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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
32/41

032.「完全変態」

 公園に到着すると、まさに今、牛島が土丘にいたぶられている最中だった。


 ゴォン、ゴォンと繰り返し打ち鳴らされる鈍い音。

 信じられない……あいつが……あそこまで一方的に弄られるものなのか……


 こちらの攻撃は一切通用せず、敵の攻撃だけが好き放題に当たり続ける。

 思い返してみれば、ゲームの計算式はだいたいそんな感じだ。レベル差が40近くもあれば、”攻撃側の攻撃力-防御側の防御力=ダメージ”という、RPGなどでよくある方式では計算結果が0を下回りダメージを与えることはまったくできなくなる。


 ……だったら、魔法防御力の方はどうだよ?


 ジャリジャリと歩みを進め、土丘の前に姿を現す。


「……んあ?」


 こちらに気づいた土丘は、牛島の首元を掴み顔が原形をとどめぬほど膨れ上がっても殴り続けていた手を止めニタニタと破顔した。


「よーお魔王サマ!! 会いたかったぜェ。まさかそっちからおいでなするとは」

「土丘君……もうやめよう。キミの勝ちだ。まいった、強い」

「……プッ! そりゃやめようも言いたくなるわな。魔王サマ……なーーーにが魔王だ!! レベル0……!? 見たことねェレベルの雑魚じゃねェかよww そりゃーユッキーに体力測定で負けてっくらいだしなぁww」


 あぁ、言いやがった。後で牛島になんて言い訳しよう。だがそれはまた後の話。今は目の前の問題解決が最優先だ。


「そう、全部嘘なんだ。俺自身には何の力もない。だからもう先生をボコった時点でキミの完全勝利だよ。もうあのクラスはキミのものだ。その力を見せれば叡智さんもきっとキミにホレちゃうよ。だってあの子、小谷君が野球めっちゃ上手いのが好きなんだし。キミがクッソ強いの見せたらホレるって」

「そうかそうか、まぁそうだろうなぁww」

「でも一つ疑問がある。どうしてその力、もっと早い段階で見せなかったの? 体力測定のときも小谷君がすごい数値連発して盛り上がってたけど……たしかキミの記録は大したもんじゃなかったはず……」

「……ハッ。ガッコの測定なんかでマジんなれっかよ、ダッセェ。ガキじゃあるめーし」


 ウソこけ。強けりゃホレると、あの子をそんな子だと思ってる時点でお前は人の気持ちを想像もできない、観察眼もない、正真正銘のガキだ。お前みたいなガキが持っている力を誇示しないわけがない。


 明日辺や牛島は生来前世の記憶を持っていた様子だ。あちらの世界からの転生者は、俺の知る限り今のところ「力を生まれ持っている」。

 一方でコイツは、あるタイミングでそれに目覚めた。与えられた。それも今年の5月以降――俺が勇者や牛島と出会ったひと月後というずいぶん都合のいい時期に。これは偶然か……?


 何者かの意思が働いている状況を想像する。


 思い当たるトリガーは……そう。勇者と牛島が戦ったこと、だ。入学直後、あの2人は俺のせいで早々に激突した。2人の戦いが始まったことに端を発し、何者かが新たな要素を投入してきた。


 何のために……?


 わからない。何一つわからない。とにかく何とかして本人から話を聞き出さなければ。


「女神アドナ――」

「んあ?」

「キミに力を与えたのは、そう名乗る神だね」

「はぁ……? んなの知らねーよ」


 この反応――嘘は言っていない……? ますますわからない。女神でないなら誰だ? 誰が何の目的でこんなことをする?


「何を探る気なのか知らねーが、テメーには関係ねーよ。ここで死ぬんだからな!!」


 牛島の手を放し、ダッシュしてくる土丘。姿を捉えることはとても叶わなかったが、とにもかくにも横っ飛びする。十分時間はかせいだ――やれ、牛島!


