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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 1.「目覚めし者たち」
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004.「叡智さんは先生が気になる」

 早朝のとある校内ベンチ。部活の朝練の掛け声やボールの音もチラホラ聞こえ始める中、俺は牛島と2人座っていた。


「では状況を聞こう」

「ハッ」


 あっちの世界の話はしばし放置したいところだったが、よく考えるとそもそも俺だけ状況がわかっていなさすぎる。勇者も牛島も前世の記憶があり、さらに今世においても何か前提知識のインプットをもとにして動いているらしいのだ――女神に何か言われたとか。

 そんな中、俺一人だけ何もかも推測でしか状況を把握していない。それは非常にマズい。だから、根掘り葉掘り牛島に聞くことにした。


 した……のだが。


「まず、あの日勇者に討たれた私は、薄れゆく意識の中何者かの声を聴きました。そして気が付くと真っ暗な空間におり、その何者かからこの世界へ転生させるといわれたのです」


 やはり話はそこからだ。

 まぁそうだろう。彼からしてみれば、それより前の情報は当然俺も知っていること。わざわざ掘り返すことではない。なんとかして聞きたい――聞きたいが怖い。


「我は目覚めたばかりで前世の記憶があやふやだ。前世はどのような世界だったのか。前世で何があったのか。我々はどのような存在だったのか。我々の身に何が起きたのか。すべて話せ」


 ――と、言いたいところだが危険だ。


 このグガランナという化け物は、表面上は俺に服従しているようだが心の内では何を考えているのだかわかったものではない。極悪非道の怪物だというのなら、うかつに隙を見せるべきではない。弱みを見せれば喰われる――そういう存在かもしれない。


「何者か――というのは、件の女神アドナというやつか?」

「いえ……ヤツは名乗りませんでしたので……」

「男か女かもわからんのか?」

「も、申し訳ございません……ボヤッとした光のようなものでしたので、なんとも……」

「ふむ……」


 別の存在……か? 悪意をもった何者かが、魔王の軍勢をこの世界に送り込んできた。それに対抗するために、女神アドナは勇者を送り込んできた。そういう筋書きだろうか……?


「で……お前は今まで何をしていた」

「ハッ。基本的には地に伏せ、息をひそめて時を待っておりました」

「誰も殺していないのか?」

「何人かは」


 殺してるのかよっ!!


 血の気が引くのを抑え、努めて平静を装い話を続ける。


「今でもか?」

「いえ……幼少のころのみです。ご安心ください魔王様。私とてそこまで愚かではございません。すぐにこの世界の治安水準、武力の強さは把握いたしました。あの調子で暴れればタダでは済まない。仲間を集めなければ……と」

「賢明だな」

「魔王様も配下を探そうとされていたのですよね。しかしよくぞあのような堂々たる振る舞いを……」

「フ。あれくらいまでならば児戯と許容されるラインだ、問題ない。現に愚民どもは我を魔王と気づかず、キサマだけは気づき、そして勇者をあぶりだすことまで叶った」

「な、なんと……! そこまでお考えだったとは……!!」


 また震えだす牛島。マジの盲信者なんだろうか……。


 もう一つ確認しておきたい。


「力の調子はどうだ」

「ハッ。それが……申し訳ございません。いいとこ2%といったところでして……あのときはお見苦しい姿をお見せしました」


 …………に……2%…………? あれで…………?


「そういえば、片腕……だったな」

「お恥ずかしい限りで。この世界では今のところ完全変態は叶いません」


 口ぶりから察するに、本気を出せば全身が怪物の姿に変身するようだ。


「しかし、それでも勇者と五分だった」

「ハッ。条件はきゃつも同様かと思われます。……あの」

「どうした」

「魔王様のお力のほどはいったい……」

「!!」


 こ、こいつ! 探りを入れに来やがった……俺のことを……!!


「…………牛島」

「ハ、ハッ!」

「それは……どういう意味の質問だ……?」

「い、いえっ!! その、勇者の力があの程度でございましたので……魔王様のお力次第では私が横入りするまでもないのかと……」

「ふざけろ……」

「ひぃっ……!!」


 眼球から血が噴き出すかと思うほどに精一杯力を込めて睨みつける。

 たまらず、牛島はベンチから飛びのき地面に土下座した。


「も、申し訳ございませんでしたァーーーーーッ!! わ、私の忠誠に決して変わりはございません!! 今後も全力をもってそれを見える形で示させていただきますッ!!!!」


 それでいい。探るな、俺のことを。


 ――玄関。


 牛島と別れ、そろそろいい時間になってきたので靴を履き替えて教室に向かおうとする。

 と、不意に背中をドーンと押された。


「!?」

「よっすー! 朝早いね~ピヨじろ!」

「ピ、ピヨじろ?」

「そっ、雀次郎の雀をとってピヨじろ! よくね?」


 叡智さん――距離の詰め方がパネェ。ほとんど話したこともないのにもうあだ名をつけてくるとは。


「てかピヨピヨ鳴くのはヒヨコで、雀はチュンだと思うけど……」

「マ!? うわはず! でもチュンじろは言いにくいしな~! じゃチュン吉でどう!?」

「吉はどこから……ピヨじろでいいです」

「オケオケ!」


 手を上げてくる。

 ポカーンとみていると――


「ちょちょちょー天然かーい! うぇーい!」


 腕をつかまれて、無理やりハイタッチさせられた。

 パネェ。ギャルパネェ。距離の詰め方もボディタッチの多さも魔性だぜこりゃ。


 廊下を歩きだす。


「いやー初日以来あんま話せてなかったけど、あんときはごめんねー」

「あんとき……?」

「いやあーしが煽ったから変に緊張させちゃったかな~と思って。そのくせなんもフォローできなかったっしょ。マジごめん!」

「あ、あぁ……そんなこと。いや叡智さんは悪くないよ。俺が勝手に暴走しただけだし……」

「ほんとー? よかったー! まーなんだ、困ったことあったら声かけてよねっ!」

「あ、ありがと……」


 なにコレ? 天使か? ヤバイマジ惚れる2秒前。


 ――が。


 そんな淡い恋心も次の発言で粉々に打ち砕かれることになる。


「やーでも……すごいよねーモーとび。あーしなんてなんも動けなかったのに、あそこで笑いに変えられるんだもんな~……」

「……!!!!」


 あー……そういうことか……。

 モーとびってのはなんだ。たぶんあいつだ。牛島のことだ……。


「ね、ね、ピヨじろさ、なんかやたらモーとびと仲良くない? てか今朝も一緒にいなかった?」

「あーまぁ……ほら俺あれだよ……イジッてくるやつとかいるし……気を使ってくれてるってゆーか……」


 今朝一緒にいるところまで見られたのか? あいつめっちゃジャンピング土下座してたけど。まさかそこからじゃないよな?


「ふーんそっかぁ。ねねピヨじろ、LIZE交換しよ!」

「あ、うん」


 踏み台なのは明らかだ。記念すべき女の子との初LIZE交換。それがこんなに嬉しくないものになるなんて……。


「あんねモーとび、初日からめっちゃ女子にアタックされてんだけど超つれないってゆーかむしろコワッ! 目つきヤバ! みたいなー?」

「ふーん……」

「なんだけど、それがピヨじろといるときだけめっちゃ優しい気がしてさ! まさかそっち系だったりしないよね!?」

「いや、知らんし……」

「あ、あれ~なんか、ピヨじろまでそっけなくない~?」

「んなことねーよ……」


 とたんに気が落ちてしまった俺は、一生懸命話しかけてくる叡智さんを後目に、教室に入るとさっさと朝寝モードに入った。


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