「雨夜、湾岸にて」 ― 実走編
第15話「雨夜、湾岸にて」 ― 実走編
──────────
湾岸線・辰巳入口。
信号が青に変わるタイミングで、3台のテールランプが同時に浮かび上がる。
先頭:ディアマンテ / セイジ
2番手:W124/ カイ
後方観察:E46 / リョウ
豪雨。
水煙。
路面温度は低い。
ハイグリップタイヤが逆に仇になるような、完全なる“雨のステージ”だった。
「いいかカイ、雨は“踏む区間”が決まってる。」
無線越しにセイジの声。
「ドライみたいに全開時間を伸ばすな。
“滑る前に加速を終わらせる”
これが雨の基本だ。」
ディアマンテが前に出る。
異様な加速──だが途中で踏み足しをしない。
1発で加速を終え、あとは“転がす”。
「おいおい…あんなに重いのに、滑らねぇのかよ…」
カイが驚く。
ECUでレスポンスが上がったEクラスでも、濡れた路面では全力を出せず、スロットルを微調整するしかない。
「直6は雨で強い。振動が少ないから、トラクションが抜けにくい。」
リョウの声が無線に入る。
「でも──セイジほどの無駄の無さは、ちょっと真似できねぇな。」
その直後──
セイジのディアマンテが、
雨の中で まるで“電車”のような動き を見せる。
ブレーキ → 減速 → ライン固定 → そのまま再加速
ハンドルの“角度が変わらない”。
「わかるかカイ。これが“重さの正義”だ。」
セイジが言う。
「俺の車は1.6トン。それでも曲がる。なぜか。
──荷重が消えねぇからだ。
軽い車は雨で荷重が飛ぶ。重い車は、雨でもタイヤを押しつけ続ける。」
「…そんな理屈、聞いたことねぇぞ……」
「だろ?でも真実だ。」
──────────
そして──“試す時間”が来る。
──────────
「カイ、次のコーナーで踏め。」
セイジが指示する。
「雨だからこそ、ECUの変化が出る。
電子制御を信じて、行け。」
「──了解。」
W124、2速 → 3速
ECU変更後の“鋭いトルク”が一気に後輪を蹴る。
しかし、滑らない。
むしろ車が軽く感じるほどに前へ出る。
「……嘘だろ。
今の踏み方、ドライでもギリギリなのに……雨で、行ける…!?」
「制御を敵にするな。
電子は“味方につけた瞬間”から武器だ。」
リョウが言う。
──────────
そして――
──────────
遠く。
加速区間の先、右側の非常駐車帯。
黒い80スープラが、止まっていた。
ヘッドライトもつけず、ただ雨の中で“見ている”。
「……おいカイ、気づいてるか。」
セイジの声が低くなる。
「来るぞ。あれが──“次の敵”だ。」
──────────




