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ストリートレース  作者: クラシック愛好家
24/30

「黒きスープラ、雨を裂く影」


第16話「黒きスープラ、雨を裂く影」

──────────


 加速の余韻がまだ車体に残るまま、3台は一度ペースを落とす。

 しかし視線は、全員同じ場所を見ていた。


 ──非常駐車帯に停まる、黒いJZA80スープラ。


 雨粒が照明に弾かれ、黒いボディを艶玉のように滑り落ちる。

 ナンバーは 「・9674」。

 “苦労無し”という皮肉のような数字。


「あれが……“天才側”の人間ってやつかよ……」

カイが小さく呟く。


「いや、天才ってレベルじゃねぇよ。」

セイジが低く返す。

「本物のGTドライバーだ。有名な公式のレースで勝ってる。まだ25そこそこ。金も知識も経験も、ぜんぶ持ってる。」


「……カイと同い年くらいだな。」

リョウが付け加える。


 その瞬間、スープラがライトを点ける。

 2灯の光が、まるで“こちらへの返答”のように雨煙を貫いた。


 エンジンスタート。

 アイドリング音は低い。

 爆音でもなく、暴力的でもない。

 ただ──**“負ける気のしない音”**だった。


「アイツ、走る気はねぇな。」

セイジが言う。


「いや──“見極めてる”だけだ。」

リョウが続ける。

「今のカイの走りを、W124の挙動を、“雨で”確認してた。」


「雨で様子見って……ドライじゃダメなのか?」

カイの声には焦りと苛立ちが混ざる。


「逆だよ。」

セイジが静かに言う。


「本当に速い奴は、雨の走りを見れば“仕上がり具合”がわかる。

 ドライは誤魔化せる。雨は誤魔化せない。」


──────────

その時、無線が切れる。

──────────


 スープラが動き出す。

 こちらに近づくわけでもなく、挑発するわけでもなく、ただ──


 こちらを抜きもしないまま、去っていく。


「……なぁ、なんで勝負しない……?」

カイが歯を噛む。


セイジ:

「簡単だ。

 “今のカイじゃ勝負にならねぇ”って判断された。」


リョウ:

「悔しいか?」


カイ:

「……当たり前だろ。」


 雨音だけが響く辰巳PAの空気。

 負けたわけじゃないのに、敗北感だけが残る夜。


──────────

そしてセイジが言う

──────────


「カイ。

 速くなりたいなら──

 “ベンツで速くなる道”を探せ。」


「トヨタの真似しても、あいつには勝てねぇ。

 ドイツ車は“思考で速くする”んだ。」


リョウも続ける。


「次のメニューはサスとスタビ。

 重い車は“ロールじゃなくて揺れ”を殺す。

 足回りの考え方が日本車と逆なんだよ。」


カイ:

「……わかった。

 あいつに“今のままじゃ勝てない”って言われたままじゃ終われねぇ。」


──────────


 遠く、去っていく黒スープラ。

 テールランプの赤は、雨を反射して不気味に滲む。


 その姿はまるで

 「追って来い」

 と無言で告げていた。


──────────

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