初対面
リョウとセイジと解散した後です
初対面
――舞台:深夜2時、首都高・大黒PAの最奥
外周の街灯が切れる死角。
そこだけ異様に静かで、周囲の走り屋ですら近寄らない。
そこに一台、黒のAMG S63が停まっていた。
エンジンは切られているのに、
“獣の気配”だけが残っているような存在感。
カイが歩くと、車の横に立つ男が振り向いた。
スーツでもラフでもない。
ただの黒シャツと黒パンツ。
なのに、背筋が異様に伸びていて“影”が揺れない。
――山口 誠。
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◆「お前が……カイか」
声は低く静か。
怒ってもいないし、笑ってもいない。
だが“感情が殺されている”のがわかる声質。
カイ
「……あんた、誰だ?」
山口
「人に名乗らせる時は、先に自分が名乗るべきだ。」
一瞬で見下ろされるような圧。
だがカイは飲まれずに答える。
カイ
「カイ。
W124乗ってる。」
山口
「知っている。
お前が湾岸で“死ぬのを楽しんでいた”のも、な。」
カイ
「……ッ」
少し背中が冷える。
誰も言語化できなかった“あの感覚”を、
初対面で言い当てられた衝撃。
山口は一歩近づき、目を細めた。
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◆「いい才能だ。普通の人間は“死ぬ可能性”で右足が震える。
お前は逆に、踏み込む。」
カイ
「……才能なんて大袈裟だ。
ただ、やめられないだけだよ。」
山口
「それを才能と言う。
俺にはわかる。“勝つ馬”の脚は一目でわかる。」
カイ
「馬……?」
山口
「俺の競馬に出ろ。」
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◆◆ カイ「……は?」
山口
「公道の話だ。
表の世界では触れられない“新東名のレース”。
そこでは一戦で億が動く。
そして――勝つ馬は世界が変わる。」
カイ
「そんな裏のレース、聞いたことねぇよ。」
山口
「聞けるわけがない。
表に出たら、国がひっくり返る程のスクープになる。」
カイ
「……で、なんで俺に声かけた?」
山口は、カイのW124を顎で指す。
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◆山口
「その車――もう限界だろう。」
カイ
「……っ」
山口
「オーバーヒート寸前でセイジと走ったな。
原因は“エンジンブロックの局所歪み”だ。
冷却をいくら強化しても、根治しない。」
カイ
「そこまで……知ってんのかよ。」
山口
「俺は“勝つ馬”しか興味がない。
死ぬ馬を走らせる趣味もない。」
カイ
「……で?」
山口はS63のドアを開け、
中から一つのファイルを取り出した。
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◆【500E ポルシェライン・M119 エンジン】
状態:極上
走行:調整済
価格:市場では絶対に出回らないレベル
写真だけでも異常な迫力がある。
“ただのパーツ”じゃない。
“筋肉の塊”みたいな存在感。
カイ
「……これを、俺に?」
山口
「貸す。
代わりに――新東名で“勝て”。
負ければ全額回収。
勝てば、借金など紙屑になる。」
カイ
「……俺が勝てると思ってんのか?」
山口
「思っている。
そして――期待している。」
カイ
「なんでだよ。」
山口は、初めて微かに笑った。
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◆「お前の走りは、恐怖を越えていた。
それは“才能”じゃない。
本能だ。」
沈黙。
大黒PAの風が冷たく吹き抜ける。
湾岸の音も遠くなる。
カイ
「……借金、背負ってでも走れってか。」
山口
「借金で縛りたいわけじゃない。
“理由”を与えてやるだけだ。」
カイ
「理由……?」
山口
「速くなる理由だ。
――鷲尾を越える。
――霧島 遼のスープラに辿り着く。
そのための舞台が必要だろう?」
カイは息を飲む。
山口
「走れ。
お前が俺の“馬”として走るなら……
500Eのエンジンも、チャンスもくれてやる。」
カイ
「……答えは一つだよ。」
山口
「言ってみろ。」
カイ
「――乗る。
俺はあんたの競馬の“馬”になる。」
山口
「良い返事だ。」
山口は右手を差し出した。
カイはその手を握る。
冷たくて、硬くて、
まるで機械のような手だった。
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「山口 誠と“馬”の契約成立」
完。
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