【その男爵令嬢の髪はピンク色ですわ!】と叫びたい公爵令嬢の話
「我が婚約者エリザベートよ。何故、男爵令嬢サリーをいじめるのだ!」
ヘンドリック殿下の後ろに男爵令嬢が隠れてチョコンと顔を出している。
若干、プルプル震えているわ。
顎に拳を当てている。
腹立つ~
ここは学園の講堂、学園生たちが見守る中、
私、エリザベートは殿下の婚約者にして副会長としての責任から言わなくてはいけない。
「殿下、ここにいる学園生の皆様、気がつかないのですか?彼女の異形に」
すると、周りの生徒達が答えたわ。
「サリー様は・・・胸元パッチリの少し趣の変わったドレスを着ていますが・・・」
「突拍子のない行動を取るけど」
「一応、聖女ですわ・・・」
☆回想
サリー様は一学年下の一年生、今年、入学したわ。
すぐに彼女の異形に気がついて、一年生の教室まで行ったの。
『サリー様、生徒会副会長として事情を聞きたいですわ。少し、良いかしら』
『わあ、公爵令嬢みたいな。サリサリ~、光栄かも~』
私は意を決して尋ねた。
『貴女の頭髪は地毛かしら?』
『はい、エクステつけていないみたいな~』
『違うわ。色よ』
この学園でも頭髪は貴族らしくと抽象的に規則がある。
髪を染めるのは認められている。
しかし・・・。髪の色でないもの。例えば、紫とかは認められていない。
彼女の頭は目がチカチカするぐらいの弩級ピンク。
『貴女の頭髪は何故、ピン【おい、見ろ!校庭に犬が迷い込んだぞ!】なのですか?』
『可愛いー!』
『お、先生達が行った!』
『頑張って、ワンちゃん!』
『キャア、サリサリは両方応援しちゃう!』
『サリー様!話は終わっていませんわ!』
うやむやになった。
後日、体育倉庫で聞いたら。
『何故、貴女の頭髪は弩級ピン【キャアー、エリエリ~、見て見て~、猫ちゃんが子猫をくわえている~!】・・・』
『何ですって!まあ、ここで子猫を育てているのね。里親を探しますわ』
『ミャン!ミャー!ミャー!』(お世話係募集中!)
猫ちゃんの里親を探して、また、後日体育館裏で聞いたわ。
『貴女に規則違反の疑いがあります。髪の毛を染めていませんか?』
『サリサリ~、染めてない感じ~、キャアアア、怪鳥が来た感じ!』
『サリー様!』
会話途中に怪鳥がサリー様をさらって空に連れ去ったわ。
東の方角に飛んでいったわ。
騎士団に通報し、結局、三日後に帰って来た。
『サリサリ~、危なかった感じ~』
『サリー様は聖女だから護衛騎士つけてもらった方が良くない?』
その頃から噂になった。
『聞きました?サリー様、エリザベート様に体育館倉庫や体育館裏に呼び出されているのですって』
『それは・・・イジメの定番?』
私がサリー様を虐めていると・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・
そして、今日、講堂で断罪になったワケよ。
ここで皆の前で問いたださなければならない。弩級ピンクを除かなければならないわ。
悪しき校則違反を糾弾するわ!
「エリザベートよ。確かに全ての者と仲良くは出来ない。しかし、ここまで噂になったのだ。胸の内を話してスッキリするが良い。後腐れ無しだ」
殿下は知らない令嬢同士の派閥争いは陰険だ。
仲良くしているように見せかけ。腹の内を探り合うわ。
男同士の友情と勘違いしているのかしら。
でも、今回は違う。
ただ、サリー様が規則違反を犯していることを糾弾するだけだわ。
「殿下、皆様、サリー様の頭髪は、ピンクです!自然となる髪の色ではございません!規則違反ですわ!」
フウ、言えたわ。
あれ、皆、私を見ていない。
天井がヒビ割れているわ。
石くずが落ちてきているわ。
更に広がって天井が割れている。
天井が・・・落ちてきたわ。
怪我人が出たかも!
