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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
39/41

039.「夏コミ」

 夏コミ当日。


 サークル参加として部長たち中核メンバーが早朝から先行入場することとなり、俺たちその他協力メンバーは一般参加として10時ごろに現地到着することとなった。


 その前に恒例の牛島とのミーティングを行う。


「というわけで、今日はこの埠頭エリアに行ってくる」

「人が多く集まる場所ですね……刺客が潜んでいるやもしれません。くれぐれもご注意を」

「それはないだろう。我が魔王であることを知っているのはあのクラスの人間のみ。叡智たち以外に誰か他に参加する動きを見せている者はいたか?」

「いえ……しかし他でもないその叡智が刺客である可能性も」

「クク、心配性だな。いいかげんヤツは外したらどうだ? 勇者と接触している様子はないし、敵である可能性は限りなく低いと思うが。最近はお前を探ろうという動きもないのだろう?」

「それが……LIZEを聞かれまして」

「えっ!?」


 思わず素で声が出た。


「い……いつだ?」

「7月です。野球部が勝ち上がりクラスを挙げて応援するとなった際に、担任と応援団リーダー間の連絡のためという名目で」


 もっともらしい名目だ。


「最初は必要な業務連絡のみでした。それは大会が終わるまで変わることはありませんでした。しかし……最近になって少しずつ個人的な会話をしてくるようになったのです」

「……どんな?」

「おはよう、元気? とか、先生って夏休みは何すんの、とか、休日は何してるの、とか……あぁぁ! ヤツめ、やはり私を探ろうとしているぅぅぅ……」


 頭を抱えながら唸る魔将。


 落ち着け……落ち着け。ドクンドクンと少しずつ早くなってくる鼓動をなんとか鎮める。これは……嫉妬か……?

 いや大丈夫。あの子はこういう子なんだ。だって似たような連絡は俺にだって来るし。1日1回はなんらかのメッセージのやりとりをしている。きっと誰とでもそうなんだろう。


 大丈夫……? 何が大丈夫なんだ……?


 そもそも俺は叡智さんとどうにかなりたいと思っているのか……? 好きか嫌いかと言われたら間違いなく好きだ。入学初日から転落人生真っ逆さまになりかけた俺をすくい上げてくれた恩人だし、いつも周囲を明るく照らす姿は魅力的だ。


 でも、だからいうのだろうか? 俺だけを照らしてくれと。その対価に、俺は彼女に何をあげられるというのだろうか?

 いや、そもそも恋愛に対価が必要なのか? でも対価のない無償の愛なんて、それこそ赤の他人同士で考えられないか……


 うーん、わからない。憧れるのは簡単だ。でもその先のことについては、ちょっと今の俺にはイメージがわかない。


「よう」


 ガシッと、首に腕を回されて正気に戻った。


「あっ……? や、山田さん。どうかした……?」

「どうかした? じゃないっつーの。も~ピヨッちずっと上の空なんだから~ちゃんと案内してよね~」


 いつのまにかギャル集団と合流し、現地に到着していたようだ。

 ものすごい人込み。そして熱気。


「……で、ホントのトコどーなのよ?」


 すごい人だ~などと騒ぎながらパシャパシャと写真を撮る叡智さんたちの後ろで、ガッチリとホールドされた姿勢のまま問われる。


「ど、どーなのとは……?」

「その気はあるのかって聞いてんの~。知ってる? あの子、こないだは伽羅たちと海に行ったし、来週はまた別のヤツと夏祭りに行くし、その先も予定が山積み。あんたのターンってたぶんもうココしかないよ~」

「……で、その先々でアプローチされてきちゃってるわけだ」

「まぁだいたい皆それが目的だからね~全部撃沈してっけどw」


 そりゃ、そうだ。

 同性の俺から見てもこの夏の小谷君は輝いていた。その彼を蹴ってまで交際に踏み切ろうなんて生半可なことじゃ無理だろうし、焦って告白したところで成功するとは思えない。


 むしろ、純粋に遊びたいのにどこに行ってもそういう目でしか見られないのは苦痛ではないだろうか。


「俺は何もしないよ。その気が全くないとはいわないけど、少なくとも今は……てか、山田さんはなんでそんなに俺に肩入れしてくれるの?」

「んふふ……自分の乳に手を当ててみ? それが理由かもねぇ」

「乳って」


 モミモミと胸を揉まれる。童貞には刺激が強すぎるセクハラだ。こんなことされたらホレちゃうぞ……まぁ、なんとなくこの子は彼氏いそうな気がしているが。

 こういうコトを平気でしてくるのも、そういうことだろう。叡智さんもボディタッチは多い方だが主に使うのは掌で、こんな風に全身でベタベタ組み付いてくるようなことはしない。そういうトコロに、2人の経験値の違いみたいなモノを感じる。


「でも一つアドバイスしとくとねぇ……人間、優しさだけじゃ手に入れられないものもあるんだ。引くべきところは引いて、押すべきところは押すことだねぇ~」

「……今が押すときだと?」

「さぁねぇ……キミの考えのほうが正解かもしれない」


 このギャル、俺の心を読んでいる……!?


