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ストリートレース  作者: クラシック愛好家
30/30

初対面

リョウとセイジと解散した後です

初対面


――舞台:深夜2時、首都高・大黒PAの最奥


外周の街灯が切れる死角。

そこだけ異様に静かで、周囲の走り屋ですら近寄らない。

そこに一台、黒のAMG S63が停まっていた。


エンジンは切られているのに、

“獣の気配”だけが残っているような存在感。


カイが歩くと、車の横に立つ男が振り向いた。


スーツでもラフでもない。

ただの黒シャツと黒パンツ。

なのに、背筋が異様に伸びていて“影”が揺れない。


――山口 誠。



◆「お前が……カイか」


声は低く静か。

怒ってもいないし、笑ってもいない。

だが“感情が殺されている”のがわかる声質。


カイ

「……あんた、誰だ?」


山口

「人に名乗らせる時は、先に自分が名乗るべきだ。」


一瞬で見下ろされるような圧。

だがカイは飲まれずに答える。


カイ

「カイ。

 W124乗ってる。」


山口

「知っている。

 お前が湾岸で“死ぬのを楽しんでいた”のも、な。」


カイ

「……ッ」


少し背中が冷える。

誰も言語化できなかった“あの感覚”を、

初対面で言い当てられた衝撃。


山口は一歩近づき、目を細めた。



◆「いい才能だ。普通の人間は“死ぬ可能性”で右足が震える。


 お前は逆に、踏み込む。」


カイ

「……才能なんて大袈裟だ。

 ただ、やめられないだけだよ。」


山口

「それを才能と言う。

 俺にはわかる。“勝つ馬”の脚は一目でわかる。」


カイ

「馬……?」


山口

「俺の競馬に出ろ。」



◆◆ カイ「……は?」


山口

「公道の話だ。

 表の世界では触れられない“新東名のレース”。

 そこでは一戦で億が動く。

 そして――勝つ馬は世界が変わる。」


カイ

「そんな裏のレース、聞いたことねぇよ。」


山口

「聞けるわけがない。

 表に出たら、国がひっくり返る程のスクープになる。」


カイ

「……で、なんで俺に声かけた?」


山口は、カイのW124を顎で指す。



◆山口


「その車――もう限界だろう。」


カイ

「……っ」


山口

「オーバーヒート寸前でセイジと走ったな。

 原因は“エンジンブロックの局所歪み”だ。

 冷却をいくら強化しても、根治しない。」


カイ

「そこまで……知ってんのかよ。」


山口

「俺は“勝つ馬”しか興味がない。

 死ぬ馬を走らせる趣味もない。」


カイ

「……で?」


山口はS63のドアを開け、

中から一つのファイルを取り出した。



◆【500E ポルシェライン・M119 エンジン】


状態:極上

走行:調整済

価格:市場では絶対に出回らないレベル


写真だけでも異常な迫力がある。

“ただのパーツ”じゃない。

“筋肉の塊”みたいな存在感。


カイ

「……これを、俺に?」


山口

「貸す。

 代わりに――新東名で“勝て”。

 負ければ全額回収。

 勝てば、借金など紙屑になる。」


カイ

「……俺が勝てると思ってんのか?」


山口

「思っている。

 そして――期待している。」


カイ

「なんでだよ。」


山口は、初めて微かに笑った。



◆「お前の走りは、恐怖を越えていた。


 それは“才能”じゃない。

 本能だ。」


沈黙。


大黒PAの風が冷たく吹き抜ける。

湾岸の音も遠くなる。


カイ

「……借金、背負ってでも走れってか。」


山口

「借金で縛りたいわけじゃない。

 “理由”を与えてやるだけだ。」


カイ

「理由……?」


山口

「速くなる理由だ。

 ――鷲尾を越える。

 ――霧島 遼のスープラに辿り着く。

 そのための舞台が必要だろう?」


カイは息を飲む。


山口

「走れ。

 お前が俺の“馬”として走るなら……

 500Eのエンジンも、チャンスもくれてやる。」


カイ

「……答えは一つだよ。」


山口

「言ってみろ。」


カイ

「――乗る。

 俺はあんたの競馬の“馬”になる。」


山口

「良い返事だ。」


山口は右手を差し出した。


カイはその手を握る。


冷たくて、硬くて、

まるで機械のような手だった。



「山口 誠と“馬”の契約成立」

完。



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