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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 1.「目覚めし者たち」
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003.「友達100人計画、始動」

 念願の友達は、さっそくできた。それも2人も。


「デュフフフフ、佐藤氏、御宅氏。それではいざ参ろうか、漫画研究部へ!」

「そうでござるな、露里氏、佐藤氏!」


 いや悪くない。2人ともいいやつだし漫研が悪いってことでもないんだけど……でもなんか違うんだよなぁ~!? 俺、軽音部とか~運動部とか~なんかこうもっとキラキラできそうな部に入ったり~叡智さんみたいな可愛い子とキャッキャウフフしたり~……


 ハッ、と、自己紹介の日の光景が思い浮かんできた。


 俺の発言を恥ずかしいやつと決めつけあざ笑っていたやつらと、俺の発言を理解しようとしてくれた叡智さん。俺は今、やつらと同じことを考えているんじゃないか……?


 俺は小さいころから漫画を描くのが趣味だった。あのときとっさに名前が出た魔王スペルヴィアは、実際に漫画に描いたキャラクターだ。

 想像するのは楽しい。頭の中に新たな世界を作り出し、そこに生きる人々を作り出し、想像し、創造する。その頭の中だけの世界に魂を込めるのが「絵を描く」という作業だ。


 そうさ、恥ずかしくなんかない。俺はこの「世界を生み出す」作業の素晴らしさを、いつか叡智さんに説明してみたい。


「……佐藤氏?」


 立ち止まっている俺を訝しむ2人。


「あぁ、悪い悪い。今行くよ」


 迷いを断ち切り、新たな一歩を踏み出した。


 ――漫研の部室。


 ガラガラと扉を開けると、そこには一人知った顔があった。


「失礼します! 1年C組、御宅です!」

「同じく露里です!」

「あ、さ、佐藤です」


 さっきまでデュフフとか言ってたやつらも、初対面の人たち相手だと普通に敬語になるんだな。


「やぁやぁ入部希望かい? 歓迎するよ。いや~今日は大盛況だな!」


 部長らしき人が喜ぶ。大盛況というのは、先客がいたからだろう。一足先に入部体験に入っていたのは同じクラスの……えーと……そう、神宮時さん。神宮時 杏奈さん。

 後ろの席なんだけど目立たない子で、俺のすぐ隣の席にまばゆい光を放つ叡智さんがいるせいもあって余計に影が薄い。失礼ながら、今初めて存在を認識したといっても過言ではないほどだった。


 こちらに気づいた神宮時さんは小さくペコリと会釈すると、会話をするでもなく作業に戻ってしまう。ちょっと話しかけづらいな。


 御宅と露里はそれを気にする風でもなく、部員たちの作業の様子を興味深げに眺め始めていた。いかんいかん。見習わないと。

 そう、友達100人計画は考えはしたものの、友達を作ることが目的ではない。それは結果だ。目的は学生生活を目いっぱい楽しむこと。何かに取り組んだ先に、仲間との絆が生まれるはずだ。


 部室内を見渡すと、いろんな過ごし方をしている人がいる様子だった。ある人は一心不乱に絵を描き続け、ある人は指導を受けながら練習をし、またある人は週刊誌を読みふけっていた。


「あの……」

「ん? あぁ失礼。僕は布所 博。我が大和高校漫画研究部の部長さ。何か質問かな?」

「はい。この部の活動って、いったいどんなことをするんですか? なんか、漫画読んでる人とか描いてる人とかいろいろいますけど……」

「あぁ。あれね。一言でいうと、自由、だよ。その名の通り、我が部の目的は漫画を研究すること。描いてもよいし、漫画を読んでなんらかのテーマに沿って論文を発表してくれてもよい」

「ろ、論文発表……?」

「そう身構えなくても大丈夫だよ、そんな大それたものじゃないから。でも物事は結果をアウトプットしなきゃ意味がないと思っていてね。そのためには描く人には描いた結果を、読む人には読んだ結果を発表してほしいと思っている」

「なるほど……」

「あとはそうだね。個人活動とは別に、部としては文化祭で部誌を配布したり、作品の展示を行ったりするから、大きくはそこに向けた活動をしていくことになるかな」

「へぇ~……」


 なかなかしっかりしてそうな部だ。


「佐藤くんは何がしたいとかあるかな?」

「あ、ぼ、僕は……漫画描きたいです。でも我流で。ちゃんと勉強したこととかないですんで……あそこの人みたいに教えてもらいながら練習したりもできますか?」

「もちろん! 部員のスキルレベルもさまざまだからね。上手い人は初心者の人に教えてくれたりもするよ」

「あそこで一心不乱に描き続けている人は……?」

「あぁ、彼は賀地目くん。我が部のエースさ。彼はSNSでちょっと有名な絵師でね。今は夏コミに向けて執筆中なんだ。でも年中忙しそうにしているからあまり邪魔しちゃいけないよ」

