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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 1.「目覚めし者たち」
6/41

006.「デート」

「…………」


 佐藤 雀次郎 16歳。

 人生最大の難関が、目の前にあった。


 ――土曜ヒマ!!?? デートしよ♡♡♡♡


 さてこれをどう解釈すべきか……。


 まずは目的を分析しよう。「なぜ」突然こんなLIZEを送ってきたのか?

 心当たりは1つだけだ。朝の俺の態度があんまりだったから、さすがに彼女もヤバッと思ったのだろう。この多数のハートは、「好意」ではない。「媚び」の表れだと思われる。


 俺に許しを乞うている――のか……?


 冷静に考えれば、クラスのカースト最上位の女の子に対して俺の態度はあまりに命知らずだった。あれだけで学校生活が終わっていてもおかしくない蛮行。媚びられるまでもなく、俺の答えは「イエス」一択だ。平穏な学生生活を送りたければ、彼女を拒否する理由などない。


 ……さすがに、ガキすぎたよな、あの露骨な態度は……。あの子の目的が牛島だったとしてもそんなことは関係ない。あの子が俺みたいなやつに対しても分け隔てなく接してくれるいい子だってことはもうわかっている。

 あんなに偏見なく接してもらっておきながら、期待したとおりじゃなかったからってスネるなんて、ダッセェ……ダサすぎんぞ、俺。


 いやちょっと待て。結論を出すのは早計だ。まさかとは思うが、宛先を間違えているという可能性もなきにしもあらずだ。まずはそうだな、「佐藤 雀次郎です。叡智さんですか? 合ってるかな?」くらいの回答が無難なところか。


 ピロンッ。


 ――ウンウンウンウンあってるあってる♡♡♡♡


 めちゃくちゃうなずいてる絵文字とともにソッコーで返事が返ってきた。


 そうか……誤送信という線は消えたか……。


 目的はまぁいいとして……ナニをする気だ? 誰と? どこで? どれくらい?

 バッチリ勝負服でキメていったらそこにはとりまきのチャラ男どもが……ってのは最悪の展開だ。

 あまり気合を入れすぎてもまたスベるかもしれない。無難なやつ。無難なやつでいこう。でもどこに行けばいいんだ? 叡智さんから誘ってきたんだから、あっちでいろいろ考えてたりするんかな? でもいざ会ってみたらお互いノープランなんてことになったらそれも最悪だ。なんか考えてる? なんて探りを入れて、「行先なんて男が考えるもんでしょダッセー!」って思われるのも嫌だ。


 ……よし。考えるだけ考えておこう。向こうが何か考えているならそれに任せるもよし。考えてないようならこっちのプランを提案する。いいね。デキる男って感じだ。


 ――当日。


 どこ集合にする? と聞いたら、「ピヨじろがよく遊び行くところ」と返事が返ってきたので俺は秋葉原に降り立っていた。


 うーん……なぜここ? まさかここで遊ぶわけでもあるまいが……いやいや。そもそも遊びに行くことが目的ではないのかもしれない。そうだ。叡智さんの友達の行動範囲ってきっと渋谷とかだろうから、この辺にはいないだろう。人に見られずチョロッと会うにはベストなロケーション。そのへんのカフェとかでちょっと話して、こないだの件を清算しておしまいって感じかな?


 まぁ、その線が濃厚だな~……


 と、思っていると、視界の端にこの街の客層からかけ離れた異色の存在が目に飛び込んできた。


「あ! ピヨじろいた~! うぃすうぃ~す!」

「お、オハヨ……」


 厚底の靴をポクポクと鳴らしながら、ブンブン大手を振って駆け寄ってくる叡智さん。周囲の視線が集まり、俺は委縮して消え入るような声になってしまった。


「どした~ピヨじろ!? 元気ないぞ~!?」


 バンバンと背中をたたかれる。


「は、はは……叡智さんは朝から元気いっぱいだね……」

「まね~! それだけがあーしのとりえだから!」

「で、どうしようか今日は」

「あーそだ! まずは作戦会議! 文字だとやりづらいから会って決めようと思ってたんだ~! とりまあっこ入ろ!」


 促され、近くのカフェに入った。

 作戦会議? 会って決める? なんだなんだ……?


 お互いコーヒーを注文し、席に着くと――まずは開口一番、俺は先日の態度を謝ることにした。


「ごめん! 叡智さん!」

「わっ!? え怖なにが!?」

「いや今日あれでしょ? あんとき俺が不機嫌にしてたから仲直り的なアレで誘ってくれたんでしょ? 気使わなくていいよ。ありゃ俺が悪かったよ」

「そゆこと!? いやいやあーしこそマジゴメス! 別にピヨじろを踏み台にモーとびと仲良くなりたいとかそーゆーんじゃねーから!」


 自白している……


「いや心のどっかではそー思ってたかもしんねーけど……でもそりゃやっぱよくないべ!? だから今日はあーし、純粋にピヨじろと友達になりたいなと思って来たんだ!」

「叡智さん……」

「へへっ、でもびっくりした~。まさかそっちから謝られるとは思ってもみなかったよ。男ってもっとプライドの塊で、謝れないもんかと思ってた」


 む……そりゃ悪かったね、プライドのない男でさ……


 いや。いやいやいや。何考えてんだ俺は。ヒネた考えはやめろ。どう考えてもこりゃ褒めてくれてる文脈だろーが。嫌だね陰キャは。こーゆーところが陰キャたる所以だわ。


「俺も叡智さんのこと誤解してたっつか……勝手に壁作ってたわ、はは……」

「じゃ誤解も解けたってことで! ねね初日は結局話聞けなかったけど、教えてよピヨじろのこと! いつも何して遊んでんの? どーゆーのが好き? 壁壊そーじぇい!」


(なるほど、そういうことか……)


