幽霊の彼女が『生き返りたくない』と言う理由…【ヤンデレ注意】
部屋に帰ると幽霊の彼女が待っていた。
帰りが遅いことに不満があるようで……。
部屋に帰ると、彼女がベッドの上で膝を抱えていた。電気を付けると、彼女の指だけがトントンとリズムを刻んでいる。まるで、僕の帰宅時間を秒単位で測っていたみたいに。
「遅かったね」
その声は優しい声だった。けれど、僕がドアを開ける前から用意されていた優しさだと分かる。
「ごめん、友達と話してて」
そう言った瞬間、彼女の表情がすっと消えた。怒りでも悲しみでもない。予定外の情報を処理するときの、無機質な沈黙。
「……友達?」
「うん、ちょっとだけ」
彼女はゆっくり立ち上がり、僕の方へ近づいてくる。足音はしない。けれど、気配だけが重くなる。
「私、死んでからもずっとあなただけを見ていたんだよ。あなたが笑うときも、怒ったときも、泣くときも」
彼女は続ける。
「今日のあなた、部屋に入る前に一瞬間があったよね。廊下から部屋に着くまでの歩数も一歩多かった。私はね、誰よりもあなたのことを知っているんだよ」
背筋が冷える。僕ですら気づいていないことを、彼女は知っている。
「ねえ、私がいるのに、まだ必要なの?」
その声は、優しさの形をしているのに、触れたら壊れそうなほど歪んでいる。問いかけというより、確認。僕の答えがどうであれ、彼女の中ではもう決まっているような響き。
彼女は幽霊だ。死んでから、なぜか僕の部屋に住みついた。最初は怖かったけど、いつの間にか慣れて日常になってしまった。それが今では、別の恐怖で押しつぶされそうだ。
ある夜、僕は勇気を出して聞いたことがある。
「……まだ、成仏しないの?」
彼女は小さく首を振る。
「しないよ。だって成仏したら、あなたのそばにいられないじゃない」
「でも、いつかは……」
言いかけた言葉を、彼女の白い指が塞ぐ。冷たいはずなのに、妙に熱を帯びている。
「あなたの声も、あなたの匂いも、あなたの寝息も、すべてここにある」
彼女は続ける。
「昨日の夜、寝返りを打つ前に小さく笑ったよね。夢の中で誰と話してたの?」
僕は息を呑む。覚えていない。でも彼女は覚えている。その目は恋人の目じゃない。所有物の状態を細かく観察する目だった。
「だから、成仏したくないの。生まれ変わったら、あなたの隣にいられない。あなたの部屋にいられない。あなたの全部を見ていられない」
彼女は微笑む。
その笑顔は、優しさの形を借りた狂気だった。
「ねえ、お願い。成仏しろなんて言わないで。幽霊のままなら、あなたのすべてを見ていられるから」
背筋が冷える。
「……すべてって?」
彼女は僕の耳元で囁く。
「すべてはすべてだよ。あなたの心の奥まで、私だけが知っていたいの。あなたが隠してることも、忘れてることも、あなたより先に私が知りたいの」
その瞬間、部屋の空気が一気に重く沈む。
「ねえ、あなたの世界に、私以外いらないよね?」
返事を待っていない。彼女は、僕の答えを必要としていない。
その瞬間、彼女の指先が胸の奥へすっと沈んだ。痛みはないのに、冷たさだけが深く落ちていく。
「大丈夫。あなたの心、少しずつ私で埋めてあげるから」
その声は、優しさの皮をかぶった支配だった。
そして気づく。
彼女は成仏したくないんじゃない。成仏したら、僕を独り占めできなくなるのが嫌なだけだ。
「ねえ、ずっと一緒だよ。あなたが死ぬまでじゃないよ」
あ な た が 死 ん だ あ と も 、 ず っ と




