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【LGBTQ恋愛結婚育児小説】境界線上の私たちー揺れる体、寄り添う心ー  作者: 霧崎薫
蝶の輪郭線、境界を超えて ~大和田さくらの物語~

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第六章:翼を広げて

 就職して一年目。さくらは証券会社の営業職として、新しい生活を始めていた。性適合手術はまだ受けていなかったが、そのための準備は着々と進んでいた。


 朝、鏡の前でメイクをする時間は、さくらにとって大切な儀式だった。ファンデーションを丁寧に塗り、アイラインを引き、リップを整える。それは単なる化粧ではなく、自分らしさを確認する時間だった。


「おはようございます、大和田です」


 オフィスでの挨拶も、自然な女性の声が出せるようになっていた。同僚たちは、さくらの本当の性別について知らない。それは時に後ろめたさを感じさせることもあったが、一方で「普通の女性」として扱われることへの安堵もあった。


 仕事は想像以上に大変だった。特に、古い価値観を持つ顧客との対応には苦心した。


「若い女性が、投資の話をするなんてねえ」


 年配の顧客からそう言われた時、さくらは優しく微笑んで答えた。


「はい。だからこそ、しっかりと勉強して参りました」


 その真摯な姿勢は、次第に顧客の信頼を勝ち取っていった。


 休日には、定期的に病院に通い、手術に向けての準備を進めていた。貯金を確認し、スケジュールを立て、必要な書類を集める。それは地道な作業だったが、一つ一つの過程が、さくらの決意を固めていった。


「大和田さん、最近輝いてるわね」


 先輩の山田さんが、ふとそう声をかけてきた。


「え?」


「なんていうか、自分に自信が持てるようになったというか」


 その言葉に、さくらは心の中で微笑んだ。確かに、以前よりも自分に自信が持てるようになっていた。それは、単に外見が変わったからではない。内面から湧き上がる確かな自信だった。


 ある日の夕方、取引先との打ち合わせを終えて帰社する途中、さくらは銀座の街を歩いていた。夕暮れの柔らかな光が、街を優しく包んでいる。


 その時、ふと立ち止まった。ショーウィンドウに映る自分の姿。スーツ姿の若い女性。かつての自分からは想像もできなかった姿。でも、それは紛れもない「今の自分」だった。


 空には、蝶が一匹、夕陽に照らされて舞っていた。


「もうすぐね」


 さくらは小さく呟いた。性別適合手術まで、あと一ヶ月。新しい人生の始まりが、すぐそこまで来ていた。


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