「はえ~すっごい……」


「もしよかったらキミも何か描いていくかい?」

「えっ。いや、僕はまだその……」


 急に振られてあたふたする。すると部長の目が光り、ガシッと肩をつかまれた。


「佐藤くん! 恐れてちゃダメだ! 絵は、人に見せなきゃ始まらないよ……! 大丈夫、恥ずかしくなんてないさ。今上手じゃない部分があったとしても、ここをこうするともっとよくなるよと僕が指摘してあげられるかもしれない。入部の有無はともかく、それだけでもキミにとっちゃ今日ここに来た意味はあったと、収穫になるはずだ」

「……は……はい……」


 押し負けて描き始めることになった。

 神宮時さんの隣に座る。


「へへ……隣、邪魔するね。よ、よろしく……」

「どうも……」


 はじめてまっすぐ顔を見た瞬間、息が詰まった。


 ――美しい。


 人形と見紛うような、非現実的な美しさ。人は見る姿勢でここまで印象が変わるのか。いつもうつむいていた彼女の顔をまともに見たこともなかったが、こうしてみて初めてそれに気づかされた。


 それにしても、なにもかも正反対だな。叡智さんとは。健康的な小麦色の肌、明るい金髪、凹凸のはっきりしたボディライン、それを隠そうともしない短いスカート。彩るは大小さまざまなアクセサリー。そんな彼女とは対照的に、神宮時さんは陶器のように真っ白で、長い黒髪はいっそうそれを引き立てる。一方で服装は野暮ったくまったくもって地味だった。


「……何か?」

「あ……いや、なんでも」


 いかんいかん。めっちゃまじまじと見てしまった。

 気を取り直して机に向き直る。さて……何を描こうか? やっぱり、アレかな。


 頭の中で想像を巡らせる。己の理想。最も強く、最も聡く、最も気高い、闇の覇王。魔王スペルヴィアを、一番いい角度で描いてやる。


 しばし、沈黙が場を支配する。カリカリと、鉛筆が机を走る音だけが続いた。


 ――完成。


「できました、部長!」

「おっ、早いねぇ。先に描き始めた神宮時さんより早く完成するとは」

「へへっ、まぁ、昔からめちゃくちゃ描いたキャラなんで」

「ふむ……いい雰囲気出てるね。これって、画風は皆月先生に寄せてる?」

「わかります? 漫画描き始めたの、先生の月下の剣の影響なんで」

「なるほどねぇ~。いや、結構上手だと思うよ。全然人に見せられるレベルだと思う」

「ホントッスか!?」

「ホントホント。でもそうだね、2つ指摘するなら……1つ。この顔、鏡で見てみると~……?」

「……!?」


 鏡に映されると、いい感じだと思っていた顔のバランスが、とたんに変に見えてきた。


「わかるかい? 左右どちらから見ても違和感ないように顔のバランスを練習するともっと上手になる。2つめは、体のバランスだ。こうやって骨格を描いてみると……」


 ゲッ。なんだこの奇形児は。この足、どっから生えてるんだ? 少しは自信あったのに、どんどん恥ずかしくなってきた。


「いやいやそう縮こまることはないよ、佐藤くん。キミの絵は現時点でも十分人に見せられる。ただ見る人が見ればわかる違和感も確かにあるんだ。それをなくせるように人体の基本を学んだり、描き方のテクニックを学んだり、ぜひしていこうよ!」

「部長……はい! ぜひ、お願いします!」


 俺はその場で入部を決意した。この人の下で修行すれば、俺は誰に出しても恥ずかしくない絵が描けるようになるかもしれない……!!


「お! それは……入部とみなしてよいですね!?」


 部長が俺の絵を机に置き、ウキウキで奥の方へ入部届を取りにいく。神宮時さんが横目でチラリと見てきた――その時。


「えっ!?」


 ガタン、と、彼女は椅子から転げ落ちた。


「!? ど、どうしたの神宮時さん。大丈夫?」

「……え……な……なんで、あなたが……ニグレド様を……!?」

「……ニグレド……?」


 手を差し伸べながら訝しむ。彼女はハッ、と正気に戻ると、その手を取ることはなく立ち上がった。


「あ、い、いえ。何でも……」


 静かな部室内で突然の大きな音。部屋中の視線が集まる中、御宅が最初に寄ってきた。


「ナニナニ佐藤氏、このキャラクターはニグレドというのでござるか?」


 ついで露里も寄ってくる。


「ん~……中二丸出しでござるなww 黒髪に黒いマント、そして名前ww」

「お前ら笑うな! いいじゃねーか、人は誰しも己の中に中二という獣を飼ってるんだよ! あと、そのキャラの名前は魔王スペルヴィアだ」

「それって佐藤氏が自己紹介で言ってた、かの有名な……!!」

「うおおおお! これがスペルヴィアのご尊顔でござるか!! しかし佐藤氏とは全く似てないでござるなww」

「お前ら言いたい放題言いやがって……後で覚えとけよ。お前らの絵もしっかり見てやるからな」

「オウフ……」


 御宅と露里の絵は、あんまり上手くなかった。


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