第三話 私立天照学園
ーーー私立天照学園。
俺はできるだけ、平穏に平凡に高校生活を送りたいと思っている。
「なあなあ悠斗、聞いてくれよ」
机に突っ伏していた俺の横で、坂口真福という幼馴染は立ち上がる。
「神様の学級委員長、舞前いのりにいじめられてるんだよ」
「学級委員長がいじめるわけないだろ」
「いいや、最近僕に対して注意喚起が酷いんだ」
「挙動が何かと目立つからな、真福は」
俺は真福のほうを向きできるだけ真顔で言った。
「ちなみにお前、吸血鬼だから、人間とは恋愛できないぞ」
「え!?今日から俺は吸血鬼になってるの!?」
「夜行性で主食は血液だ。弱点は日光な」
「来たな、俺の時代だあああ!!!」
教室の真ん中で一人騒ぎ始める坂口真福。俺はそれを眺めるのが趣味だ。と同時に、舞前いのりがこちらを見ている。
――坂口真福。
何を隠そう何事にも本気で信じる世にも珍しい男子高校生だ。マスコット?違う例えるなら、ロリポップを振り回す魔法少女世界から迷い込んできた男の子。信じるか信じないかは坂口真福次第であり、大抵の場合信じないほうが正解だ。
――正直友達付き合いは得意じゃなかった。血気盛んな連中は面倒だし、俺は誰にも邪魔されない偏食でいたかった。ただ坂口真福だけはなぜか刺激したくなる、不意に俺の腹底を笑いで突いてくる。真福の世界はどう見えているのか、ほんの少しだけ覗いてみたくなった。
「真福、お前は舞前いのりから虐められないためにももっと積極的に話かければいいんだよ。まずは吸血鬼ですって挨拶してみたらどうだ」
そう言うと真福は一瞬ぽかんとしたあと、ニヤリと含み笑い、舞前いのりの前で堂々と宣言する。
「舞前さん、僕は吸血鬼だ!仲良しの印に君の血を飲ませてくれないか!」
「はあ、何を言ってるんだ坂口真福。本日も生徒指導対象だ。放課後、反省文と掃除だ」
「げ、吸血鬼なのに〜」
舞前いのりの命令と共に教室は笑いに包まれる。このクラスで坂口真福は何を言っても愛されるキャラだ。愛されロリポップ魔法少年真福くんよ、俺は再び机に突っ伏しながら思った。
――少しだけ騒がしいけど悪くない日常だ。
それと、帰ったらリリカが待ってるから早く話したい。
このクラスの学級委員長がなぜ「神様の学級委員長」なのか、例を挙げよう。
まずD組の中で学級委員長・舞前いのりは、学生指導、礼儀は完璧で、それ以外の人間関係を築いていないようだった。
(坂口真福を除いては)
舞前いのりがはっきりとした、積極性を見せたのは、1学期のある夏の日のことだ。
「坂口真福。君には忠告しておこう。今日から私は君が変な行動を取るたびに、注意喚起をする」
はあ?真福の頭上には、見えないはてなマークが浮かんでいるようだった。
「上等だよ学級委員長、どっからでもかかってこい!」
――その日からだ。坂口真福は、毎日最低五回は名前を呼ばれるようになった。内容は注意と指導。だが実態はほとんど口喧嘩という名の、「舞前いのり初めてのお友達」のようだった。
真福の奇行や、俺にとっては面白いポイントを舞前いのりは律儀かつ細かに指摘し続けた。
昼休み真福は机に突っ伏してぼやく。
「はあ、悠斗、この地獄サイクルから抜け出せないのかな。代々受け継ぐ『キューピットメモリアル』では、学級委員長なんて簡単に落とせて普通に付き合えたんだけど」
「まだ先はある。舞前いのりの大親友になれたんだ、ここからが本番だ」
――帰宅組と部活組が自然に分かれはじめる時間俺が鞄を肩にかけたそのとき、隣から真福が案内してくる。
「ところでさ、僕はこれから神霊部に行くけど
悠斗は部活入る気ないのか?」
最初は以外だった。真福はどう見ても発散型で走る、叫ぶ、暴れるが標準装備だ。てっきり運動部で汗を流しているものだと思っていた。
だが彼が所属しているのは――神霊部。
神霊部、名前からして怪しいが内容はさらに怪しい。異変が起きる現象を調査する部活みたいだ。
校長先生の洗濯物を探したり、植木の足跡が宇宙人のようなデカさだったりそれらを深掘りし解決するという、謎が謎を呼ぶ。坂口真福という人間と同類だ。
「めんどくさい。俺はこの高校三年間、帰宅部に専念する」
「悠斗くん!青春ってのは、青くさいところを真正面から突っ切るものだろ!汗とか涙とか恋とかさ!」
「青春は家にある」
「……家?相馬家で何が行われてるんだよ」
「俺の冷蔵庫にな」
「ああ、リリカちゃんのことか!」
真福は幼い頃から両家の式たりは知っている。
俺が部活に入らない理由は単純だ、冷蔵庫の中にいる婚約者、月城リリカに早く出来事を話したい、会いたいから。それだけで放課後の予定はすべて埋まっている。真福は拳を握りしめ、やたら熱量高めに叫んだ。
「悠斗この学園をもっと盛り上げたくないのか!僕と一緒にエンジェルメモリアルの主人公になろうじゃないか!!」
「おっけい、じゃあな」
「あーーーーんエンジェルーーーー」
何を言っているのかは分からないが、勢いだけは十分だった。俺は答えず軽く手を振って足早に去った。
***
いつもの通り道、下校するものもいれば、陸上やバスケ部がランニングしている。
ふと黄昏橋から川の流れを見下ろしていると、目の前に向日葵を持った少女が現れた。
そのまま彼女は橋をまたがり、水面に落下した。
「、え、、」
俺は突差にてすりに手を掛け、高架下の彼女を見るが跡形もなくいなくなっていた。何が起こったのかも分からない、頭がガンガンする。
今、少女が、この橋から落ちたよな、冷や汗が止まらないこの場から動けない。
そこに先ほどまで目の前に少女がまた、向日葵を持って現れ、橋を跨っている。
「待てええええええええええ!!!!!!」
俺は彼女の身体を抱きしめ、止めに入った。
お互いに顔が近いことにびっくりしてすぐに地面に激突した。
「まだダメだ、、君にとっては絶望でも必ず希望もあるんだ!!!」
「待て、君は私が見えているのか」
時が止まるようにお互いの視線が混じり合い、痛いくらいだ。彼女は確かに存在していた。俺は向日葵と何かが見えているらしい。