 ――しかし客観的に考えて、クラスの誰もが失敗しているのに今俺が告白して成功するとはとても思えない。なのに今行けとも取れる発言の意図するところはなんだろうか。


「助言ありがと……一応、心には留めておくよ」

「ん」


 いったん、受け止めておく。


 そんなやりとりをしつつダラダラ歩いていると、やがて建物へとたどり着いた。


「ねねピヨG! ウチらのサークルってどこだっけ!?」

「えーとね……東棟のA-85ってトコ」

「えっと地図だと……この隅っこのトコかな!?」

「そうそう」


 建物に入ると、人の密度が一気に上がった。


「ひぇ~ヤバたん! 前進めん! あーしら今どこに向かってんの!?」

「ゆきぽよ~! ゆきぽよどこ~!?」

「くうちゃむ! こっちだ!」


 人の流れに押し流されそうになり、叡智さんははぐれまいと安井さんの手をとる。

 そんな二人の姿がしだいに見えなくなり、俺は山田さんと二人、A-85にたどり着いた。


「旨本ですね! 1000円になります! はい、ありがとうございまーす!」

「次の方どうぞー!」

「おつり不足しております! ご協力お願いしまーす!」


 ジェリードイールちゃんのコスプレ姿で忙しそうに応対している賀地目先輩や部長たちの姿が目に入ってきた。


「お、あれかぁ……って……」


 ものすごい大行列。この人の波は何事かとポケーッと眺めていたら、まさかのすべてジェリーCブースの客だった。なるほど……こりゃ売り子が必要なワケだ……!


 部長のもとに早足で行く。


「お! 佐藤君おはよう! 御宅君ゴメン、ちょっと交代頼む」

「はいっ!」


 部長は売り子の手を離すと、こちらへ近づいてきた。


「あれ? 山田さんと2人だけかい? 他の2人は?」

「すみません、はぐれちゃって……」

「LIZEで呼び出してみて」

「はい」


 ポチポチとメッセージをうつ。


「てか、すごいですねこの行列……コスプレ宣伝するまでもない気も……」

「はは、まぁ話題にはなるでしょ。とりあえずコレ、山田さんの衣装渡しておくね」

「ども~ッス」

「あとこれ看板。はい、佐藤君」

「あ、はい」


 看板には、ジェリードイールちゃんの可愛らしいイラストとともに、「ジェリーC旨本 東-A-85です!」と書かれてあった。


「彼女たちがコスプレしている横で、その看板でアピールよろしくね」

「わかりました」


 俺の最初の任務は、コスプレの手伝いだ。看板持ちとともに、護衛も兼ねる。

 中には不届き者もいて、許可なく撮ったりスカートの中を撮ろうとする輩もいるらしいので、もしそういうヤツがいたら注意したり、危険だと思ったら俺の裁量で中止して撤収してよいらしい。


 ちょっと、怖い。

 こういう、「キミの裁量で〇〇していいよ」っての、苦手なんだよなぁ~!


 俺が判断してよいということは、その結果に俺が責任を負うということだ。ちょっとしたことですぐに撤収してしまったら宣伝効果が全然になってしまうし、せっかくコスプレを楽しみに来てくれたギャルたちにほとんど何もさせないまま終了ってことになってしまう。

 かといって危険な状況を放置して彼女たちを傷つけてしまうようなことになったらそれこそ最悪だ。


 最悪の事態を避けるためには……そう、まずは抑止力となることだ。近くで俺がニラミをきかせているぞ、とアピールすること。しかしヒョロガリオタク一人でアピールもクソもない。ここは、救援が必要だ。


 LIZEで露里を呼び出す。


 露里は現在フリーの時間で他サークルを見回っているところではあるが、最初だけ一緒に立ってもらうようお願いする。いかんせん俺もはじめてのことなのでコスプレエリアの秩序状態がどんな感じかわからない。まずは露里に一緒に立ってもらい、何事もなく問題なさそうであれば解放する。状況によってはさらに応援を呼ぶ。これがいい。


 ギャルたちのコスプレが見れるとあって、露里は二つ返事で了承した。


 実施にあたっての手配はこれでよし。残る問題はその前の話。

 先んじて着替えに行く山田さんと別れ、俺は叡智さんからの返信を待った。



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