
「いいよー、今うちにアイスいっぱいあるんだ~」
「あ、いいなぁ。ねぇ私も一緒に行っていい?」
そんな会話をしながら2人の友達に囲まれた娘が、夜の電車のホームで歩いている。
そんな夢だった。2人の友達は私と目があったのだが、娘は私の存在すらわからないような感じだった。考えすぎだろうか
-現在-
何故こんなことになってしまったのか。
原因はなんとなくわかっている。すべて俺が悪い
ただ、あの行為がなぜ娘の心をこんなにも傷つけたのか。それがどうしてもわからなかった。
それが唯一の 最大の問題だ
-大大過去-
俺の親は俺を厳しく育てた。誰に聞かれても俺はそう答えるだろう。ただ、厳しいとはいっても理不尽なことは何一つなかった。俺はそう考えている。
成人して、何年か彼女との付き合いを経て結婚をした。子供ができた。
娘には自分の力で道を歩いて行く事のできる子に育ってほしいと思った。
俺もまた俺の親同様、娘を厳しく育てた。誰が見たとしてもそう思うだろう。ただ、厳しくても理不尽なことは何一つしなかった。
娘は誠実ないい子に育ってくれた。
-大過去-
頭もいいし、勉強もしっかりやる。身体の動かし方もある程度教えてやったから運動もなんでもできる。文句や不満なんて言ったことなんかあっただろうか?
そんな自慢の娘だったが、たった一度、俺に要望を言ったことがあった。
「あの…私××高校に行きたい…!」
「ダメに決まってるだろ!!」
「…………わかりました…」
それから、娘は俺への反応というかリアクションというか、そういうものがだんだんすくなっていったきがする。
しかし、何故そんな高校を選ぼうとしたのだろう。許せるはずがない
-世の中-
今の世の中、つながりがどれだけ持てるか、機転が利くか、しっかりと判断ができるか。常識があるか
そういうものが非情に求められている。
だが、そういうものを求められる以前に、我々は振り分け作業を行う。
それに使われるのが学歴だ
それはいわばライセンスのようなもので、学歴が良ければそれだけ我々は彼等を迎える。
悪ければそれだけ彼らの門は小さく閉ざされる。
なれば、学業というものがどれほど大切なものか、ご理解いただけるであろう?