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我、魔王スペルヴィアなり!!  作者: 黒っち
Phase 2.「熱い夏」
24/41

024.「叡智襲来」

「魔王様、ちょっとよろしいでしょうか」


 ――放課後。


 いつもは早朝に会議する牛島だが、珍しく放課後に声をかけてきた。

 クイ、と顎で外を指し、教室を出る。場所を探して、結局生徒指導室に入った。


「なんだこんな時間に」

「はっ。申し訳ありません。実は……勇者のことなのですが」

「ヤツがどうかしたか? 最近は特に絡んでくることがないが」

「ハッ。私も気になってヤツの動向を調べていたところ、妙なことがわかりまして……」

「妙なこと」

「これです」


 スマホで写真を見せられた。


 そこには、家族と思われる中年の男女、高齢の女性とともに、彼が何かの施設に入る場面が映されていた。


「これがどうした?」

「はい。この施設がなんなのかというと、こういうものなのです」


 クイクイとブラウザを立ち上げ、検索をする。

 出てきたのは――”世界平和教会”。


「う……うさんくせぇ~……」


 思わず素でこぼす。


「ゴホン。で、これがなんだというのだ」

「気になりませんか? 勇者といえば神の使徒。神と言えば教会。聞くところによるとヤツの聖気は”信仰” が力の源だとか。ヤツめ弱体化した自身の聖気を強化する気では……」

「ふむ……」


 重要な情報だ。信仰がヤツの力の源なのか。


 それが自らの内から湧き出るものなのか、周囲の空間から吸収するものなのかわからないが、前者ならばヤツの内面の問題だ。わざわざ家族で教会に行く意味がわからない――後者だろうか。


 勇者は自らの力が弱まっている原因は信仰の概念が弱まっている現代社会にあると考え、布教に力を入れようとしている……ということか。ずいぶんと気の長い計画だ。


 ならば対になる瘴気の力の源は、さしずめ”恐怖”といったところか?

 明日辺よ、いくら宗教を広めようとしても無駄だぞ。なぜなら、信仰とは恐怖に対抗するための力だからだ。まず先に”恐怖”があり、その後に”信仰”が生まれる。世界で最も死に縁遠い国の一つであるこの日本で、万民に信仰を広めようってのは無理な話だ。


 万一信仰が広がる状況があったとしても、それは魔王軍がそれ以上に強くなっているということを意味する。たぶん。

 だから大丈夫、ヤツがなにをしようと、現状のパワーバランスはそうそう崩れないだろう……たぶん。


「しかしこの世界の神とあちらの神では信仰する対象が異なるのではないか? これが意味のある行為なのかは疑問だな」

「はい、確証はありません。が、黙って見過ごせるコトでもないかと思われますが……」

「フン、そこまで脅威か? ヤツの力は」


 ズズ、と、差し出された茶を飲みながら吐き捨ててみせる。

 そういえば俺は勇者の攻撃魔法をまだ見たことがないな、とのんびり考えていると――


「ヤツが本来の力を取り戻せば、その一撃は核を凌駕します。今の我々には回避する術はありません」

「ブーーーーッ!!!」


 茶をすべて噴出し、対面の牛島の顔にぶちまけた。


「阻止! 断固阻止だ! 引き続き追跡し、詳細なデータが手に入り次第再度報告せよ!」

「御意!」


 ――


 会議を終え、教室に戻る。

 扉を開けると――


「あ! ピヨじろ戻ってきた~♪ おーっすこちこち!」


 いつものように叡智さんの席にたむろしているギャル集団。

 クイクイと手招きされる。


「え、な、なに?」

「例の話、今日でど!? 行ってい!?」

「例の話……行く? あ、俺の家に?」

「いーーーえーーーっす!」


 キョロキョロとメンバーを見渡す。


「え、もしかしてこれ、みんなで?」

「いや~さすがに突然こんだけで押しかけたら迷惑っしょ! まりあンヌだけよん♪」

「よろよろ~」

「あ……山田さんね。一度遊んでるから俺としてもちょっと安心だよ。そういうことならよろしく」

「んじゃ行こっか! 途中までみんなで帰るべ!」


 全員で席を立つ。うへぇ、3人ならまだしも、10人近いギャル集団の中にオタク一人は、あまりにもアウェーだ……。


 そう思いながら教室を出ようとすると、まだ席に座っていた神宮時さんが意を決したように立ち上がった。


「わ、私も――!」

「ほ?」


 想定外の声に目を丸くした叡智さんが外から教室内をのぞき込む。


「あ、あの……私も行って、いいですか……」


 うつむき、恥ずかしそうにモジモジしながら、消え入りそうな声で話す黒髪の少女。しかし叡智イヤーは一言一句を聞き逃さなかった。


「WowWowWowWow! いーじゃんいーじゃん! いーっしょいーっしょぉ! よくね!? ピヨじろオナカツっしょ!? いーんじゃね!?」

「あ、あぁ。いいけど……」


 同じ部活とはいえ、彼女とはそんなによく話すわけではない。一緒に遊んだこともないし、いきなり家に来ると言われるのはちょっとビビるが……


 おそらくニグレドのことで気になることでもあるのだろう。ちょうどいい。こちらとしても彼女の正体は気になっていたところだ。


 帰路――ギャル集団と地味子、そして陰キャ男子という異色の組み合わせがゾロゾロと歩く。

 駅前の繁華街を通るとチャラ男がナンパを仕掛けてくるが、慣れたものでギャルたちはサラッとスルーしていく。


 ――少し、違和感を覚えた。


 前から思っていたのだが……クラスメイトも、部活のメンバーも、そしてナンパ男たちも……不自然なほどに、神宮時さんに触れない。


 叡智さんは確かに突出した美少女だ。周囲のギャルからは頭3つくらい抜けている。しかし、個人的には神宮時さんはルックスだけならそれよりさらに上と感じる。絶世の美少女、と表現して差し支えない。なのに、ここまで誰にも触れられないものなのか……これは好みの問題なのか……?


 実は俺にしか見えていない子だったり……いやいや、ないな。フツーにさっき叡智さんが声かけてたし……漫研でも部長に課題もらって描いたりしてるし……


「――じろ!」

「!!」


 ハッ、と、気づいた。


「ピヨじろ、どっち!?」

「あ、あぁ。コッチ方面」

「だってさ! んじゃあーしらこっちだから! おっつ~!」


 半数のギャルたちと別れ、電車に乗る。


 電車が駅を1つ、また1つと過ぎていき――ギャルたちは1人、また1人と減っていく。

 俺の家の最寄り駅に到着すると、最後の4人だけが残った。


「七皇子~七皇子~」


「あ、ここだよ。お疲れ様」

「へ~七皇子か~! あんま来たことないな~。ウチのクラス誰かいたっけ?」

「誰かいたかな~……あ~土丘とかこの辺だったかも~?」

「ゲ、よりによってあいつかぁw ピヨじろダイジョブ? 絡まれてない?w」

「う、うん。大丈夫、今のところは……顔合わせないように気を付けるよ、ハハ」


 何気なくそう答えると、彼女は少し寂しそうな顔をして言った。


「でもせっかくオナクラなんだしさ~……一緒に肩組んで帰れるような関係になれっといいのにネ」

「ゆっき~その略し方やめな~」

「はは……そう……だね」


 この子のこういうところは本当に素敵だ。しかし、それはアイツに言ってくれよ、とも思う。俺には曖昧に笑うことしかできなかった。


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