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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
40/41

040.「コスプレ」

 うーん……おかしい。


 叡智さんの既読がつかない。


 もしかして、人の波に押されてスマホを落とした……?


「お~い」


 着替えを済ませた山田さんがテクテクとやってくる。


「ま~だ返事ありませんかねぇ~」

「それが既読もつかなくて……」

「どーする?」

「とりあえず、2人だけでいこっか……? 探してどうなるとも思えないし……」

「えぇ~っ……一人だと心細~い……」

「お、俺がついてるから……」

「なにそれホレそう~♡」

「からかわないでよ……」


 グループLIZEに、館内散策中の人は2人を探してもらうようお願いのメッセージを入れておき、いったん2人で広場に向かうことにした。


 単にはぐれただけならいいのだが……もしや何かが起きていないだろうな、ということも一応念頭に置いておく。


 勇者が人に紛れて彼女を襲撃する――なんて姑息なことはしないだろうから、あるとすれば土丘みたいなイレギュラーか。


 しかしクラスの連中で他にココに来そうなヤツには心当たりがない。刺客がいるとすれば――考えたくはないが、漫研の中……?


 売り子として現在応対中の部長や賀地目先輩、御宅は違うだろう。ならば現在自由時間中である露里や他の部員……


 ダメだ。これは味方だと断言できる人がいない。いるとすれば一人――


 メッセージをうち、俺は神宮時さんと呼び出すことにした。


 ――


 コスプレは、身構えていたほど無法地帯ではなく、のどかなものだった。


 露出の激しい衣装を着ていくレイヤーと、それに群がるローアングラーが多いエリアもあるとのことだが、そこを避けてエントランス付近にいればなんのことはない、お行儀はいいものだ。


「へぇ~、ジェリーC今年はコスプレの女の子いるんですね!」

「A-85か、行ってみよう」

「すみません、撮影いいですか」


 と、ちらほらと声がかかるくらいで背後に群がられるようなことはない。


「山田さん、撮りたいって人いるけど」

「いいよ~。こう?」

「おぉっ……そ、それはペペロンチーノちゃんのくるりんポーズ!」


 さすが山田さん。オタク心をつかむのがうまい。

 一人撮り終えると、遠巻きに見ていた他の人たちもちらほらとやってくる。


「まぁ1人だとこんなもんでござるか……3人揃った姿が早く見たいですな」


 と、応援に来てくれた露里。


「佐藤氏、他の2人はまだ見つからんでござるか? ここは拙者が見ているから探して来たらどうでござる?」

「うーんそうだね……」


 数十分が経過したが、捜索に当たっている部員から発見の連絡はまだない。


「山田さん、ここ露里に任せていっていい?」

「りょ~。なんか大丈夫そだからいいよ~」

「わるいね、なるべくはやく戻るから! 神宮時さんも一緒に来てくれる」

「あ、はい……」


 再び館内に入ると、まもなくLIZE通知が鳴った。


「ん……?」


 叡智さんからだ。「困った。屋上来て」と一言。屋上……? サークルのスペースは1階なのに、なぜそんなところに……


 疑問に思いつつも、来てと言われたら行くしかない。が、はっきり言って不可解だ。警戒心が高まる。なぜ屋上なのか。なぜグループにではなく、俺個人に送ってきたのか。


 念のため、牛島に「どこにいる?」とメッセージを送っておく。


 ……が。こちらも既読がつかない。


 ばかな。あの牛島が即既読にならないだと? いったい何が起きている……


 混乱の中、屋上に着くと――不自然なほど、人がいなかった。


「佐藤さん……これはいったい……」

「神宮時さん……悪いけど……ホンット悪いけど……手……つないでもらってもいい……?」

「え……えぇ……?」


 俺の中で警鐘が鳴り響いている。あまりに不自然な状況。牛島ともつながらない。今ココで襲われたらアウトだ。俺にできることはただ一つ。神宮時さんとつながって、ワンチャン俺も認識阻害の対象になって事なきを得る……くらいだ。


 いけるかな……? ダメかな……?


