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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
33/41

033.「第三試合」

 先日の件は、SNSで大騒ぎとなっていた。


「公園に突如怪物現る」「合成だろ」「公園来てみろ、滅茶苦茶になってる」「テロじゃね?」などなど、様々な投稿が飛び交っている。


 しかしすでに怪物の痕跡は影も形もない。今日はなぜか土丘が学校を休んでいるが「その件との関連は不明」だ。死体はない。


 唯一小谷君だけが土丘と牛島の夜叉モードの顔を見てしまったので、どうすべきか牛島に相談に来たが……「怪物は誰だかわからない」「用心棒は別の場所で張り込んでいて到着は間に合わなかった」「土丘が襲撃の後どこに逃げたかはわからない」とシラを切らせた。

 今警察に相談すれば次の試合に差し支える。引き続き夜間は護衛するので、まずは次の試合に専念するといい――そう言い聞かせてある。


 だから――そっちはとりあえず、もういい。


 とうとう人を殺してしまった……でも、いい。それももういい。やらなきゃやられたんだ。そのことは考えても仕方ない。罪悪感を振り払い、俺は次に襲い来る事態を懸念した。


 一つ。捜査の手。叡智さんの父親は、現場に居合わせた。彼がそのまま知らん顔は、おそらくしないだろう。できればもう会いたくない。会いたくないが……彼の方からやってきた場合、果たして俺は平然としていられるだろうか……。


 二つ。勇者。SNSにグガランナの真の姿がアップロードされている。魔王軍が何かとんでもないことをやらかしたであろうことは想像に難くない。そして、相応の瘴気を集めることを実現した――ヤツがこのまま黙っているはずがない。


 三つ。グガランナ。何アレヤバイ。ヤバスギル。あいつがいつか敵になるの? てかいつかじゃなくて、今? 俺のレベルが0ということがバレ、全部嘘でしたと土丘にゲロったことも聞かれたハズだ。まぁそれは演技だなんだと誤魔化すとして……疑念は間違いなく生まれただろう。


 四つ。新たな刺客。よくわからん変な能力者が土丘ただ一人という保証はない。またあーいうやつが来るかもしれない。土丘は考えナシのバカだったからよかったものの、今後もあんなバカな保証もない。俺だったらどうしただろう。次に来るやつはどういう風にくるのだろう――三つの懸念だけでもお腹いっぱいなのに、どーすりゃいいのもう……?


「――G」


「ピヨG!」

「……えっ?」

「電車着いたよ、降りる降りる!」

「あっ、う、うん」


 叡智さん向けには、小谷君を襲った暴漢が再び現れ、パパと格闘の末、パパは投げ飛ばされて気を失ってしまったが――その後暴漢は騒ぎのどさくさで逃げてしまったと伝えてある。今はまだ、犯人が土丘であることは明かしていない。


 犯人が明るみになれば、彼が行方不明になっていることから”俺たちが何かした可能性”に結び付けられてしまう。ならば――それを知っている小谷君の口も、いずれは……


 そんな暗い考えに反して、電車を降りた先は目が眩むほど眩しい――快晴だった。


「うわぁいい天気! 絶好の野球日和ってやつじゃね! ね! ピヨG♪」


 今日はやたら俺に絡んできてくれるな……きっと悩みの雰囲気を感じ取っているのだろう。いかんいかん! こんなことでは―――切り替えるぞ、切り替え!!


 パシンと一つ、顔を叩いた。


「ホントだね! あ! 茂部くーん! こっちこっち! 今日も試合の解説ぜひ頼むよ! ね! 聞きたいよね、叡智さん!」

「おー! それいいねーピヨG冴えてるぅ!」

「うぇーい俺も聞きたい聞きたいww」

「あーしも~」


 そこへ伽羅君や藤原さんをはじめ、陽キャたちが次々と加わって――

 集団が大きくなり、俺はいっきに後ろの方へ追いやられた。


 その俺の背に、最後尾を歩いてきた牛島の声がかけられる。


「魔王様……」

「失態だな、牛島」

「……ハッ。申し訳ございません……」

「口だけの謝罪はよい。次の事態を想定し、動け」

「ハッ」


 短いやりとりで、牛島はスッとまた後ろへと下がった。

 バクンバクンと心臓の音が高鳴る。

 これでなんとかなった――だろうか?


