「重さは、まだ敵 –Test Run-」
第10話
「重さは、まだ敵 –Test Run-」
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湾岸線・辰巳付近。
午前3時。
ブレーキと冷却を手に入れたW124は、確かに“走れる車”になっていた。
――だが、それは“走り出す資格を得ただけ”だった。
アクセルは踏めるようになった。
高回転まで怖くなく回せるようになった。
ブレーキも、もう不安じゃない。
……でも速くはなかった。
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◆ コーナーでわかる「重さ」の現実
右レーン前方を走っていたS15が、ひらりとラインを変えた。
まるで車体が空気を切るように、スムーズに。
そのあとをFDが続く。
タービン音の立ち上がりが鋭くて、追い抜く瞬間の音が“跳ねる”ようだ。
直線ではついていける。
でも――コーナーに入ると、一気に差が開く。
W124のステアリングを切る。
重い。
いや、正確には“動き出すまでが遅い”。
サスもブッシュもまだ純正。
ロールの始まりで一瞬“待たされる”。
たったそれだけの差が、走りでは致命傷になる。
FDが消えていく。
S15のテールランプも遠ざかる。
「……これが重さってやつか」
俺が呟くと、綾瀬は言った。
「違う。
“重いから遅い”んじゃねぇ。
“重い車を走らせる装備が足りない”だけだ」
言葉は優しいのに、現実は冷たい。
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◆ 停車、そして沈黙
辰巳第一PAに入る。
車を止めても、心臓はまだ走っていた。
S15が停まっている。
FDもいる。
さっき抜かれたやつらだ。
でも誰もこっちを見ない。
そりゃそうだ。
W124なんて「ただのベンツ」だ。
重くて古くて遅い。今のままじゃ存在すら認識されない。
「悔しいか?」
綾瀬が横で聞いてくる。
「……わかんねぇ。
悔しいって言えるほど、まだ俺は走れてねぇ」
「いい答えだ。
じゃあ次は、“曲がれるようにする”。
サスとスタビ、ブッシュも全部だ。」
「……全部?」
「ああ。重い車はな、足回りで“戦う資格”が決まる」
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◆ そして、遠くに見える“怪物”
ふと見ると、さっきの黒スープラがPAに入ってきた。
ほとんど無音で停まる。
タービン音さえ“支配されてる”感じがする。
乗っている男はサングラスのまま、ただ降りもせず、何も見ていない。
こっちなんか眼中にない。
“苦労無し(9674)”。
この時点では、名前すら知らない。
だが――わかっていた。
あいつは“壁”じゃない。
“世界”だ。
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