「黒きスープラ、雨を裂く影」
第16話「黒きスープラ、雨を裂く影」
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加速の余韻がまだ車体に残るまま、3台は一度ペースを落とす。
しかし視線は、全員同じ場所を見ていた。
──非常駐車帯に停まる、黒いJZA80スープラ。
雨粒が照明に弾かれ、黒いボディを艶玉のように滑り落ちる。
ナンバーは 「・9674」。
“苦労無し”という皮肉のような数字。
「あれが……“天才側”の人間ってやつかよ……」
カイが小さく呟く。
「いや、天才ってレベルじゃねぇよ。」
セイジが低く返す。
「本物のGTドライバーだ。有名な公式のレースで勝ってる。まだ25そこそこ。金も知識も経験も、ぜんぶ持ってる。」
「……カイと同い年くらいだな。」
リョウが付け加える。
その瞬間、スープラがライトを点ける。
2灯の光が、まるで“こちらへの返答”のように雨煙を貫いた。
エンジンスタート。
アイドリング音は低い。
爆音でもなく、暴力的でもない。
ただ──**“負ける気のしない音”**だった。
「アイツ、走る気はねぇな。」
セイジが言う。
「いや──“見極めてる”だけだ。」
リョウが続ける。
「今のカイの走りを、W124の挙動を、“雨で”確認してた。」
「雨で様子見って……ドライじゃダメなのか?」
カイの声には焦りと苛立ちが混ざる。
「逆だよ。」
セイジが静かに言う。
「本当に速い奴は、雨の走りを見れば“仕上がり具合”がわかる。
ドライは誤魔化せる。雨は誤魔化せない。」
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その時、無線が切れる。
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スープラが動き出す。
こちらに近づくわけでもなく、挑発するわけでもなく、ただ──
こちらを抜きもしないまま、去っていく。
「……なぁ、なんで勝負しない……?」
カイが歯を噛む。
セイジ:
「簡単だ。
“今のカイじゃ勝負にならねぇ”って判断された。」
リョウ:
「悔しいか?」
カイ:
「……当たり前だろ。」
雨音だけが響く辰巳PAの空気。
負けたわけじゃないのに、敗北感だけが残る夜。
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そしてセイジが言う
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「カイ。
速くなりたいなら──
“ベンツで速くなる道”を探せ。」
「トヨタの真似しても、あいつには勝てねぇ。
ドイツ車は“思考で速くする”んだ。」
リョウも続ける。
「次のメニューはサスとスタビ。
重い車は“ロールじゃなくて揺れ”を殺す。
足回りの考え方が日本車と逆なんだよ。」
カイ:
「……わかった。
あいつに“今のままじゃ勝てない”って言われたままじゃ終われねぇ。」
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遠く、去っていく黒スープラ。
テールランプの赤は、雨を反射して不気味に滲む。
その姿はまるで
「追って来い」
と無言で告げていた。
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