とある世界の夕方のこと
「柾人さん、こんばんは!」
塾カバンを持った子供がやってきた。えらく重たそうなカバンを降ろしてカウンターの席に座る。
「今日は何にしますか?」
水とおしぼりを渡す。子供は食らいつく様にメニュー表を見ていた。
「んー・・・クリームパスタください」
決まったのかメニュー表から顔を上げ、注文する。顔にはお腹すいたと全面に書いてあった。
「飲み物とデザートはどうする?」
「えっと・・・林檎ジュースください・・と、デザートはプリンください」
「かしこまりました」
メニュー表を下げ、カウンターの奥へ戻る。振り返ると子供はテーブルにテキストを広げ、勉強していた。
コンコンとテーブルをノックされ、顔を上げるれば柾人さんがトレイを持っている。
「ちょっとテーブル片付けてくれるか?」
「わかった」
あわててテキストとペンケースをカバンに押し込む。空いたテーブルには美味しそうなクリームパスタと林檎ジュースが置かれた。
「冷めないうちにどうぞ」
「いただきます」
手を合わせてパスタを食べる。熱々で美味しい。塾帰りに『芙蓉』で食べるのが最近の楽しみの一つだ。ガツガツ食べるのはダサいと思うけどせに腹はかえられない。そんなことを思って食べているとあっという間に皿の中は空になった。パスタを食べ終えると皿は下げられ、デザートのプリンが出てきた。上にはサクランボと生クリームが載っている。
「さっきのは宿題か?」
「なんで?柾人さん」
「いや・・・最近の小学生は大変だなと思ってな」
プリンを置くついでに柾人さんはそんなことを言ってきた。
「そうだよ、塾行って、習い事行って、ダチと話すネタ集めてって色々することあんの。よくさぁ、言うじゃん?『子供は遊ぶのが仕事だ!』ってあれウソだと思わねぇ?」
「今じゃあ・・・ウソかもな」
「だよなー?塾とかさ、俺まだ小4だっつーの。私立に行くわけでもないのにさぁ?母親の見栄だぜ、これ。PTAで他の奴らが塾行ってるって聞いて行かされてんの。別にテストで悪い点取ったわけじゃねーってのに」
「頑張ってんだな」
「友達いなきゃ、そっこうで止めてる」
「でも、ちゃんと行って勉強してるお前はえらいよ」
そう言って頭を撫でられた。サクランボを横に置いてそっとプリンを掬う。市販のものよりもよっぽど美味しかった。
カランと音が鳴りお客さんが入ってきた。
「マスター、まだあるかな?」
「いらっしゃい・・・いつものですか?」
「あー・・・まぁね」
あははと笑い声が聞こえる。見てみると中年のサラリーマンだった。なんとなく押しの弱そうな人だなぁと思って見ているとメニューを受け取り、何か真剣に吟味しはじめた。時々、これは売り切れですとか柾人さんに言われている。
「・・・竜也」
じーっと見ていたら柾人さんに注意される。あわてて視線をそらし林檎ジュースを飲んだ。
「じゃあ、その8点でよろしいですね?」
「ああ、頼むよ」
「椅子に座ってお待ちください」
柾人さんはそう言って何やら準備しはじめた。横に座ったサラリーマンを見上げれば、バチッと目が合う。気まずいなぁと思っているとヘラっと向こうが笑った。
「うちの奥さん、ここのお菓子好きでね~・・・今日、朝から怒らせちゃったから買って帰ろうと思ってね」
「ふぅん」
ご機嫌取りかぁと納得する。そうこうしているうちに出来上がって、柾人さんから受け取りサラリーマンは帰って行った。
「あの人、よく来るの?」
「どうした?急に」
「尻に敷かれてんだなぁって思って」
「どっちかってーとあの人は愛妻家だろうさ。自分のとこの奥さんは何が好きで何が嫌いかちゃんと覚えてんだから」
「そういうもん?」
「そういうもんじゃねーの?・・・さてと竜也もそろそろ帰んな」
あんまり遅くなんのもダメだろうと柾人さんは言う。時計を見ると8時半を過ぎていた。
あわてて会計をして店の外見出る。もうだいぶ空は暗くなっていた。
「ごちそうさまでした」
「気を付けて帰んだぞ」
「うん、ありがと」
前回のCafé『芙蓉』夏と同じ設定です。これからも本数が増えるようなら連載の方に移行することも考えようかなとか思っています。それよりも文章力を上げる方が大事ですが。
さて、最近の小学生はほんとに忙しそうです。学校から帰ると塾カバン持ってって本当に大変だなと思います。塾の前とか歩いていると夏期講習のお知らせとか張ってあったりとかして・・・
誤字脱字ありましたら遠慮なく指摘ください。ここまで読んでいただきありがとう御座います。