 ――隅の席で目深に帽子をかぶり、ひそかに会話を聞いている男がいた。


(あの人間のメス……私に取り入って何かを探ろうとしていたところを看破され、畏れ入って魔王様に尻尾を振っている……いや果たしてそうか……? そう思わせておいて実は、標的を魔王様に切り替えている……? クッ……いったい何が狙いだ……)


 ――と、そんな腹心の気苦労を知る由もなく。


「ここがゲームショップ」

「うわ~デッカ! なになにゲームってTNTNとかああいう系!?」

「まぁジャンルはいろいろあるね。TNTNは落ちものパズルの一つだけど、ああいうのの他にもRPG、アクション、格闘、スポーツ、シュミレーション、いろんなジャンルのゲームがある」

「??????」


 手元にあるソフトを手に取る。


「例えばこれはRPG。ファイナルホスト21」

「おわ~イッケメ~ン! すごこんなんあるんだ! 何するゲームなん?」

「RPGってのはロールプレイングゲームの略で、その世界の主役になりきるっていう遊びなんだ。叡智さんもそういうなりきり遊びってしたことないかな?」

「デゾニーみたいなもん?」

「まま、そーゆーかんじ」


 ――移動。


「ここがアニメショップ」

「しゅごなにこれえぐ! バツキューよりキラキラじゃーん!」


 入口、棚、壁、いたるところに展示されるカワイイ女の子のキャラクター。360度どこを見渡しても肌色が目に飛び込んでくる。


「ひえーあの子エロくね? てかみんなエロ! えまってピヨじろワンチャンあーしエロい店連れ込んだか!?」

「いやそんなことないって。ふつーだよふつー。この界隈ではこんな感じがふつー」

「そ、そか、ふつーか! ふつーならしゃーないな!」


 とはいいつつ、委縮してやや縮こまってしまった叡智さん。俺の服の端をつまんで心細そうに後ろをついてくる。これまでタジタジにされっぱなしだったが、どうやらこのフィールドでは俺のほうが有利属性のようだ。


「えー……うわー……あれキュンプリっぽくね? あんな子脱がせるとか鬼畜か……」


 とかボソボソつぶやいている。


「ね、ねぇ……ピヨじろもやっぱこーゆーのが好きなの?」

「ふむ……」


 俺は前進をやめ叡智さんに正対した。


「その質問に答える前に、俺も一つ聞いていいかな」

「う、うん」

「叡智さんのカッコも、けっこうエロくね?」

「え……」

「だって胸元もきわどいし、ボディラインもくっきりだし、スカートだって――」

「じ、ジロジロ見んなし!」


 バチーンと顔を押される。


「これはそーゆーんじゃないから! あーしなりに頑張ってんの!」

「頑張ってる――とは?」

「だ、だって……ホラ、あーしってここがこう……こんなじゃん?」


 恥ずかし気に胸を気にする素振りを見せる。


「だからこーゆーふーにしないとデブに見えんの!」

「なるほど……いやとてもよく似合ってると思うよ。それが叡智さんの戦略だというわけだ。じゃあ彼女たちの事情も見てみよう。見て、あの子たち。どうしてあんな恰好してると思う?」

「そりゃ、あーいうのが好きな男が多いってことじゃないの……?」

「そう。時代背景から説明すると、今、アニメ市場は飽和状態なんだ。世の中には大量の作品が溢れかえっている。そんな中で作品に気づいてもらうためには、とにもかくにもあーいうキャッチーな女の子を前面に押し出す必要があるってことさ」

「な、なるほろ……」


「で、俺があーゆーのが好きかという質問についてだけど……もうわかってくれたかな? そういう話じゃないんだ。あれはあくまでただの広告塔。重要なのはそこじゃない。重要なのは、お話が面白いかどうかということだ」

「あーね……つまり女優が美人なだけのつまんない映画じゃ意味がないと、そゆこと?」

「そのとおり!」


 それはそれとして、もちろんエロい女の子は大好物です。


 ――移動。


「ここが本屋」

「ひゃーここもデッカぁ~!」

「だいたいこんな感じだね、俺の行動範囲は。ゲームやアニメ、漫画を探して、気に入ったのがあったら買う」

「へぇ~じゃ、休日はその買ったやつで遊んでんの? ずっと?」


 ずっとではない。ある意味純粋に作品世界を楽しむ時代は、小学生で終わったといってもいい。それ以降は教材的に集めている節もあるかもしれない。いい設定、感動する展開なんかがあったらどういうところをいいと思ったかメモしておき、自分の漫画に取り入れたりしている。休日の過ごし方はそういう感じだ。

 ただ、漫画を描いてるなんて言ったら絶対見せろと言われるからな~……先日部長に指摘された点を改善したい。今はまだ見せたくない。


「まぁ……それだけじゃないけど……今日はここまでにしておこうかな」

「え~何それウケる! ジラし上手か!」

「必要な分は見せたということだ。これ以上は見せぬ」

「じゃ次はピヨじろん家行っていい!?」

「…………え」

「だってどーゆーの集めてんのか見たいんだも~ん♪」

「え……あ……う……」


 突然の絶体絶命。

 ど、どうする、俺……!?


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