割れた天井から・・・羽の生えた女が怪鳥を従えて現れたわ。
あれは、ダークエルフかしら。
いえ、角が生えている。
もしかして・・魔王!
【ア~ハハハ、妾は魔王マリーン、異世界からクラスごと来た者達よ!魔王討伐は甘くないぞ。どうせ死ぬのなら今ここで妾の力を見せてやろう!・・・・と、あ、間違えたのか?】
誤爆?誤爆なの?
大事な質疑応答を邪魔された私は心底腹がたった。
【何ですの!この年増露出狂女!下履きみたいな服装で神聖な学園に来てはいけませんわ!とっとと尻尾を巻いて帰りなさい!】
「何だと、これは乳バンドだ!」
何故、戦闘スタイルなのに、水着のような服装なのかしら。
と思って見ていたら。
右手を握られた。
右を見たらサリー様がガッシリと握っていたわ。
「あれはビキニアーマーなのだからね」
殿下が剣を構えて前に出る。
「我の魔法は炎だ。水の魔王マリーンには分が悪い。
我が盾になるから、エリザ、サリー頼むぞ!」
「分かったのだからね!」
「はい、殿下・・・」
私はサリー様に魔法を送る。私の魔法は補助魔法だわ。
相手の魔法の力を増幅させる縁の下の力持ち。
「ナム~!聖なる光よ。南無阿弥陀仏!」
不思議な詠唱をして聖魔法を放ったわ。
魔王は。
「ウヌヌ!次は負けないぞ!」
と叫んで学園を去った。
「サリー様、それにエリザベート様のサポート、尊いわ」
「殿下も立派だった!」
「皆、ジークよ!」
「「「「ジークヘンドリック!」」」」
「「「「ジークエリザベート!」」」」
「「「「ジークサリー!」」」」
「「「「「ジーク!エスメラルダ王国!」」」」」
ジーク!が連呼されたわ。
何コレ?
「エリエリ最高なのだからねっ!」
「サリー様、エリエリはお止め下さい!」
「うむ。エリザとサリーよ。これで恨み無しだ!2人は戦友になったのだ」
「殿下も入れて3人だからねっ!ねえ、エリエリ!」
「何ですの?これは一体、何が起きてますの」
まるで殿方の友情のような雰囲気になったわ・・・
☆☆☆五年後
私は王太子妃として王宮に住んでいる。
サリー様は聖女として王都の女神教会でお勤めしているわ。
「お母様~!」
「マリアロッテ、抱っこね」
「うん。それもそうだけど・・」
「まあ、どうしたの?私の可愛い御姫様?」
「あのね。どうして、サリー様の髪はピンクなの?」
はっ!
魔王?いえ、大魔王が来る?それとも闇の邪神?いえ、闇の秘密結社?!
何か来る・・・・
何も起きない。もしかして、本人の前で言わなければ大丈夫なのかしら。
だから私はマリアロッテを諭したわ。
「いい?ピンクの事は言ってはいけませんわ。人それぞれ個性ですわ」
「はい、お母様」
納得してくれた。
今は幸せだ。サリー様のピンク髪は忘れようと思ったが・・・
王宮でマリアロッテの誕生日に呼ばれたサリー様に
マリアロッテが斜め上に聞きましたわ。
「ねえ。聖女様、お母様がピンク髪を聞いてはいけませんと言われたけど・・どーちて、ドピンクなのですか?」
「あ、マリアロッテちゃん。それはね。サリサリは~【おい、王宮に犬が迷いこんだぞ!】だからなの」
「キャア、ワンちゃん!」
娘の興味は犬に向かった。
私は・・・ガクンとうなだれたわ。
私だって知りたかったわ。
その迷い犬は家族になった。不思議な事に人に飼われた形跡はあるのに主人は見つけられなかったわ。
「ゴロちゃん。お手なのです」
「ワン!」
あれ以来、娘は聖女様の髪の色に興味を持たなくなったわ。
世の中、聞いてはいけない事があるのかもしれない。
最後までお読み頂き有難うございました。
 