 俺は、牛島がどこまで戦えるかをチェックしていた。ブザマにもボコボコにされていたので、俺は瘴気を集めて変態できるかのテストもかねて人を集め、フォローをしてやった。

 最終的に土丘を生きたまま捕獲できたなら、なんか騒ぎがあったけどなんだったんだろうねで済んだかもしれない。しかし人ひとりが消えてしまった――そのことはいずれ明らかになる。

 だから失態だと言った――という意図を伝えたつもりだ。一応、言葉の上では素直に従ってくれたようだが――背後で彼がどのような表情をしていたかはわからない。


「ただいまより、大和高校対、日太三高校の試合を開始します」

「あ! アナウンスだ! 急げ急げー!」


 集団は学校で着替えてきているので、すでに準備は万端だ。

 学ランに鉢巻きの男子たち、チア衣装の女子たち30名弱が、一斉にバタバタとスタンドに駆け上がると周囲の注目が集まった。


「サーセン! サーセーン! 大和高校1-C応援団がお邪魔しまーす!」

「はっはっは。元気のいいお嬢ちゃんたちだねぇ」

「ちょっとうるさくするかもしれませんが、大目に見てくださーい! オス!」

「かまへんかまへん」


 和やかなやりとりのスタンド。一方、グラウンドは急激に緊張感が高まりつつあった。

 まもなく両軍の選手たちが飛び出してきて、挨拶を交わす。

 後攻である大和高校は、すぐにそのまま小谷君がマウンドに上がることになった。


 グイーッと、スタンドにいるおっさん2人組のうちの1人がカメラで彼の動きを追いかける。さらにもう1人はスピードガンを構えた。


「茂部くん茂部くん、あそこのおじさんたちさ……あれってもしかして、スカウト?」

「お、気づいたか佐藤。たぶんな。一、二回戦連続完封で合計40奪三振。打っては5打数5本塁打――一気にプロの注目を浴びてもおかしくない」


 ということは、スカウトだけではなく、当然相手チームもその情報は承知のうえだろう。はたして一、二回戦のように楽に勝たせてくれるか……


 俺なら、どうする。


 まず、絡め手を使うだろう。何も小谷君と正面から戦う必要はない。彼が打者のときの答えは簡単。一打席も勝負しなけりゃいい。それだけで彼の得点力は0になる。投手のときは……即座に即効性のある対策は難しいかもしれないが、彼の球を打ち返せないならバントとか……捕手をゆさぶって捕球ミスを誘うとかだろうか。


 先頭打者は、不気味なほど手を出してこない。一球目を見逃し、二球目も見逃し。三球三振かと思いきや、カットで逃げる。さすがにこのレベルになると、一振りで当ててきた。

 その次の球もカット。さらにその次もカット。6球目――高めに浮いた球に一瞬ピクリと手が動きかけるが止まる。が、そこからストライクゾーンに落ちてきた。


「ットライーク! アウッ!」


 ワァッと大和側スタンドが沸いた。


「見た!? 見た!? 先頭バッター三振だよぉ!」

「いいぞー小谷―!!」


 と、歓声が沸き上がる中。


「どう見ますか? 解説の茂部さん」

「ハイレベルな攻防だと思います。一番打者は球数を投げさせて、変化球も引き出した。役割は果たしたと言えるでしょう。一方、キッチリ三振で仕留めた小谷も見事」


 スカウトらしきおっさん達の方を見てみると、二人でスピードガンを二度見、三度見しながら顔を見合わせている。


「何キロだったんすか~?ww」


 と、伽羅君が馴れ馴れしく見に行った。知らない人への陽キャのコミュ力は頼りになる。


「一球目が147、二球目が146、三球目が151、四球目が150、五球目が153、六球目はフォークで130……だってさww」

「ひ……ひゃくごじゅうさん!!!??」

「あいつのタマそんなはやかったんかぁwww」

「ばやww プロやんwwww」


 スカウトらしきおっさんたちから得た情報が共有されると、クラスは大騒ぎになった。

 すごい。小谷君もすごいが相手もすごい。球速を見るに、様子見から入って三球目で三振を取りにいって明らかにギアを上げた。そのギアを上げた球を一振りで合わせてきたのだ。


「こりゃ一筋縄な相手ではなさそうですね、茂部さん」

「ほう……なかなかの観察眼をお持ちで、佐藤さん」


 俺と茂部君は、応援のことをすっかり忘れて分析者モードに入っていた。


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