「答えを持つ車、答えを探す車」
第14話
「答えを持つ車、答えを探す車」
ガレージのシャッターが上がる音と同時に、湿った秋の空気が流れ込んだ。
カイのW124はリフトに載せられ、フロントバンパーが外された状態で静かに佇んでいる。
セイジがノートPCを片手に言った。
「――ECUは“馬力を上げる道具”じゃねぇ。
“車の性格を決める設計図”だ。分かってるよな?」
カイはうなずく。
「トルク曲線を描き直す。重い車の答えはそこにある。」
リョウが笑いながらS54載せ替えのE46のボンネットを閉める。
「霧島みたいに上で伸ばして勝負できる車じゃない。
だったら“踏み返しだけで前に出る車”にすればいい。」
セイジがPCを接続し、エンジンが始動する。
アイドリングの音が、わずかに太く、重くなった。
「低中速の負圧域、全部トルクに振った。
踏んだ瞬間に“車体ごと押される”感じになるはずだ。
その代わり――上は諦めた。」
カイ「速さじゃなく、“答え”を選んだってことだな。」
リョウ「そう。軽さもパワーもないなら、“曲線で勝つしかねぇ”。」
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◆ 深夜テストラン ― 湾岸下り区間
3速 → 4速 → 踏み返し
――押し出される。
車体が前に出る。
アクセルの角度に対して、車重が邪魔をしない。
むしろ“重さがトラクションになる”。
カイ「……これだ。」
セイジが無線越しに笑う。
『お前の車は“速くなった”んじゃねぇ。
“走り方を獲得した”んだよ。』
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◆ 影
湾岸最後のPA。
エンジンを切ると、遠くで甲高い直6の音が響いた。
リョウが耳を傾ける。
「……あれ、S54じゃねぇ。
2JZ。フルチューンの音だ。」
カイは無言で振り返る。
照明の下を一瞬だけ、黒い80スープラが横切る。
ナンバー―― 9674
セイジが静かに言う。
「“苦労無し”か。なるほどな。
……トップを走る奴は、すでに答えを持ってるってことだ。」
カイは拳を握った。
「なら――俺は“探し続ける側”でいい。」
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重い車には、重い答えがある。
そしてまだ、その全部を手に入れたわけじゃない。
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