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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
25/41

025.「恥ずかしいところを見せ合っているですって…?」

 七皇子駅から川の方へ向かって20分弱歩いたところにある、それなりに築年数のいった微妙なマンションの一室……それが、俺の家だった。


「ただいま~」

「おじゃましゃーす! ふぃ~けっこー歩ったね~!」


 自室に入ろうとすると、すりガラスの奥の人影がガバッと振り向き、勢いよく扉が開いた。


「……………!?」


 母だ。しばし言葉を失い固まると――


「い……いらっしゃ~い! まぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁまぁ! よくこんな遠いところまで! も~雀次郎! お友達来るなら言っときなさいよ! ごめんなさいね汚くしてて! ちょっとお掃除するから中入っててちょーだいね! オホホホホホホホホ!」

「あざーす! おかまいなく!」


 部屋に入った。


 まもなく、ブォーンと掃除機の音が鳴りだす。並行してガサゴソと散乱する物をあっちにやったりこっちにやったりしはじめるとともに、父に電話をかけはじめた。


「ちょっとあなた! 事件よ事件! 雀次郎が女の子を連れ込んで! ……え? 何のんきなこといってんの! 3人よ3人! 4Pよ!? みっちょんみたいなどえりゃーべっぴんさんまでいて! あなたホラあれよあれ――ドセールおフランスのケーキ買って帰ってきて! え? 6個に決まってるでしょ! 4Pよ4P!?」


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 クソババア……全部筒抜けなんだよ。

 耳まで真っ赤になりながらうつむく。


 叡智さんは床を転げまわって笑っている。


「ご……ごめんねウチの母さんが」

「や~おもろww ピヨじろと全然イメージ違うねぇww」

「あんな元気なお母さん初めて見た~」


 母はいつまでも掃除をしていて何か持ってきてくれる様子はない。バカ。


「あ~なんか、俺飲み物持ってくる。ちょっと待ってて」

「あざまる~!」


 食器棚からコップを取り出し、冷蔵庫からお茶を取って注ぐ。お盆を探して見つけて乗せると、部屋に向かって歩き出す。ふと、嫌な予感がした。


 彼女が……果たして静かに待っているだろうか?