 突然の意味不明な要求に、若干引き気味の神宮時さん。手は差し出してくれそうに……ない。ダメか……


 そのまま歩みを進めていくと、やがて誰かが階段を駆け上がってくる音がけたたましく鳴り響きはじめた。


「ヤバイ……神宮時さん、こっちへ!」


 反対側へと走る。


 瞬間。


 ガラガラガッシャーンと天地をひっくり返したような音。とともに、ゴロゴロと屋上に人影が転がり出てきた。それは――


「えっ……」


 叡智さんだ。


「叡智さん……? どうし――」


 少し遅れて、その後ろから人の大群。叡智さんに見えた金髪の少女は、すさまじい瞬発力で数十メートル先から一瞬で俺の胸元に飛び込んでくると――


「お前カ!!」

「え……えぇっ!?」


 思い切り胸ぐらを掴まれ、空中に持ち上げられた。なんだ、この怪力は!?

 よく見ると、なんか違う。アップスタイルにしたり、ポニーテールっぽくしたり、髪をまとめるなら一本にすることが多い叡智さんと違って、目の前の少女は見たことのないツインテールスタイルだ。


 それに、叡智さんの担当はアップルパイちゃんなのに、なぜかショーロンポーちゃんのチャイナドレス衣装を着ている――と思ったら、よく見たらそれも違う。ショーロンポーちゃんのそれは白い生地に金色の竹模様だったはずだが、この子の模様は金色の――龍。


「お、お前……龍拳士のシャオメイか……!!」

「!! やはりお前……魔王だナ!?」

「じ、状況がわからん……まずは下ろせ!」


 パッと離され、地面に尻もちをつく。神宮時さんは何がなんやらわからずオタオタしている。


「あいつらダ! こんなところで何を考えていル! すぐ止めロ!!」


 少女が後方を指し示す。人の黒波が迫ってきていた。


「と、止めろと言われても……」


 再び胸ぐらを掴まれ、少女の顔が近づく。


「この後に及んでしらばっくれる気カ!? あれはどう見てもエレシュキガルの魅了<チャーム>にかかっていル!! すぐに解かせるんダ!!」

「エレシュキガル……チャーム……」


 シャオメイの口ぶりからするに、エレシュキガルというのはどうやらグガランナと同様、魔王の部下のようだ。そしてそいつには人か何かを操る能力があって、それによって攻撃を受けている……と。


 事態はさらにわけのわからぬ方向へ動いていく。


 人の黒波とは反対方向。建物の壁の向こうから、飛翔してくる物体があった。


「あッ!?」


 シャオメイの声に、後ろを振り向く。その飛翔体の主は――牛島。


「牛島! キサマ今まで何を――」

「魔王ッ!!」


 駆けだそうとした刹那。横っ飛びにタックルしてきたシャオメイに押し倒されると同時に、頭上を牛島の猛烈な爪撃が襲った。


「えっ……!?」


 何が起きている……? なぜ、牛島が俺を……? 謀反か……? 土丘の件で俺がレベル0だとバレたから……?


 いや、それもあるが……


「な……なぜ俺を助けた」

「お前こそ……なぜあの時私を助けたネ」


 なんだかわからないが、魔王はこの子を助けたことがあるらしい。おかげで九死に一生を得た。いや――まだ全然助かっていない。


 前門のオタク軍団。後門の地獄の宰相。


「人間を相手にすれば無傷では済ませられない――コイツを突破スル! ついてこい、話はその後ダ!」

「わ――わかった!」


 神宮時さんの手を取って駆けだすと、その背に牛島が迫る。再びシャオメイが間に入ってきて、俺を左肩に、神宮時さんを右肩に乗せて跳躍すると、翼の生えた白髪の魔物はその下を凄まじいスピードで地面を削りながら駆け抜けた。


「しつこい奴ネ――人間は傷つけられないケド、魔物なら容赦はしないネ!!」

「シャオメイ、気をつけろ! そいつはグガランナ――強いぞ!!」

「心配無用ネ!!」


 2人を肩から下ろしたシャオメイは、地を蹴ると一瞬で牛島の懐に入り――まずは、一撃。


「覇ッ!!」


 手首のスナップだけで裏拳を顔面に叩き込む。鞭のような甲高い破裂音が鳴り響き、次いで――


「征ッ!!」


 大きく開いた足が空中で弧を描く。かかと落としが肩に決まりドズンと鈍い音。まだ終わらない。


「掌――――ッ!!!!」


 両手首を上下にくっつけてダブル掌底を腹に叩き込むと、大きな鉄板が建物の上から落ちたようなと凄まじい衝撃音とともに、牛島は大きく空中に吹っ飛んで建物の下に落ちていった。


「す……すっご……」

「今のうち、こっちネ!」


 人の黒波が出てきた方と逆方向の通路を走り、階下を目指した。


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