 土丘が俺のいた地点に到達した瞬間――


「アポストルランサー!!」


 牛島の手が紫色に光り、同時に土丘の足元から巨大な槍が出現し彼を空の彼方へと持ち上げた。次いで――


「我、虚空に捧げしは恒久なる咎人。漆黒の扉は今開かれん。千の魔槍で貫け、冥府に蠢く者どもよ――!」


「――スキュアリング・ジャベリン!!」


 次々に空中に出現する魔法陣。その四方八方から槍が投擲され、空間が埋め尽くされた。

 大型の爆弾が爆発したかと思うほどの衝撃と音の波が襲い掛かる。


 や、やりすぎだ、牛島……これは……さすがに死ん――


「うはははははははは! なんじゃこりゃ! なんじゃこりゃ! おもれぇーーーーwwww」


 絶望的に不快な笑い声が聞こえてきた。


 空中から降り立ったのは、ほとんど無傷の土丘。


「今のは、なかなか面白かった。10のダメージ……ってところかww」

「はは……10……10か……参考までに聞いてもいい? MaxHPはいくつ?」

「さぁ~9999くれーじゃね?ww」


 FH式かよ。せめてドラクオ式にしておいてくれよ。


 もうこちらの手はないと踏んだか、ジャリ、ジャリ、と余裕の足取りでこちらへ近づいてくる土丘。


「え、あ、えーとえーと……あとなんだ、あとはあとは……」

「くはは、必死だなww」


 目の前で、ブゥンと腕を振り上げる。


「ちょ、ちょ、ちょ、まっ……あとなんか俺に聞きたいことない!?」

「あ~? 別にねェ――」

「キャーーーーッ!!」


 突如、悲鳴が上がった。


「おいお前! そこで何してる!」

「なんださっきからあの音は?」

「あっ、いた! おいあそこ見てみろ! マジでいるぞ怪物!!」

「やっばww Zにアップしなきゃww」


 ついで、ゾロゾロとやってきたのは警官、野次馬、近隣住民などなど多数の人間たち。


「はぁ~……ギリ間に合った……」

「……てめェ!!」

「俺の勝ちだよ土丘」

「……ッハハハハハハ! マジで!? お前心の底からアホだな!? あのウジ虫どもが束んなりゃ俺様にかなうとでも思ってんの? あーあ、やっちまったなお前。コレ、お前が悪いんだからな……死者100人超……前代未聞の大惨事だわ」


 ゴキゴキと骨を鳴らしながら人々の方へと歩いていく土丘。

 バーカ、よく見ろ……野次馬たちが誰を見ているか。俺はあらかじめZ――SNSに怪物に変身した牛島の姿を投稿しておいた。やつらが見ているのは牛島の姿だ。

 警察には公園で少年が暴漢に襲われている、と通報してあるが、当初は俺に襲い掛かる暴漢に目を奪われていた警官たちも次第にそっちの方に目を奪われていっている。

 人々の注目は、すべて牛島に注がれつつあった。


 野次馬の近くまでやってきた土丘。しかし野次馬はロクに彼を見もせず、あらぬ方向を向いている。


「おい……おいオッサン! どこ見てんだよ! 俺様はこっち――」

「ひ、ひぃぃぃぃっ……! あれ……アレを見ろっ!!」

「あぁん……?」


 そこには、ゴキゴキと骨格を変化させながら、これまでかろうじて人型を保っていた夜叉の如き怪物が、四足歩行の巨大な獣へと変身していく姿があった。


 やがて翼が背中を突き破ると――グガランナは完全変態を完了した。


「な……なんだありゃ……レ、レベルが…………」

「ブモォォオオオオオオオッ!!!!!」


 咆哮。その音圧だけで周囲の人々が吹き飛ぶ。


「わわ……わっ…………おわぁぁぁぁぁぁああああッ!!!!」


 たまらず背を向け逃げだす土丘。その背に一瞬で怪物が迫る。たったひと羽ばたき――

 その衝撃で周囲の木々はなぎ倒され、公衆便所が倒壊し、池の水が干上がる。


 ズグン、と、彼の脇腹に鈍い衝撃が走った。


「あ……あ……あうあうあぅああああああッ!!??」


 思わず腹を押さえようとすると、なにか長いものが飛び出ている――グガランナの角だ。


「ゴ、ゴボボ……」


 怪物に突き上げられながら、血と臓物をまき散らし天へと昇っていく土丘。やがてヒトと認識できるその姿は、どこにもなくなった。


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