 少し足を速めて部屋に戻ると、案の定……教科書の下に隠していたものの、机の上に出しっぱなしになっていた練習絵を見られていた。


「わぁ~っ!」


 慌ててお盆を床に置き、ドタドタと走って叡智さんの手から紙を取り返す。


「……み、見~た~な~……」

「ピヨじろ……コレもしかして……お主が描いたんか!?」

「うぅ……まだ見られたくなかった……そーだよ」


 男女の裸体をさまざまな角度、さまざまなポーズで描いた練習絵。

 よりによってこれを見られるとは……


 しかし、彼女の反応は予想とは正反対だった。


「うま~~~~~っ! えなにこれやば! プロくね!?」

「ほんとだ~すご~い」

「あんにゃんもこんくらいイケる系!?」


 自分に振られたことすらわからず、ボーッとしている神宮時さん。


「神宮時さん……あんにゃんって、キミのことみたいだよ」

「え……? えぇっ? い、いえ、私は……全然……」


 気づくと、手をブンブンと振って猛烈に否定した。


「んーホントにぃ? あ、ねねピヨじろ、紙貸して紙!」

「あ、はい」

「あーしも描けるよ! フフッフフ~フフッフフ~ン♪」


 渡すと、立ちながら机にもたれかかり、鼻歌まじりになにがしかを描き始めた。


「でーきた! ほれっ!」


 渡されて手に取ると、山田さんも覗き見てくる。


「あっこれ……」

「キュンプリのルビーとサファイアだ~上手~い! えユッキーなんで描けんの?」

「ふっふっふ~JSんとき描きまくったかんね」


 と、自慢げにVサイン。


「はい、じゃ次まりあンヌの番~! なんか描いて描いて♡」

「おぉうキラーパス」


 なるほど、それがキサマの策略か……察した俺は。


「神宮時さん、ちょっと悪いけど母さんを手伝ってきてくれる?」

「あ……はい」


「ほ~いできた」

「お~でかきもだぁ! 流行りに敏感だねぇ」

「ややや。でかきもくらい誰でも描けるっしょ~」

「はい、それじゃ次はあんにゃ――ん? おらんっ!?」


 やっぱりこうなったか。逃がしておいて正解だった。


「ちょっと2人とも……」


 耳元に呼び寄せるしぐさをすると、2人は耳を差し出してきた。なかなかに刺激的な光景だ。ま、今はそれは置いといて……


「神宮時さんは、ぶっちゃけ絵めっちゃ下手なんだ……あんま振らないであげて」

「ま……漫研なのに? ゴメン調子乗ったわ……りょ!」

「りょ~」


 少しフォローもしておくか。


「まぁ俺も少しは上達した今だから見られてもダメージ少なくて済んだけど、中学時代のだったらキツかったと思う。神宮時さんも今はまだアレだけど、きっとすぐ上達するよ」

「んなこといって~前から相当上手かったんじゃないの~?」

「見る? 今ならもう見せてもいっか」


 俺は机の引き出しに封印されしブラックノートを解放することにした。

 冊子の表紙に描いてあるイラストを指して見せる。


「はい、これが中3のときのやつ。こっちが小6のときのやつ」

「ふんふん、へぇ~……ホントだ。小6と中3……それに中3と今の絵の間でダンチに上手くなっていってる……!」

「でしょ。中学までは趣味で1人で描いてるだけだったけど、高校で初めて部活に入って、人に絵を見せたんだ。そこで部長にいろいろ指摘をもらって……今もまだ練習中だけど、どんどん上手くなっていってるのが実感できて……毎日が楽しいよ」

「ピヨじろ……超ピカッてんね~!」

「?」


 たぶん、褒めてくれてる。

 のほほんとしていると、突如山田さんがパンドラの箱を開こうとした。


「ところでピヨっち~。このノート、開いて中を見てもよいのかな?」

「いかんッ!! ダメだ、開くな! 死ぬぞッ!!(俺が)」


 慌てふためく中、ちょうどいいところに神宮時さんが戻ってくる。


「あ、神宮時さんも戻ってきたことだし、ホラ、絵の話はこれくらいにしてアニメとかゲームを――」


 言いかけたその時。彼女は――


「ニ……ニグレド様ッ!!」


 と、駆けだしてくると、山田さんが手にしていた魔王スペルヴィアが表紙の中3時のノートを奪い取り――そして容赦なくその中身を開いた。


「あっーーーーーーー!!」


 慌ててギャル2人の頬をグイーと押し、反対側を向かせる。


「ちょちょちょちょ! ストップ! ハウス! あかんて! ホンマあかんて!」


 必死に止めるが、その声はまるで耳に入っていないかのように無心でページをめくり続ける。やがて、少女の頬に涙が伝うのが見えた。


「……佐藤さん」

「は、はい?」

「このノート……私に譲っていただけないでしょうか……」

「……はぁ!?」

「お願いします……」


 こんな真剣に懇願されては断るのも気が引ける。それに、ギャルに見られるよりかは同類のこの子に見られる方がまぁダメージは少ない。


「わかった……わかったいいよ! あげるから、そのノートはやくカバンにしまってくれ」


 ずーっと2人の頬を押していると、押されているままムニムニと叡智さんが喋る。


「むぅ……ずういぞあんにゃん……」

「わかってくれ叡智さん……あのノートの中は俺の恥部。これは自分の恥部を公衆の面前でおっぴろげるが如き行為……とても耐えられるものではない」

「しょっか……しょへならしょーがにゃいにゃ……」


 わかってくれたか。2人の頬を離す。


「しかーし! ピヨじろの恥部を存分に堪能したあんにゃんだけノーダメなのは不公平なのではないかな!?」

「お~そのとおり~」

「!!」


「そ~れあんにゃんの、ハズいところを見てみたい!」

「あそ~れあんにゃんの~ハズいところを見てみたい~」

「あ……え……う…………」


 助けを乞う目で見てくる。が――

 許せ神宮時さん……俺はもうキミをかばう言葉を持たない。


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