第五話 少女A
――冷蔵庫を開けないまま一週間が過ぎた。
考えても考えても答えは出ない。そのジレンマは、学園にいる間も俺を苛立たせ続けていた。
「悩み事かい、相馬悠斗くん!
それでは――神霊部の坂口真福にお任せあれ!」
「リリカがまた冷蔵庫から出て、この世界に踏み出したいって言ったんだ」
「……そっか。でももうあんな思いはさせたくないよ」
「今回は覚悟が違うし、1週間も会えていない」
「僕も考えてるんだ、ずっと」
「それと神霊部のお前に聞きたいことがある、過去に黄昏橋の高架下で事件や事故って起こっているか」
「もしかして高架下の向日葵、少女Aの事かな」
真福に問いただすように近づいた。
「は?真福知ってるのか」
「もしかして会ったのか!少女Aに」
「あったも何も橋から」
「落ちてたんだね」
「やはり!それは神霊部で研究している少女A、魔法少女だよ」
真福は急に真顔になった。
「少女Aは過去に失った人物を探している、だが何度も何度も死においやってもまた元に戻る、失った人物を見つけられないまま」
「……そうか、だから俺の時も」
背中に、ぞくりと寒気が走る。
「少女Aは過去を再生できる能力があり、痛みを伴わないんだ」
真福は今まで見たことがないほど真剣な顔で詰め寄ってきた。
「もしかしたら、リリカちゃんをこの世界に救うことができるかもしれない」
「少女Aの能力を使うって事か」
「まだ分からない、だけどリリカちゃんにもう辛い思いはしてほしくない。悠斗と一緒に探してるんだ。リリカちゃんがこっちの世界に来る方法を」
……ずるい言い方だ。俺はため息を吐いた。
「黄昏橋の少女Aに話を聞こう」
真福は一瞬固まり次の瞬間、異様なテンションで跳ねた。
「そうこなくっちゃ!さあ悠斗行こうじゃないか!」
やっぱり、真福は変だ。
だけどリリカのことを心から支えてくれてるのを確かに感じた。
――俺と真福は高架前で作戦を練っていた。
「待て根本的にどうやって呼び出すつもりなんだ」
「それは簡単だよ、僕たち神霊部の力さ」
真福は胸を張るが嫌な予感しかしない。真福は地面中央に、神霊部手作りのヘンテコな人形を置いた。そして人形の中心を意味ありげにぐるぐると回り始める。
――怪しい、怪しすぎる。
「おい。なんだその人形は、ついでに回るな」
「これはね由緒正しき神霊部一門の」
「絶対ウソだろ」
「細かいことは気にしない。これを使うとね勝手に出てくるんだよ」
「出てくるって……そんな都合よく」
その瞬間、真福の背後にいつからそこにいたのか分からない向日葵持った、少女Aが静かに立っていた。白いワンピースに小さな体。感情の読めない視線がこちらを射抜いている。
「――うわっ!真福、本当に本当なのか!?」
反射的に叫び俺は必死に指を突き出した。
「後ろ!後ろだ!」
「うわああああああ!!!!!!」
気づいた時に少女はまた高架を跨がるが、真福が必死に止めに入った。
真福と少女は地面に倒れ込む。
「止めるな。君たちは本当に私が見えているのか」
少女の声は年相応に幼いのに不思議と重みがあった。
「一旦話をしたい。少女A」
「少女Aってなんだよ、私は灰原真由香だ」
「灰原さん、落ち着いて」
「君の方が落ち着けよ」
怪しむような目だがその奥に切実な焦りがちらついた。
「話ってなんなんだ」
「ああ、君は過去再生と痛みを伴わない異能を持っているのか」
「なんだそれ、そんなの当たり前じゃないか、持ってるよ」
「それは他人にも使っていいものなのか」
「そんなの知らないよ、使って見たことはあるけどどうなったかはもう忘れた」
「君にお願いがある、その異能を使って欲しい人がいるんだ」
「、、、じゃあ人人交換で交渉成立だ」
「人人交換?それは物物交換じゃないのか、何をすればいいんだ」
含みのある言い方をしてから、少女は俺たちに近づいた。
「私は月城尚弥を探しておる、そいつを見つけて欲しい」
「月城、、、」
「尚弥、、、」
真福は驚いた顔で俺を眼中に入れる。
ここから月城が繋がる事なんてあるのかと、想像を絶していた。




